テーマ:「信号機」の色は何色? ~一目でわかる評価の技術~

セクションD-5-cは、監査報告書において「評定尺度(Rating Scales / Grading)」を使用する意義とその運用に関する領域です。

監査報告書に詳細な発見事項を記述することは重要ですが、多忙な取締役会や上級経営陣は、まずこの質問に対する答えを求めます。 「で、結局のところ、この部門の状態は良いのか悪いのか?」

この問いに対し、「要改善」「不満足」あるいは「赤・黄・緑」といったシンプルな指標で答えるのが評定尺度です。GIAS(グローバル内部監査基準)環境下において、このツールを効果的に使う目的と注意点を学びます。


1. 導入:評定尺度(レーティング)とは何か

評定尺度とは、個々の監査業務の結果(結論)を、標準化されたランクやスコアで表現する手法です。

  • 記述式: 「満足(Satisfactory)」「一部要改善(Needs Improvement)」「不満足(Unsatisfactory)」
  • 数値式: 1(最高)~5(最低)のスコア
  • 視覚的表現: 信号機方式(緑=安全、黄=注意、赤=危険)

これらは、健康診断の結果表にある「A判定(異常なし)」「E判定(要精密検査)」と同じ役割を果たします。

2. 評定尺度を使用する「3つの目的」

なぜ、わざわざランク付けを行うのでしょうか? 試験で問われる主な目的は以下の通りです。

  1. コミュニケーションの効率化:
    • 複雑な監査結果を、ステークホルダー(特に取締役会)が直感的かつ迅速に理解できるようにします。50ページの報告書を読む時間がなくても、「赤(危険)」という評価を見れば、即座に対応が必要だと判断できます。
  2. 比較可能性の確保:
    • 経年比較: 「去年の購買部門は『黄』だったが、今年は『緑』になった」=改善した。
    • 部門間比較: 「営業部は『緑』だが、製造部は『赤』だ」=製造部にリソースを集中すべき。
  3. 意思決定の支援:
    • 経営陣が「どこに予算や人員(リソース)を配分すべきか」を判断する際の客観的な材料となります。

3. 内部監査部門長(CAE)の責任と運用ルール

評定尺度は強力なツールですが、使い方を間違えると組織内の摩擦を生みます(例:「なぜ俺の部署がB評価なんだ!」という反発)。 CAEは以下の責任を負います。

  • 定義の明確化と文書化:
    • 何をもって「要改善」とするのか、その基準(クライテリア)を明確に定義し、事前に取締役会や上級経営陣と合意しておく必要があります。
    • 監査人の「気分」で決めてはいけません。
  • 一貫性の維持:
    • 全ての監査業務で同じ基準を適用し、監査人によるバラつきを排除しなければなりません。
  • 根拠の説明:
    • なぜその評価になったのか、具体的な発見事項やリスク評価に基づき、論理的に説明できなければなりません。

4. 評定尺度導入のデメリット(リスク)

試験ではメリットだけでなく、デメリットやリスクについても問われます。

  • 経営管理者との対立:
    • 低い評価をつけられた部門が防御的になり、監査結果よりも「点数」ばかりを気にするようになり、本質的な改善(協力関係)が阻害される恐れがあります。
  • 詳細の看過:
    • 「緑(合格)」という評価だけを見て安心し、その中に含まれる「小さな(しかし重要な)指摘事項」が見過ごされるリスクがあります。

5. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「評定尺度の導入はGIASですべての内部監査部門に義務付けられている」
    • 解説: 義務ではありません。効果的なコミュニケーション手法の一つとして推奨されていますが、導入するかどうかはCAEと取締役会の判断によります。
  2. ×「評定尺度は、被監査部門の管理者の人事評価(ボーナス査定など)に直接連動させるべきである」
    • 解説: 非常に危険です。これを行うと、管理者は監査で不備を隠そうとするようになり、内部監査の本来の目的(改善)が果たせなくなります。
  3. ×「評定尺度の定義は、監査業務ごとに柔軟に変更すべきである」
    • 解説: 比較可能性を損なうため、NGです。組織全体で統一された定義(一貫性)が必要です。

まとめ

セクションD-5-cのポイントは、「共通言語化」です。

  • 目的: 難しい監査結果を「誰でもわかる言葉(ランク)」に翻訳し、経営陣のアクションを促すこと。
  • 注意点: 「なぜそのランクなのか」という定義を明確にし、点数争いではなくリスク管理に目を向けさせること。

【練習問題】パート3 セクションD-5-c

Q1. 内部監査部門長(CAE)は、監査報告書に「満足」「要改善」「不満足」という評定尺度(レーティング)を導入することを検討している。この手法を採用する主な目的として、最も適切なものはどれか。

A. 監査人の作業時間を短縮し、詳細な報告書の作成を省略するため。

B. 被監査部門の管理者の給与査定を容易にし、人事部への報告を簡素化するため。

C. 監査結果の重要性をステークホルダー(特に取締役会や上級経営陣)に直感的かつ迅速に伝え、経年変化や部門間の比較を可能にするため。

D. 外部監査人が財務諸表監査を行う際に、内部監査人の評価をそのまま利用できるようにするため。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 評定尺度を使用する最大のメリットは、コミュニケーションの効率性と比較可能性です。多忙なステークホルダーに対し、監査対象の状況(健全性)を一目でわかる形で伝え、過去や他部門との比較を容易にすることで、適切な意思決定(リソース配分など)を支援します。

不正解(A): 評定尺度を用いても、その根拠となる詳細な発見事項や報告書の作成義務は省略されません。

不正解(B): 監査結果を人事考課に直結させることは、被監査部門の抵抗や隠蔽を招く恐れがあり、慎重であるべきです。主たる目的ではありません。

不正解(D): 外部監査人との連携は重要ですが、評定尺度の主目的は内部ステークホルダーへの報告です。


Q2. 監査報告書において評定尺度(例:数値によるスコアリングや色分け)を使用することの潜在的なデメリット(リスク)として、最も適切なものはどれか。

A. 経営陣が監査結果の全体像を把握するのが難しくなる。

B. 被監査部門の経営管理者が「評価(点数)」そのものに固執し、リスクの改善という本来の目的よりも、監査人との点数交渉に終始するようになり、防御的な態度をとる可能性がある。

C. 評定尺度を使用すると、個別の発見事項を報告書に記載することが禁止されるため、情報の完全性が損なわれる。

D. 取締役会が詳細な報告書を読まなくなるため、CAEの報告時間が削減される。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): これが評定尺度導入時の最大のリスクです。明確なランク付けを行うと、被監査側は「悪い評価」を恐れ、監査人に対して防御的・敵対的になることがあります。結果として、率直な議論や協調的な改善活動が阻害されるリスクがあります。

不正解(A): 逆に、全体像の把握は容易になります。

不正解(C): 評定尺度を使用しても、個別の発見事項は併せて記載・報告されます。

不正解(D): 報告時間の効率化はメリットであり、デメリットではありません。


Q3. 内部監査部門長(CAE)が組織内で評定システム(Rating System)を運用する際、その有効性と公平性を確保するために必要な対応として、最も適切なものはどれか。

A. 監査人の主観を重視するため、評価基準は明文化せず、各監査人の裁量に任せる。

B. どのような状態が「合格」で何が「不合格」かという評価基準(定義)を文書化し、事前に上級経営陣や取締役会と合意しておく。

C. 評価基準を頻繁に変更し、被監査部門が対策をとれないようにする。

D. 厳しい監査人には高い基準を、優しい監査人には低い基準を適用させ、バランスをとる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 評定の信頼性を担保するためには、「一貫性」と「透明性」が不可欠です。CAEは評価の定義(クライテリア)を文書化し、ステークホルダーと合意することで、誰が監査しても同じ基準で評価される体制を整える必要があります。

不正解(A): 基準が不明確だと評価にバラつきが生じ、比較可能性と信頼性が失われます。

不正解(C): 基準の一貫性がなくなり、経年比較ができなくなります。

不正解(D): 監査人によって基準が異なるのは不適切です。