テーマ:数字で語る内部監査 ~「成果」をどう見せるか~

セクションC-3-aは、内部監査部門が自身の活動の成果を測定し、取締役会や経営陣に報告するための「重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicators)」の目的と、適切な指標の設定方法について学ぶセクションです。

試験では、「監査報告書を何枚出したか」というような「活動量(Output)」だけでなく、「どれだけリスクを減らしたか」という「価値(Outcome)」を測定するKPIの重要性が問われます。


1. 導入:なぜKPIが必要なのか?

内部監査部門は「コストセンター」と見られがちです。 「私たちは頑張っています」と口で言うだけでは、経営陣には伝わりません。客観的なデータ(KPI)で示す必要があります。

KPIの3つの主要目的:

  1. パフォーマンスの測定と管理: 計画通りに進んでいるか? 効率的に動けているか? をCAE自身が把握するため。
  2. 価値の実証(Demonstrate Value): 組織のリスク低減や業務改善に、具体的にどう貢献したかをステークホルダーに示すため。
  3. 継続的改善の促進: 「監査報告書の発行が遅い」などの課題を数値で可視化し、改善のサイクルを回すため。

2. 「良いKPI」と「悪いKPI」

試験で頻出のポイントです。単に数字を集めればいいわけではありません。

× 避けるべきKPI(活動量・インプット中心)

  • 「発行した監査報告書の数」 → 質の低い報告書を乱発する動機になります。
  • 「発見した不備の数」 → 些細なミスばかり指摘する「重箱の隅つつき監査」を助長します。
  • 「監査人の稼働時間」 → 長く働くことが目的になってしまいます。

○ 推奨されるKPI(価値・アウトカム中心)

  • 「監査計画の完了率」 → 約束した保証を提供できたか?(信頼性)
  • 「監査報告書の発行スピード(サイクルタイム)」 → 情報が新鮮なうちに提供できたか?(適時性)
  • 「推奨事項の実施率(完了率)」 → 現場が納得して改善してくれたか?(有効性)
  • 「ステークホルダー満足度」 → 監査を受けて「役に立った」と思ってもらえたか?(顧客志向)

3. バランスの取れたスコアカード(Balanced Scorecard)

KPIは一つの側面だけでなく、多角的に設定するのがベストプラクティスです。

  1. ステークホルダーの視点: 満足度調査の結果、経営陣からの要請への対応率。
  2. 内部プロセスの視点: 計画完了率、予算遵守率、QAIPの結果。
  3. イノベーションと学習の視点: 資格保有率、研修時間、テクノロジー活用度。
  4. 財務の視点(任意): 監査によるコスト削減額や回収額(ただし、これだけに偏らないこと)。

4. CAEのコミュニケーション責任

設定したKPIの結果は、QAIPの一環として、定期的(例:四半期ごと)に取締役会および上級経営陣に報告しなければなりません。

  • 目標未達の場合: 「なぜ達成できなかったか(原因)」と「どう挽回するか(対策)」を説明します。
  • 目標達成の場合: 成果をアピールし、内部監査の価値を再認識してもらいます。

5. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「KPIは多ければ多いほど良い」
    • 解説: 間違いです。多すぎると焦点がぼやけ、管理コストが増えます。「重要(Key)」な指標に絞るべきです。
  2. ×「コスト削減額(金銭的価値)こそが、内部監査の最も重要なKPIである」
    • 解説: 危険な考え方です。内部監査の主目的は「ガバナンス、リスク管理、コントロールの評価」であり、金銭的利益だけではありません。コンプライアンス遵守など、金銭換算できない価値も重要です。
  3. ×「KPIは一度設定したら、一貫性を保つために永久に変えてはならない」
    • 解説: 誤りです。組織の戦略が変われば、内部監査に求められる役割も変わります。状況に応じてKPIも見直す(進化させる)必要があります。

まとめ

セクションC-3-aのポイントは、「量より質、作業より価値」です。

  • Measure Value: 「何をやったか」より「何をもたらしたか」を測る。
  • Balance: 効率性だけでなく、満足度や改善率も見る。
  • Communicate: 結果を使って、ステークホルダーと対話する。

適切なKPIは、内部監査部門が進むべき方向を示す羅針盤となります。


【練習問題】パート3 セクションC-3-a

Q1. 内部監査部門長(CAE)が取締役会に報告するための「重要業績評価指標(KPI)」を設定しようとしている。内部監査の有効性と付加価値を測定する指標として、最も適切かつ推奨されるものはどれか。

A. 監査中に発見された不備の総数(多ければ多いほど良いとする)。

B. 内部監査部門のスタッフ1人あたりの年間監査時間数。

C. 監査報告書で提案された推奨事項(改善案)のうち、経営陣によって実際に採用・実施された割合。

D. 監査報告書の平均ページ数。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 「推奨事項の実施率」は、内部監査が組織の実質的な改善にどれだけ貢献したか(アウトカム)を示す最良の指標の一つです。現場が納得し、行動に移したということは、監査が有効であったことを意味します。

不正解(A): 不備の数を目標にすると、些細な指摘を乱発する動機付けになり、現場との関係が悪化します。

不正解(B): 投入量(インプット)の指標であり、成果(アウトカム)ではありません。

不正解(D): ページ数は品質とは無関係です(むしろ簡潔さが求められます)。


Q2. 内部監査のKPIを設定する主な目的として、適切でない記述はどれか。

A. 内部監査活動が、承認された監査計画や予算に対して効率的に運営されているかをモニタリングするため。

B. 内部監査部門の活動が、組織の戦略的目標やステークホルダーの期待と整合しているかを評価するため。

C. 内部監査スタッフ同士を競争させ、成績下位者を解雇するための根拠とするため。

D. QAIP(品質のアシュアランスと改善のプログラム)の一環として、継続的な改善の機会を識別するため。

【解答・解説】

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正解(C): KPIは部門全体のパフォーマンス向上や価値の実証のために用いるものであり、個人間の過度な競争や処罰のために用いることは、チームワークを損ない、QAIPの本来の目的(品質向上)から逸脱するため不適切です。

不正解(A): 効率性のモニタリングは主要な目的の一つです。

不正解(B): 有効性と整合性の確認は重要です。

不正解(D): KPI分析は改善の起点となります。


Q3. 内部監査部門長(CAE)は、監査報告書の発行スピード(実査終了から最終報告書発行までの日数)をKPIとして設定し、短縮を図っている。このKPIが重視される理由として、最も適切なものはどれか。

A. 報告書を早く出すことで、監査人が次の休暇を早く取れるようにするため。

B. 情報の鮮度(適時性)を保ち、経営陣がリスクに対して迅速に是正措置を講じられるようにするため。

C. 監査期間を短くすることで、監査の深さを浅くし、手抜きができるようにするため。

D. 外部監査人が来る前に証拠隠滅を図る時間を確保するため。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 監査情報の価値は「鮮度」に依存します。問題発見から報告までに時間がかかりすぎると、リスクが顕在化してしまったり、状況が変わって対策が無意味になったりします。適時性(Timeliness)は監査品質の重要な要素です。

不正解(A): 個人の都合は組織的なKPIの理由になりません。

不正解(C): 品質を犠牲にする短縮は本末転倒です。

不正解(D): 論外の倫理違反です。