テーマ:伝わらなければ意味がない ~プロフェッショナルな報告の作法~

セクションD-1-aは、内部監査の結果(報告書)を作成する際に遵守すべき「品質の特性」に関する定義です。

どんなに素晴らしい監査を行っても、報告書が読みづらかったり、誤解を招く表現だったりすれば、その価値はゼロ(あるいはマイナス)になります。 GIASでは、効果的なコミュニケーションのために守るべき7つの特性(7C)を定義しています。


1. コミュニケーションの7つの特性(The 7 Cs)

試験では、それぞれの特性が「具体的にどういう状態か」を問われます。暗記ではなく、シチュエーションで理解しましょう。

特性キーワード・定義具体的なイメージ
① 正確(Accurate)誤りや歪曲がない。事実に基づいている。Evidence-based「たぶんミスが多いです」ではなく、「100件中5件のエラーを確認しました」と書く。
② 客観的(Objective)公正不偏。事実と状況の公平な評価。
Unbiased
「担当者が無能だった」という主観ではなく、「担当者は必要な研修を受けていなかった」と事実を書く。
③ 明確(Clear)誤解を招かない。専門用語を避ける。
Easy to understand
「ITGCの不備により」ではなく、「システムのアクセス管理の不備により」と誰でもわかる言葉で書く。
④ 簡潔(Concise)要点をつく。冗長さを避ける。
To the point
無関係な詳細や前置きを省き、重要なメッセージだけを短く伝える。
⑤ 建設的(Constructive)改善につながる。助けになる。
Helpful
単に批判するだけでなく、「どうすれば良くなるか」という解決策(推奨事項)を提示する。
⑥ 完全(Complete)必要な情報がすべて含まれている。
Nothing missing
結論に至るために必要な背景、証拠、文脈が漏れなく記載されている。
⑦ 適時(Timely)適切なタイミングで提供される。
At the right time
問題が起きてから半年後に報告しても手遅れ。「今」必要な情報を伝える。

2. 「完全(Complete)」と「簡潔(Concise)」のバランス

この2つは矛盾するように見えますが、両立させる必要があります。

  • 完全: 必要なことは全部書く。
  • 簡潔: 不要なことは書かない。

試験対策: 「完全性」とは「長文を書くこと」ではありません。読者(経営陣)が意思決定をするために「不足がない状態」のことです。 逆に「簡潔性」とは「情報を隠すこと」ではなく、「ノイズ(無駄)を削ぎ落とすこと」です。

3. 「建設的(Constructive)」の重要性

監査報告書は「有罪判決文」ではありません。組織を良くするための「処方箋」です。

  • 悪い例: 「経理部はミスばかりしている。管理体制が最悪だ。」(攻撃的)
  • 建設的な例: 「経理部の負担を軽減し、ミスを防止するために、自動照合システムの導入を推奨する。」(未来的・協力的)

トーン(口調)が攻撃的だと、現場は反発し、改善が進みません。建設的なトーンこそが、監査の価値を高めます。

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「正確性を期すために、監査報告書には専門用語を多用し、詳細な技術データをすべて添付すべきである」
    • 解説: 間違いです。これは「明確性(専門用語を避ける)」と「簡潔性(要点をつく)」に反します。経営陣は専門家ではないことが多いです。
  2. ×「適時性(スピード)を優先するためには、多少の不正確さや検証不足は許容される」
    • 解説: 許容されません。「正確性」は譲れない基盤です。不正確な情報を早く伝えても、誤った意思決定を招くだけです。
  3. ×「客観性を保つためには、監査人の意見や結論を一切述べてはならず、事実の羅列にとどめるべきである」
    • 解説: 誤りです。監査人には専門的な「意見・結論」を表明することが求められます。客観性とは、その意見が「偏見」ではなく「証拠」に基づいていることを意味します。

まとめ

セクションD-1-aのポイントは、「相手(読み手)の立場に立つ」ことです。

  • 忙しい経営陣には → 簡潔・適時に。
  • 専門外の人には → 明確に。
  • 現場担当者には → 建設的に。
  • そして全員に対して → 正確・客観的・完全に。

これら7つの特性を満たした報告書こそが、組織を動かす力(Impact)を持ちます。


【練習問題】パート3 セクションD-1-a

Q1. 内部監査人が作成した監査報告書に、以下のような記述があった。「当部門の調査によると、購買担当者は非常に怠慢であり、業務に対する意欲が欠如しているように見受けられる」。この記述は、コミュニケーションのどの特性(質的要件)に最も違反しているか。

A. 明確(Clear) – 専門用語が使われており、意味が分かりにくい。

B. 客観的(Objective) – 事実に基づく証拠ではなく、監査人の主観的な感情や偏見が含まれている。

C. 簡潔(Concise) – 文章が長すぎて、要点がぼやけている。

D. 適時(Timely) – 報告のタイミングが遅すぎる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 「怠慢」「意欲欠如」といった表現は、検証可能な事実(証拠)ではなく、監査人の主観的な印象や決めつけです。これは「客観性(公正不偏な評価)」に著しく欠けています。報告書には「承認漏れが〇件あった」などの事実を記載すべきです。

不正解(A): 専門用語の問題ではありません。

不正解(C): 長さの問題ではありません。

不正解(D): タイミングに関する情報はありません。


Q2. 監査報告書のコミュニケーション特性における「建設的(Constructive)」の定義として、最も適切なものはどれか。

A. 監査対象部門の過去の失敗を徹底的に追及し、責任の所在を明確にすること。

B. 監査対象部門にとって耳の痛い指摘事項はすべて削除し、肯定的な内容のみを報告すること。

C. 発見された問題点に対して、業務の改善や組織の目標達成に役立つような、前向きな解決策(推奨事項)を提示すること。

D. 報告書のデザインやレイアウトを工夫し、視覚的に魅力的な文書を作成すること。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 「建設的」とは、単に批判するのではなく、組織がより良くなるための「助け(Helpful)」になることです。問題の指摘とセットで、実行可能な改善案(是正措置)を提案する姿勢が求められます。

不正解(A): 責任追及だけでは改善につながりにくく、対立を生む可能性があります。

不正解(B): 問題を隠すことは建設的ではなく、リスクの放置です。

不正解(D): 見た目の良さは「明確性」には寄与しますが、「建設的」の本質ではありません。


Q3. 内部監査部門長(CAE)は、監査報告書が非常に長文で詳細すぎるため、経営陣が読んでくれないという課題を抱えている。この状況を改善するために重視すべきコミュニケーションの特性と、その対応策の組み合わせとして最も適切なものはどれか。

A. 正確(Accurate): 詳細を省くと不正確になるため、長文のまま維持し、経営陣に読むよう説得する。

B. 簡潔(Concise): 不要な詳細や重複を削除し、重要なメッセージ(結論とリスク)に焦点を当てた要約(エグゼクティブ・サマリー)を作成する。

C. 完全(Complete): 読まれないリスクを避けるため、さらに情報を追加して、あらゆる質問に対応できるようにする。

D. 適時(Timely): 読む時間がないなら、報告書の発行を遅らせて、経営陣が暇になる時期を待つ。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 「簡潔性」とは、冗長さを排除し、要点(To the point)を伝えることです。経営陣は多忙であるため、詳細データは別紙にするなどして、本文やサマリーを短く分かりやすくすることが、読んでもらうための鍵となります。

不正解(A): 詳細=正確ではありません。不要な詳細はノイズです。

不正解(C): 情報を増やすとさらに読まれなくなります(逆効果)。

不正解(D): 報告を遅らせると情報の価値(適時性)が失われます。