テーマ:「報告マシーン」からの脱却 ~「信頼」を築くための会話術~

セクションA-4-aは、内部監査部門長(CAE)が、最高経営者(CEO)や取締役会とどのように関係を構築するかという、ソフトスキルと政治的判断が問われる分野です。

試験では、「監査報告書を提出すれば終わり」という事務的な態度ではなく、公式・非公式のコミュニケーションを使い分けて「信頼されるアドバイザー(Trusted Advisor)」としての地位をどう確立するかがポイントになります。


1. 導入:なぜコミュニケーションが「仕事」なのか

GIAS(グローバル内部監査基準)において、CAEは単なる「監査の管理者」ではなく、「組織のガバナンスにおける重要なパートナー」と位置づけられています。

パートナーであるためには、相手(ステークホルダー)が何を考え、何を心配しているかを知る必要があります。また、相手にこちらの意図を正しく理解してもらう必要があります。これを実現するのがコミュニケーションです。

★ポイント: コミュニケーションの目的は「情報の伝達」だけではありません。「期待値の調整」と「信頼関係の構築」が真の目的です。

2. 「公式」と「非公式」の使い分け

試験では、この2つのコミュニケーション形態の役割の違いと、そのバランスが問われます。

種類具体例目的・メリット
公式なコミュニケーショ(Formal)・四半期ごとの取締役会への報告
・監査報告書の発行
・承認された監査計画の提示
「記録と説明責任」
・公式な記録として残る。
・監査の独立性と客観性を担保する。
・ガバナンスプロセスの一部として機能する。
非公式なコミュニケーション(Informal)・CEOとの定期的な1on1ミーティング
・廊下での立ち話やコーヒーブレイク
・電話やメールでの迅速なアップデート
・取締役会議長との事前協議
「関係構築と根回し」
・相手の「本音」や懸念を聞き出せる。
・悪いニュースを伝える際のクッションになる。
・形式ばらないことで、率直な意見交換ができる。

イメージ:公式報告は「健康診断の結果表」です。数値が並んでおり、事実として重要です。 非公式な会話は、医師からの「最近どうですか?運動してます?」という問診です。信頼関係を作り、背景事情を探るために不可欠です。

3. 「No Surprises(驚きなし)」の原則

これはCIA試験における黄金のルールです。

取締役会や監査委員会の「公式な会議」の場において、経営陣や取締役が初めて聞くような「重大な不祥事」や「深刻なリスク」を発表してはいけません。 公式の場でいきなり爆弾を落とすと、経営陣は面目を潰され、対立構造が生まれ、信頼関係が崩壊します。

CAEの正しい行動:
重大な発見事項があった場合、「非公式なコミュニケーション」を通じて、事前に関係者(CEOや監査委員長など)に耳打ちし、事実確認と心の準備をさせておくこと。 その上で、公式の場で報告します。

4. 独立性とコミュニケーションのバランス

ここが試験のひっかけポイントです。「仲良くなりすぎる」ことへの懸念です。

  • 誤解: 「独立性を保つために、CAEは経営陣と親しく話すべきではない。常に文書でやり取りすべきだ。」
  • 正解: 独立性は「精神的な客観性」のことです。コミュニケーションを拒絶することではありません。頻繁に対話し、信頼関係を築きつつも、言うべきことは言う(客観性を保つ)のがプロフェッショナルです。

5. 試験で狙われるポイント

  1. 「頻度」と「タイミング」
    • 公式報告は定期的(四半期ごとなど)ですが、コミュニケーション全体としては「継続的(Ongoing)」であるべきです。「年に4回しか会わない」CAEは、戦略的なパートナーになれません。
  2. 「双方向」であること
    • CAEが一方的に話すのではなく、ステークホルダーからの「インプット(期待、懸念、ビジネスの変化)」を受け取ることが重要です。これが監査計画の修正(リスクベース)につながります。

まとめ

セクションA-4-aの極意は、「ハード(公式報告)」と「ソフト(非公式対話)」のハイブリッドです。

  • 公式: ガバナンスの要件を満たす。
  • 非公式: 信頼口座に残高を貯める。

「独立性」を盾に孤立するのではなく、積極的に対話し、組織の「脈拍」を感じ取れるCAEが、GIASの求める理想像です。


【練習問題】パート3 セクションA-4-a

Q1. 内部監査部門長(CAE)は、監査委員会の公式会議でのみ報告を行い、それ以外の期間は独立性を保つために取締役や上級経営陣との接触を極力避けている。GIASおよび効果的な内部監査運営の観点から、この行動に対する評価として最も適切なものはどれか。

A. 独立性と客観性を維持するための最も理想的な行動であり、癒着のリスクを最小化している。

B. 公式な報告義務を果たしているため、基準には準拠しているが、効率性の観点からは改善の余地がある。

C. ステークホルダーとの信頼関係の構築や、組織の戦略的変化の把握を妨げるため、不適切である。

D. 非公式なコミュニケーションは文書化されないため、内部監査の品質評価(QAIP)において否定的な要因となる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): CAEの責任には、主要なステークホルダーとの関係構築が含まれます。公式会議のみに限定したコミュニケーションでは、組織の微妙な変化や経営陣の懸念(インプット)を適時に把握できず、信頼関係も構築できません。「独立性」は「孤立」を意味するものではありません。

不正解(A): 接触を避けることは、監査の効果を低下させるため、理想的ではありません。

不正解(B): GIASはステークホルダーとのコミュニケーションと関係構築を求めているため、基準の精神に完全には準拠していません。

不正解(D): 文書化は重要ですが、全ての非公式な会話を文書化する必要はありません。また、非公式な会話自体がQAIPでマイナスになることはありません(むしろ推奨されます)。


Q2. 「No Surprises(驚きなし)」の原則に基づき、内部監査部門長(CAE)が重大な不正の兆候を発見した際にとるべき行動として、最も適切なものはどれか。

A. 発見事項の改ざんを防ぐため、誰にも相談せず、次回の監査委員会まで情報を完全に封印し、会議の場で初めて公表する。

B. 取締役会での報告に先立ち、監査委員長やCEOなどの主要なステークホルダーと非公式に協議し、事実確認と報告内容の共有(事前の警告)を行う。

C. 独立性をアピールするため、まずは全社員向けの社内報で不正の概要を発表し、その後に経営陣へ報告する。

D. 経営陣との関係悪化を避けるため、公式な監査報告書には記載せず、口頭でのみCEOに伝える。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 「No Surprises」とは、公式の場で重要なステークホルダーを驚かせたり、恥をかかせたりしないことです。重大な問題については、事前に非公式なルートで主要人物に情報を共有し、対応を協議しておくことが、信頼関係の維持と実効性のある解決につながります。

不正解(A): 公式の場でいきなり発表すると、経営陣との対立を招き、建設的な議論ができなくなるリスクがあります。

不正解(C): 内部監査の守秘義務および報告プロセスの観点から、全社員への公表を先に行うのは完全に不適切です。

不正解(D): 重大な事実を隠蔽・省略することは、監査人の倫理規定および基準違反です。


Q3. 内部監査部門長(CAE)にとって、ステークホルダーとの「非公式なコミュニケーション(Informal Communication)」がもたらす主な利点として、適切でないものはどれか。

A. 組織の文化や政治的な力学(パワーバランス)について、より深い洞察を得ることができる。

B. 監査計画の策定において、経営陣が真に懸念しているリスクや期待についての率直なインプットを入手しやすくなる。

C. 監査の独立性を一時的に解除し、経営陣の意向に沿った監査結果に修正するための調整が可能になる。

D. 定期的な対話を通じて個人的な信頼関係(ラポール)を築き、監査業務への協力が得られやすい環境を作ることができる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): これは誤りであり、適切ではありません。非公式なコミュニケーションは関係構築のために重要ですが、それは「監査結果を経営陣の都合の良いようにねじ曲げる(癒着する)」ためではありません。独立性と客観性は、どのようなコミュニケーション形態であっても維持されなければなりません。

不正解(A): 組織の雰囲気や力学は、公式の場よりも非公式な会話で把握しやすいものです。

不正解(B): 本音ベースのインプットは、リスクベースの計画策定に有用です。

不正解(D): 信頼関係(ラポール)の構築は、非公式コミュニケーションの最大のメリットの一つです。