テーマ:「直ったから書かなくていい」は間違い? ~過去の不備と現在の対応~

セクションD-4-dは、監査期間中に経営管理者が素早く対応し、問題(発見事項)を解決してしまった場合の取り扱いについてです。

「問題が見つかったが、報告書が出る前に直した。だから報告書には載せないでほしい」。 現場の管理者からよくこのように頼まれます。確かに現在は問題ないのに、わざわざ「×」をつけるのは気が引けるかもしれません。

しかし、GIAS(グローバル内部監査基準)の観点では、「解決済み=なかったこと」ではありません。 適切な手続きを経て、事実を正確に記録・報告する必要があります。


1. 導入:なぜ「解決済み」でも報告するのか?

発見事項が監査期間中に修正されたとしても、それを最終報告書に記載すべき理由は主に3つあります。

  1. 完全性(Completeness):
    • 「その期間にコントロールの不備が存在した」という事実は消えません。歴史的事実として記録する必要があります。
  2. リスク評価への反映:
    • 一度壊れたコントロールは、再発する可能性があります。不備があった事実は、将来のリスク評価における重要なデータです。
  3. 経営管理者の評価(Credit):
    • 素早い対応は称賛されるべきです。「不備があったが、即座に是正された」と報告することは、経営管理者の対応能力の高さを示すポジティブな情報になります。

2. 報告のための「必須ステップ」

監査人は、経営管理者から「もう直しました」と言われたとき、以下のプロセスを踏む必要があります。

ステップ①:検証(Verification)

これが最も重要です。経営管理者の言葉を鵜呑みにしてはいけません。 報告書を発行する前に、監査人は必ず修正措置が実際に完了し、有効に機能しているかをテスト(検証)しなければなりません。

  • 検証できた場合: 「是正済み」として扱います。
  • 検証できない(時間がない)場合: 「未解決」として扱い、後日フォローアップを行います。

ステップ②:重要性の判断(Significance)

発見事項の重要度によって、報告の扱いが変わります。

  • 重要な発見事項:
    • 必ず最終報告書に記載します。「発見事項」のセクションに問題を記述し、「現状(Status)」として「監査期間中に是正措置が完了し、監査人が検証済みである」旨を明記します。
  • 軽微な発見事項:
    • 最終報告書には記載せず、経営管理者へのメモや口頭報告(インフォーマルなコミュニケーション)で済ませることが受容される場合があります。

3. 報告書での書き方(ニュアンス)

報告書に記載する場合、読者(取締役会など)が「今も危険な状態だ」と誤解しないよう配慮が必要です。

  • 悪い例: 「在庫管理システムに重大な欠陥が発見された。(以上)」
    • これでは、現在も欠陥があるように読めてしまいます。
  • 良い例: 「在庫管理システムに重大な欠陥が発見されたが、経営管理者は直ちに修正パッチを適用した。監査人はその有効性を確認しており、現在はリスクが解消されている。」

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「監査期間中に是正された発見事項は、報告書に記載すると読者を混乱させるため、削除しなければならない」
    • 解説: 間違いです。重要なリスクであれば、過去の不備として記録に残し、是正された事実と合わせて報告します。
  2. ×「経営管理者から修正完了のメールを受け取ったので、それを証拠として検証手続きを省略し、完了とした」
    • 解説: 検証(テスト)なしに完了としてはいけません。メールは「主張」であり「証拠」ではありません。
  3. ×「解決済みの問題を書くことは、経営管理者の顔を潰すことになる」
    • 解説: むしろ逆です。「即座に対応した」と書くことは、経営管理者の当事者意識と行動力をアピールすることになります。

まとめ

セクションD-4-dのポイントは、「Trust, but Verify(信ぜよ、されど確認せよ)」です。

  • If 監査中に直ったと言われた
  • Then まず検証する。
  • And 重要なら報告書に「不備+修正完了」のセットで書く。

これにより、監査報告書は「悪い点の指摘集」ではなく、「組織の改善活動の記録」となります。


【練習問題】パート3 セクションD-4-d

Q1. 内部監査人は、財務部門において重要な勘定照合が1ヶ月間行われていなかったことを発見した。指摘を受けた財務部長は、監査の実査期間中に直ちに遅れていた照合を完了させ、承認印を押した。この状況における内部監査人の対応として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。

A. 問題は既に解決されているため、最終監査報告書にはこの発見事項を記載せず、監査調書にのみ記録を残す。

B. 照合が適切に行われたことを監査人が検証(テスト)した上で、発見事項として報告書に記載し、是正措置が完了している旨を付記する。

C. 財務部長の対応は迅速であったため、検証手続きは省略し、報告書には「是正措置完了」と記載する。

D. 不備があった事実は消えないため、是正されたことには触れず、「勘定照合が行われていない」という現状のみを報告する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 重要な発見事項については、監査期間中に是正されたとしても報告書に記載する必要があります。ただし、監査人はその是正措置が有効であることを自ら検証し、報告書には「問題があったこと」と「既に解決されたこと」の両方を明記するのが適切です。

不正解(A): 重要なリスク情報を報告しないことは、報告書の完全性を損ないます。

不正解(C): 監査人による検証なしに、経営管理者の主張だけで完了とすることはできません。

不正解(D): 既に解決されているのに「行われていない」と現在進行形で報告するのは不正確であり、ミスリーディングです。


Q2. 監査期間中に被監査部門が自発的に是正した発見事項について、内部監査人が最終報告書に記載することのメリットとして、最も適切なものはどれか。

A. 被監査部門の管理能力不足を強調し、次回の監査予算を増やす正当な理由となる。

B. 監査人がいかに細かいミスを見つけたかをアピールし、監査部門の存在感を示すことができる。

C. 外部監査人がその発見事項を再調査する手間を省き、監査報酬を削減できる。

D. 経営管理者が問題に対して迅速かつ真摯に対応したことを示し、リスク管理に対する前向きな姿勢を評価できる。

【解答・解説】

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正解(D): 解決済みの事項を報告することは、単なる過去のミスの指摘ではありません。「発見事項+即座の対応」をセットで報告することで、経営管理者がリスクに対して高い感度と実行力を持っていることをステークホルダー(取締役会など)に伝えることができます。

不正解(A): 監査の目的は他部署の批判や予算獲得ではありません。

不正解(B): 監査人の自己顕示欲のための報告は不適切です。

不正解(C): 外部監査への影響は副次的なものであり、主なメリットではありません。


Q3. 内部監査人は、工場の安全管理に関する監査において、消火器の点検ラベルが1箇所だけ貼り忘れられているという極めて軽微な不備を発見した。工場長はその場ですぐに新しいラベルを貼付した。この場合の報告プロセスとして、最も適切なものはどれか。

A. 軽微であっても「不適合」には変わりないため、最終監査報告書の「重要な発見事項」セクションに記載する。

B. 最終監査報告書には記載せず、工場長へのメモや口頭での報告など、インフォーマルなコミュニケーションで済ませる。

C. ラベルの貼り忘れは法令違反に該当する可能性があるため、直ちに規制当局に通報する。

D. 監査終了後のフォローアップ監査を実施するまで、この件は保留扱いとする。

【解答・解説】

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正解(B): 重要性(Significance)の判断に関する問題です。極めて軽微で、かつ即座に是正された事項については、公式な最終報告書に記載すると重要なメッセージが埋もれてしまう(ノイズになる)可能性があります。この場合、経営管理者への直接的なフィードバックで済ませることが受容されます。

不正解(A): 重要性の低い事項を強調しすぎると、報告書の価値が下がります。

不正解(C): 1箇所のラベル貼り忘れ程度で即座に外部通報するのは過剰反応です。

不正解(D): その場で是正・確認が完了しているため、保留にする必要はありません。