テーマ:チームを「動かす」ためのエンジニアリング ~やる気と成長のメカニズム~

セクションA-2-gは、CAE(内部監査部門長)が、スタッフが働きやすい環境を整え(職務設計・スケジュール)、成長を促し(メンタリング・コーチング)、適切に報いる(報酬)ための具体的な戦術に関するトピックです。

試験では、単なる人事管理論ではなく、「監査人の独立性を守る報酬体系」「コーチングとメンタリングの機能的な違い」など、内部監査特有の文脈が問われます。


1. 職務設計(Job Design):やりがいの創出

スタッフに単調な作業(コピー取りや単純な突合)ばかりさせていては、優秀な人材は辞めてしまいます。モチベーションを高めるための職務設計には、主に2つのアプローチがあります。

  • 職務拡大(Job Enlargement): 仕事の「量」や「種類」を増やすこと(水平的拡大)。
    • 例:売掛金の監査だけでなく、買掛金の監査も担当させる。
  • 職務充実(Job Enrichment): 仕事の「質」や「権限」を高めること(垂直的拡大)。
    • 例:監査手続の実施だけでなく、監査計画の立案や被監査部門との交渉権限を与える。
    • ★試験ポイント: 専門職の満足度を高めるには、職務充実(エンリッチメント)の方が効果的とされています。

2. コーチング vs メンタリング

どちらも「人を育てる」活動ですが、目的と期間が異なります。試験ではこの区別が頻出です。

項目コーチング(Coaching)メンタリング(Mentoring)
焦点タスク・スキル(業務遂行)キャリア・全人格的成長
期間短期的・即時的長期的・継続的
関係性通常は上司と部下上司とは限らない先輩(メンター)と後輩(メンティー)
目的特定の監査業務を成功させるため監査人としての将来のキャリアを支援するため
「今のインタビューの仕方をこう改善しよう」「5年後にCAEになるために、どんな経験が必要か話そう」

3. 報酬(Compensation)と独立性

「成果主義」は一般的ですが、内部監査人の報酬設計には「倫理的なレッドライン」があります。

禁止事項:
内部監査人のボーナスを、監査対象(被監査部門)の財務業績や、発見事項の数(少なさ)に連動させてはならない。

  • 理由: もし「工場の利益」がボーナスに直結するなら、工場の不正や不備を見逃そうとする動機(利益相反)が生まれるからです。
  • あるべき姿: 報酬は、監査計画の達成度、QAIPの結果、資格取得などの「監査部門としてのパフォーマンス」に基づくべきです。

4. 勤務スケジュール(Scheduling)とバーンアウト防止

監査業務は、厳しい締切、出張、被監査部門との対立など、ストレスが高い仕事です。CAEは、スタッフが燃え尽き症候群(バーンアウト)にならないよう配慮する必要があります。

  • ローテーション: 激務のプロジェクトの次は、比較的軽い業務や研修期間を挟む。
  • 柔軟性: リモートワークやフレックスタイムを活用し、ワークライフバランスを保つ。

5. 建設的なフィードバック(Constructive Feedback)

セクションC-1-d(パフォーマンス評価)でも触れましたが、フィードバックは「人格」ではなく「行動」に対して行うのが鉄則です。

  • SBIモデルの活用:
    • Situation(状況): 「昨日の会議で」
    • Behavior(行動): 「君がデータ不足を指摘した時」
    • Impact(影響): 「相手が防御的になり、議論が止まってしまった」
    • → 改善策の提案へ。

まとめ

セクションA-2-gのポイントは、「サステナビリティ(持続可能性)」です。

  • 人を使い潰すのではなく、職務充実とケアで長く働いてもらう。
  • コーチングで今の業務を回し、メンタリングで未来のリーダーを育てる。
  • 独立性を損なわない報酬で、健全な動機付けを行う。

CAEは、厳格な監査基準を守る一方で、温かみのある人間中心のマネジメントを行う必要があります。


【練習問題】パート3 セクションA-2-g

Q1. 内部監査部門において、新人スタッフの育成プログラムを導入しようとしている。CAEが「メンタリング(Mentoring)」制度と「コーチング(Coaching)」制度を区別して設計する際、メンタリングの特徴として最も適切な記述はどれか。

A. 特定の監査手続(例:データ抽出)のスキルを習得させるために、直属の上司が手取り足取り教える短期間のプログラムである。

B. 組織の文化への適応や長期的なキャリア形成を支援するために、直属の評価者ではない経験豊富な先輩社員が相談役となり、継続的な関係を構築するものである。

C. 監査業務のミスを指摘し、人事評価の点数を決定するための公式な面談プロセスである。

D. 外部の専門講師を招いて実施する、座学形式の集合研修である。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): メンタリングは、長期的視点でのキャリア支援や全人格的な成長を目的とします。評価関係にない(利害関係のない)先輩が担当することで、本音の相談がしやすくなるのが特徴です。

不正解(A): これは「コーチング」または「OJT」の特徴です(タスク志向・短期的)。

不正解(C): これは「パフォーマンス評価面談」です。

不正解(D): これは「トレーニング(研修)」です。


Q2. 内部監査人のモチベーションを高めるための「職務設計(Job Design)」において、職務充実(Job Enrichment)の例として最も適切なものはどれか。

A. 監査スタッフに対して、同じレベルの単純なデータ入力作業の量を2倍に増やす。

B. 監査スタッフに、複数の異なる部署のコピー取りやファイリング業務を兼務させる。

C. 経験豊富な監査スタッフに対して、監査プログラムの作成や、被監査部門の管理職との折衝など、より高い責任と自律性を要する業務を任せる。

D. 監査スタッフの給与を一律に5%アップさせる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 職務充実(エンリッチメント)とは、垂直方向に責任や権限を拡大し、仕事の質を高めることです。これにより、達成感や成長実感(内発的動機付け)が得られます。

不正解(A): これは「職務拡大(Enlargement)」ですが、単純作業の量を増やすだけではモチベーション向上にはつながりにくいです。

不正解(B): これも職務拡大の一種ですが、やりがいには直結しません。

不正解(D): 報酬の変更は職務設計(仕事の中身)の話ではありません。


Q3. 内部監査人の報酬制度を設計する際、監査人の「客観性(Objectivity)」を損なうリスクが最も高い仕組みはどれか。

A. 内部監査部門全体の年間計画達成率に基づいてボーナスを決定する。

B. 公認内部監査人(CIA)などの専門資格の取得に対して報奨金を支払う。

C. 担当した被監査部門の財務的業績(利益額)や、監査で発見された不備の少なさに連動してボーナスを決定する。

D. 多面評価(360度評価)の結果を取り入れて昇給額を決定する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 監査人の報酬が被監査部門の業績に依存する場合、監査人はその部門の利益を減らすような指摘(引当金の計上など)を躊躇する可能性があります。また、「不備が少ないほどボーナスが出る」なら、不備を見つけても報告しないインセンティブが働きます。これは明らかな利益相反です。

不正解(A): 部門全体のパフォーマンスに基づく報酬は一般的で適切です。

不正解(B): 専門能力開発を推奨するものであり、推奨されます。

不正解(D): 適切な評価手法の一つです。