テーマ:「寝耳に水」を防ぐためのリハーサル ~報告書発行前の最終確認~

セクションD-4-aは、監査の実査(フィールドワーク)が終わり、最終報告書を発行する直前に行われる「終了会議(Exit Conference / Closing Meeting)」に関する理解です。

GIAS(グローバル内部監査基準)では、これを単なる形式的な会議ではなく、監査人と経営管理者の認識をすり合わせ、最終報告書の品質と受容性を高めるための重要な「プロセス」と位置づけています。


1. 導入:なぜ「いきなり報告書」を出してはいけないのか?

監査人がフィールドワークを終え、オフィスに戻ってすぐに最終報告書を書き上げ、取締役会にメールで送信したとします。もしその内容に事実誤認があったらどうなるでしょうか?

被監査部門の責任者は激怒し、取締役会は混乱し、監査人の信頼は地に落ちます。 これを防ぐのが「終了時のコミュニケーション」です。

★鉄則:「No Surprises(サプライズなし)」
監査の最終報告書を経営陣が読むとき、そこには彼らが「初めて知る悪いニュース」があってはなりません。すべての発見事項は、報告書になる前に議論され、合意(あるいは認識)されている必要があります。

2. 終了時のコミュニケーションの「4つの目的」

試験では、なぜこのプロセスが必要なのかが問われます。主な目的は以下の通りです。

  1. 事実の誤認を防ぐ(Validation):
    • 監査人が発見した「不備」が本当に不備なのか、単なる監査人の勘違いではないかを確認します。
  2. 合意形成(Buy-in):
    • 発見事項と提言について、被監査部門の同意を取り付けます。「確かに問題だ、直そう」と思ってもらわなければ改善は進みません。
  3. アクションプランの最終化:
    • 「誰が、いつまでに、どう直すか」という経営管理者の計画(改善措置の計画)を確認し、報告書に盛り込みます。
  4. 関係性の維持:
    • 一方的な通告ではなく、対話を通じて監査を行うことで、敵対関係になるのを防ぎます。

3. 「誰」と行うべきか(対象者)

終了会議に参加すべきメンバーは、監査の内容や重要性によって異なりますが、原則として以下の人々が対象となります。

  • 必須:被監査部門の経営管理者(Process Owners / Management)
    • 現場のプロセスを熟知しており、改善措置を実行する権限を持つ人々です。彼らとの事実確認が最優先です。
  • 状況に応じて:上級経営陣(Senior Management)
    • 重要な発見事項がある場合や、組織全体に関わる問題がある場合に参加を求めます。
  • 状況に応じて:内部監査部門長(CAE)
    • 高リスク案件や、被監査側との対立が予想される場合に参加します。

★ポイント: 通常、取締役会や監査委員会はこの会議には参加しません(彼らは最終報告書の読者です)。終了会議はあくまで「実務レベルでのすり合わせの場」であることが多いです。

4. コミュニケーションの「形式」

GIASでは、必ずしも対面会議だけを求めているわけではありません。

  • 対面会議/ビデオ会議: 複雑な問題、議論が必要な提言、意見の対立がある場合に最適です。
  • 電話/メール/ドラフト送付: 監査範囲が狭く、発見事項が軽微で、合意が容易な場合は、簡素な方法でも「効果的なコミュニケーション」として認められます。

イメージ:
終了会議は、舞台(最終報告)の前の「リハーサル」です。 役者(被監査部門)と演出家(監査人)が、「ここはこのセリフで合っているか?」と最終確認し、本番で恥をかかないように修正する場です。

5. もし「意見が合わない」まま終わったら?

終了会議で、被監査部門が「その発見事項は受け入れられない」「リスクだとは思わない」と主張し、議論が平行線になることもあります。

その場合、無理に説得して会議を長引かせる必要はありません。 「双方の意見(監査人の見解と、経営管理者の反論)」の両方を記録し、最終報告書に併記することが、GIASにおける正しい解決策です。

まとめ

セクションD-4-aのポイントは、「正確性と公平性の担保」です。

  • If 報告書の下書きができた
  • Then まず被監査部門に見せて、「事実に間違いはないか」「言い分はあるか」を聞く。

これを省略することは、監査の品質管理(QAIP)において重大な欠陥となります。


【練習問題】パート3 セクションD-4-a

Q1. 内部監査人は、ある支店の業務監査を完了し、重大な不正の兆候を含む発見事項をまとめた。監査人は、支店長が証拠を隠滅するリスクを懸念している。この状況において、終了時のコミュニケーション(終了会議)に関する対応として最も適切なものはどれか。

A. 終了会議はGIASで義務付けられているため、いかなる場合でも通常通り実施し、すべての発見事項を支店長に伝える。

B. 不正調査など、法的・保安上の理由がある特別な状況においては、終了会議を実施しない、あるいは議論の内容を制限することが正当化される場合がある。

C. 支店長を除外し、支店の一般従業員のみを集めて終了会議を行い、反応を見る。

D. 終了会議の代わりに、最終報告書をいきなり全社員にメール配信し、内部通報を促す。

【解答・解説】

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正解(B): 原則として終了会議は必須ですが、不正の疑いがある場合や、議論することで捜査・調査に支障をきたす恐れがある場合(証拠隠滅や口裏合わせのリスク)は、例外的に開催を見送る、または伝える情報を制限することが適切です。

不正解(A): 形式的な基準遵守よりも、リスク管理と調査の有効性が優先されます。

不正解(C): 権限のない従業員との会議は、終了会議の目的(改善の合意)を果たせません。

不正解(D): 手続きとして不適切であり、守秘義務や名誉毀損のリスクがあります。


Q2. 終了時のコミュニケーション(終了会議)の主な目的として、最も適切でないものはどれか。

A. 監査人と被監査部門の間で、事実関係についての誤認がないかを確認する。

B. 発見事項に対する被監査部門の改善措置の計画(アクションプラン)について協議・確認する。

C. 監査人のパフォーマンスについて、被監査部門から正式な人事評価を受ける。

D. 最終報告書が発行される前に、被監査部門からの質問や懸念に対応し、良好な関係を維持する。

【解答・解説】

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正解(C): 終了会議の目的は、監査結果の品質向上と合意形成です。被監査部門からのフィードバック(満足度調査など)を得る機会にはなり得ますが、監査人の「人事評価」を受ける場ではありません。独立性の観点からも不適切です。

不正解(A、B、D): これらはすべて終了会議の核心的な目的(Validation, Buy-in, Relationship)です。


Q3. 内部監査人は終了会議の席上で、被監査部門のマネージャーから「報告書案にある『在庫管理の不備』という指摘は間違いだ。我々は先月から新しいシステムを導入しており、そのリスクは既に解消されている」と反論された。監査人がとるべき行動として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。

A. 監査期間中の事実のみが重要であるため、監査終了後のシステム導入は無視し、当初の指摘通り報告書を作成する。

B. マネージャーの主張が事実であることを裏付ける証拠を追加で確認し、事実であれば報告書案(発見事項や現状の記述)を修正する。

C. 意見の相違を避けるため、直ちにその発見事項を報告書から削除する。

D. 終了会議の場では反論を受け入れず、最終報告書発行後に取締役会の前で議論を行うよう伝える。

【解答・解説】

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正解(B): 終了会議の重要な目的は「事実確認」です。もし監査人の認識が古かったり、誤っていたりする場合、それを修正する最後のチャンスです。新しい証拠を確認し、現状(Condition)を正確に反映させることで、報告書の品質と信頼性を高めるべきです。

不正解(A): 報告書は経営判断に資するものであるべきです。「現在は解消されている」という重要な事実を無視することは、ミスリーディングな報告となります。

不正解(C): 証拠なしに削除するのは独立性の欠如です。

不正解(D): 誤解を含んだまま報告書を発行することは、不要な混乱を招き、監査人の評判を傷つけます。