テーマ:実践!7つの武器を使いこなす ~レポート作成の現場から~

セクションD-1-bは、前節で学んだコミュニケーションの7つの特性(正確、客観的、明確、簡潔、建設的、完全、適時)を、「実際の監査報告書作成の場面でどう適用するか」という実践力を問うセクションです。

試験では、「この文章のどこが悪いか?」「どう修正すれば7Cを満たすか?」といった具体的なシナリオ問題が出題されます。


1. 導入:良い報告書 vs 悪い報告書

「悪い報告書」は読まれません。読まれなければ、改善は起きません。 監査人の仕事は、不正を見つけることではなく、「発見事項を伝えて組織を動かすこと」です。

  • 悪い例: 「経理部の処理は雑で、ミスが多いようだ。もっと気をつけるべきだ。」
    • (客観性なし、具体性なし、建設的でない)
  • 良い例: 「2024年4月の伝票100件をサンプリングした結果、5件の承認漏れが確認された。これは承認システムの不具合に起因する可能性があるため、システム設定の見直しを推奨する。」
    • (正確、客観的、建設的、明確)

2. 特性の適用における「トレードオフ」

7つの特性すべてを完璧に満たすのは難しい場合があります。CAE(内部監査部門長)は状況に応じてバランスをとる必要があります。

完全性 vs 簡潔性(Completeness vs Conciseness)

  • ジレンマ: すべての情報を盛り込むと長くなりすぎる。短くすると必要な情報が漏れる。
  • 解決策: 「エグゼクティブ・サマリー」を活用する。
    • 本文には詳細(完全性)を書き、サマリーには結論と重要リスクだけ(簡潔性)を書く。

正確性 vs 適時性(Accuracy vs Timeliness)

  • ジレンマ: 100%の裏付けを取るまで待つと、報告が遅れる。
  • 解決策: 「暫定報告(Interim Reporting)」を活用する。
    • 「現在調査中だが、緊急性が高いため第一報を伝える」という形で、正確性を留保しつつ適時性を確保する。

3. 具体的な適用テクニック

試験で問われる「書き方」のコツです。

  • 明確(Clear)にするために:
    • 受動態ではなく能動態を使う。(×「確認された」→○「監査人が確認した」)
    • 専門用語(ジャーゴン)を避けるか、定義する。
  • 客観的(Objective)にするために:
    • 形容詞(「ひどい」「素晴らしい」)を避け、事実(数字、証拠)を書く。
  • 建設的(Constructive)にするために:
    • 「~ができていない」という否定形ではなく、「~することで改善できる」という肯定的な提案形で書く。

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「監査報告書は、すべての読者(経営陣、現場、監査役)に対して同じ文面・詳細度で提供しなければならない」
    • 解説: 間違いです。読者によってニーズが異なります。経営陣には要約を、現場には詳細を提供するなど、相手に合わせて構成を変えることが「明確性」と「簡潔性」につながります。
  2. ×「『適時性』を確保するためであれば、口頭報告のみで済ませ、最終的な文書化(監査報告書の発行)を省略してもよい」
    • 解説: 誤りです。口頭報告は適時性のために有効ですが、最終的には必ず文書化された報告書を発行しなければなりません(記録と説明責任のため)。
  3. ×「正確性を高めるために、監査人が発見したすべての些細なミス(誤字脱字など)を報告書に列挙すべきである」
    • 解説: これは「簡潔性」と「重要性」の観点から不適切です。些細なミスは現場レベルで修正させ、報告書には「重要な発見事項」のみを記載すべきです。

まとめ

セクションD-1-bのポイントは、「読者ファースト」です。

  • Reader: 誰が読むのか?
  • Purpose: 何を伝えたいのか?
  • Balance: 正確さとスピード、詳細と簡潔さのバランスは適切か?

報告書は監査の「商品」です。7Cという品質基準を満たした商品を届けることで、初めて監査の価値が認められます。


【練習問題】パート3 セクションD-1-b

Q1. 内部監査人が作成した監査報告書の草案に、以下の文章が含まれていた。「IT部門のスタッフは、セキュリティ手順を理解していないようで、パスワード管理がずさんだった。」この文章を、コミュニケーションの特性(7C)に照らして修正する場合、最も適切な表現はどれか。

A. 「IT部門のスタッフは無能であり、パスワード管理の重要性を教育する必要がある。」

B. 「監査人が実施したインタビューおよび実査の結果、対象スタッフの20%がパスワードの定期変更手順を遵守していないことが確認された。これは、最新の手順書が配布されていなかったことが原因である。」

C. 「パスワード管理において、重大かつ深刻なセキュリティ違反が多数発見されたため、直ちに是正措置を講じなければならない。」

D. 「セキュリティ手順に関する理解度テストを実施したところ、結果は芳しくなかった。」

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 元の文章の問題点は「理解していないようで(推測)」「ずさん(主観的・抽象的)」であることです。選択肢Bは、「20%が遵守していない(正確・客観的)」という事実と、「手順書が未配布(原因)」という分析を含んでおり、具体的かつ明確です。

不正解(A): 「無能」という言葉は客観性を欠き、攻撃的(建設的でない)です。

不正解(C): 「重大かつ深刻」「多数」という表現は曖昧(明確でない)です。

不正解(D): 「芳しくなかった」は曖昧で、具体的なアクションにつながりません。


Q2. 監査業務中に、直ちに対応しなければ企業の存続に関わるような重大な不正の兆候が発見された。この時点ではまだ調査は完了しておらず、不正の全貌(正確な金額や関与者)は確定していない。コミュニケーションの特性である「正確性(Accuracy)」と「適時性(Timeliness)」のバランスを考慮した場合、CAEがとるべき行動として最も適切なものはどれか。

A. 正確性を最優先し、すべての調査が完了して証拠が100%固まるまで、誰にも報告しない。

B. 適時性を最優先し、確認されていない噂レベルの情報も含めて、直ちに全社員にメールで警告する。

C. 暫定報告(Interim Report)として、現時点で確認された事実とリスクの重大性を速やかに経営陣と監査委員会に報告する。その際、情報は暫定的なものであり、追加調査中であることを明記する。

D. 報告書を作成すると時間がかかるため、口頭でのみ社長に伝え、公式な記録は残さないようにする。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 重大なリスクがある場合、「適時性」が優先されます。しかし「正確性」を犠牲にしてはいけません。解決策は「暫定報告」です。現時点での事実を伝えつつ、それが最終結論ではないことを明示することで、迅速な初動対応を可能にしつつ、誤解を防ぐことができます。

不正解(A): 報告が遅れると被害が拡大する恐れがあります。

不正解(B): 未確認情報を全社員に流すのは混乱を招き、法的リスクも高いため不適切です。

不正解(D): 重大事案こそ、文書化(記録)が必須です。


Q3. 監査報告書において「簡潔性(Conciseness)」を確保するために推奨される手法として、適切でないものはどれか。

A. 報告書の冒頭に、重要な発見事項と結論、および推奨事項をまとめた「エグゼクティブ・サマリー(要約)」を配置する。

B. 詳細なデータ、計算表、および補足資料は、本文ではなく「付録(Appendix)」として添付する。

C. 専門用語や社内略語を使用する場合は、初出時に定義するか、平易な言葉に言い換える。

D. 情報を漏れなく伝えるために、発見されたすべての軽微な不備(マイナーな問題)を本文に羅列し、報告書のボリュームを増やす。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(D): 「簡潔性」とは、不要な情報を削ぎ落とし、重要なメッセージを際立たせることです。軽微な不備をすべて羅列すると、重要なリスクが埋没してしまい、読み手の時間を奪うため不適切です(軽微なものは現場へのメモ等で対応します)。

不正解(A): サマリーの活用は簡潔性を高めるベストプラクティスです。

不正解(B): 詳細を付録に回すことで、本文の流れが良くなります。

不正解(C): 専門用語の排除は「明確性」と「簡潔性」の両方に寄与します。