テーマ:「測定できるものは管理できる」 ~適切なメジャー(物差し)の作り方~

セクションC-3-bは、内部監査の重要業績評価指標(KPI)を実際に設定する際、どのような要素を考慮すべきか、そしてなぜ具体的な目標値(ターゲット)が必要なのかについて掘り下げるセクションです。

試験では、「とりあえず測定する」のではなく、組織の戦略に貢献し、行動変容を促すような効果的なKPIを設計できるかが問われます。


1. KPI設定時の考慮事項(SMARTの原則+α)

KPIを設定する際、CAE(内部監査部門長)は以下の要素を考慮する必要があります。

① ステークホルダーとの協議

取締役会や経営陣が何を重視しているか?

  • 例:「スピード重視」なら、報告書の完了日数(サイクルタイム)をKPIにする。
  • 例:「品質重視」なら、外部監査人による内部監査の利用率をKPIにする。

② データの入手可能性と信頼性

そのKPIは正確に測定できるか?

  • 測定に膨大な手間がかかるKPIは、維持コストが高すぎて長続きしません。システムから自動取得できるデータが理想的です。

③ 行動への影響(意図せぬ副作用)

そのKPIを設定することで、監査人が間違った行動をとらないか?

  • 悪い例:「監査件数」をKPIにする → 監査人が質を落として数を稼ごうとする。
  • 良い例:「ステークホルダー満足度」をKPIにする → 監査人が現場との対話を重視するようになる。

2. 目標値(Targets)を設定する必要性

「KPIを設定しました」だけでは不十分です。「どこを目指すのか(目標値)」を設定しなければなりません。

なぜ目標値が必要なのか?

  1. 期待値の明確化: 「報告書は発行から10日以内に出します」と約束することで、ステークホルダーとの合意形成ができる。
  2. ギャップの識別: 実績と比較することで、「遅れている」「品質が低い」といった問題点(改善の機会)が見える化される。
  3. モチベーション向上: 明確なゴールがあることで、スタッフの努力の方向性が定まる。

3. スコアカード指標の実用的な例

試験では、具体的な指標の良し悪しを判断させる問題が出ます。

カテゴリ指標の例考慮すべき点(Why & How)
品質・適合性・QAIPの自己評価結果
・外部監査人からのフィードバック
基準を守れているか? 外部から信頼されているか?
効率性・予算に対する実績コスト比率
・監査計画の消化率
リソースを無駄にしていないか? 約束通り進んでいるか?
有効性(価値)・推奨事項の実施率
・是正措置完了までの平均日数
監査の結果、組織は良くなったか? リスクは減ったか?
人材・学習・専門資格(CIA等)の保有率
・1人あたりの研修時間
将来の監査品質を担保する能力(Capability)はあるか?

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「KPIの目標値は、常に業界のベンチマーク(他社平均)と同じにすべきである」
    • 解説: 間違いです。他社と自社ではリスク環境や成熟度が異なります。自社の戦略やリソースに合わせて、現実的かつ挑戦的な目標を設定すべきです。
  2. ×「定性的な指標(満足度など)は主観が入るため、KPIには含めず、定量的な指標(件数など)のみを使用すべきである」
    • 解説: 誤りです。内部監査の価値(信頼や助言)は数値化しにくいため、アンケートなどの定性的指標も併用して「バランス」をとることが重要です。
  3. ×「目標値を達成できなかった場合、CAEは直ちにペナルティを受けるべきである」
    • 解説: KPIは処罰のためではなく「改善」のためにあります。未達の原因を分析し、プロセスを修正することが目的です。

まとめ

セクションC-3-bのポイントは、「意図を持った設計」です。

  • Consider: 何を測れば、望ましい行動が生まれるか?
  • Target: どのレベルを目指せば、ステークホルダーは満足するか?
  • Review: 測りっぱなしにせず、改善につなげているか?

適切なKPIと目標値は、内部監査部門を「ただのチェック係」から「組織の戦略的パートナー」へと進化させる強力なツールになります。


【練習問題】パート3 セクションC-3-b

Q1. 内部監査部門長(CAE)が、内部監査のパフォーマンスを測定するためのKPI(重要業績評価指標)を設定している。以下の指標のうち、監査人の行動に「悪影響(質の低下や近視眼的な行動)」を与えるリスクが最も高いものはどれか。

A. 監査計画の完了率(予定された監査のうち、期日通りに完了した割合)。

B. 監査報告書の発行後に実施される、被監査部門への満足度アンケートの平均スコア。

C. 監査人1人あたりが発見した指摘事項(不備)の年間総数。

D. 監査推奨事項に基づき、経営陣が是正措置を完了した割合。

【解答・解説】

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正解(C): 「発見した不備の数」を個人のKPIにすると、監査人は評価を上げるために、些細なミスを過大に報告したり、重要なリスクよりも見つけやすい不備を探したりする動機付けになります。これは組織全体の価値向上につながらず、被監査部門との関係悪化を招く「悪いKPI」の典型例です。

不正解(A): 計画遵守は基本的な効率性指標として適切です。

不正解(B): 顧客志向を促す良い指標です。

不正解(D): 監査の有効性(アウトカム)を示す非常に良い指標です。


Q2. 内部監査のKPIにおいて「目標値(Target)」を設定する必要性に関する記述として、最も適切なものはどれか。

A. 目標値を設定することで、達成できなかったスタッフを特定し、給与カットの根拠とするため。

B. 現状の実績(パフォーマンス)と、あるべき姿(期待される水準)とのギャップを明確にし、継続的な改善を促進するため。

C. 外部監査人に対して、内部監査部門が厳しいノルマの下で働いていることをアピールするため。

D. 目標値は一度設定すると変更できないため、あえて低く設定して達成率を高く見せるため。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): KPIに目標値を設定する本来の目的は、パフォーマンスの現在地と目的地(期待値)の差を可視化することです。このギャップを埋める努力こそが「改善」であり、QAIPの核心です。

不正解(A): 処罰が主目的になると、データの改ざんやモチベーション低下を招きます。

不正解(C): 外部監査人へのアピールは本質的な目的ではありません。

不正解(D): 目標値は状況に応じて見直すべきであり、低く設定して見栄えを良くすることは誠実性を欠きます。


Q3. 内部監査部門長(CAE)がKPIを設定する際、ステークホルダーの期待と整合させるために考慮すべき事項として、適切な組み合わせはどれか。

  1. 取締役会が「迅速なリスク対応」を求めている場合、監査サイクルタイム(着手から報告までの日数)を指標に含める。
  2. 経営陣が「コスト削減」を最優先している場合、内部監査部門の予算消化率のみを唯一のKPIとする。
  3. 外部監査人が「内部統制の信頼性」を重視している場合、内部監査の結果に対する外部監査人の依拠率(利用度)を指標に含める。
  4. 監査スタッフが「ワークライフバランス」を求めている場合、監査品質を犠牲にしてでも残業時間ゼロを最優先の目標とする。

A. 1と3 B. 2と4 C. 1と2 D. 3と4

【解答・解説】

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正解(A): 「1. 迅速性への期待にはサイクルタイム」、「3. 信頼性への期待には依拠率」という設定は、ステークホルダーのニーズとKPIが正しくリンクしています。

不正解(B, C, D): 「2. 予算消化率のみ」はバランスを欠いており、品質や有効性が無視されます。「4. 品質を犠牲にする」目標設定は、専門職としての責任放棄であり不適切です。