テーマ:最強の監査チームをどう作るか ~「集合的適格性」のパズル~

セクションA-2-bは、CAE(内部監査部門長)が、監査部門に必要なスキルセットを定義し、それを満たす人材を採用・配置するプロセスです。

試験では、「スーパーマン(全ての知識を持つ完璧な監査人)」を探すことではなく、チーム全体として必要な能力を網羅する「集合的適格性(Collective Competence)」を確保する戦略的視点が問われます。


1. 導入:CAEは「GM(ゼネラルマネージャー)」である

プロ野球チームのGMが、ホームランバッターばかり集めても勝てないように、CAEも「会計の専門家」だけを集めても現代の複雑なリスクには対応できません。

CAEには、監査計画(リスク)に基づいて、どのようなスキルの選手(監査人)が必要かを分析し、採用によってチームを編成する責任があります。

2. 採用プロセスのステップ

効果的な採用は、求人広告を出す前から始まっています。

ステップ①:スキル・ギャップ分析

まず、「現在のチームが持っているスキル」と「監査計画の実行に必要なスキル」の差(ギャップ)を特定します。

  • 必要なスキル: IT、データ分析、不正調査、業界知識、語学力など。
  • 判断: ギャップを埋めるには「教育(育成)」か、「採用(中途・新卒)」か、それとも「外部委託(コソーシング)」か?

ステップ②:職務記述書(Job Description)の作成

求める人物像を明確にします。ここでは以下の2つの側面のバランスが重要です。

  • ハードスキル(専門知識): 会計、IT、規制の知識など。
  • ソフトスキル(人間力): コミュニケーション能力、批判的思考力(クリティカルシンキング)、説得力、倫理観。
    • ★ポイント: 現代の監査では、単に知識があるだけでなく、経営陣と対話し、関係を構築できるソフトスキルが極めて重要視されます。

ステップ③:候補者の選定と面接

履歴書のスペックだけでなく、組織文化への適合性や、客観的な姿勢(Professional Skepticism)を持っているかを見極めます。

3. 調達ルートの戦略:内部異動 vs 外部採用

人材をどこから連れてくるかは、監査部門の性質を決定づける重要な要素です。

調達源メリットデメリット・リスク
外部採用
(転職市場・新卒)
・新しい視点や客観性を持ち込める。
・特定の専門スキル(IT監査人など)を即座に確保できる。
・組織の文化やビジネスプロセスを理解するのに時間がかかる。
・採用コストが高い。
内部異動
(社内ローテーション)
・組織のビジネスや人脈を深く理解している。
・将来の経営幹部候補としてのトレーニング(Management Training)になる。
・以前いた部署を監査する際、客観性が損なわれるリスクがある(利益相反)。
・監査手法の基礎を一から教える必要がある。

ポイント 内部異動者(ゲスト監査人など)を受け入れる場合、CAEは彼らが「出身部署」を監査しないように配置を調整し、客観性を担保する必要があります。

4. 「集合的適格性」の確保

GIASにおいて、CAEは「個々の監査人」がすべての知識を持っていることを要求しません。しかし、「監査部門全体」としては、必要な知識をすべて持っていなければなりません。

原則: 全員がITの専門家である必要はない。しかし、チームの中に少なくとも一人(または外部委託)はITの専門家がいなければ、IT監査を行ってはならない。

採用活動は、このパズルの欠けているピース(例:サイバーセキュリティに強い人)を埋めるために行われます。

まとめ

セクションA-2-bのポイントは、「多様性(Diversity)による補完」です。

  • 監査計画(リスク)が、必要な人材(スペック)を決める。
  • ハードスキルだけでなく、ソフトスキルを重視する。
  • 内部異動と外部採用を組み合わせ、チーム全体で「死角」をなくす。

CAEは、現在だけでなく将来のリスクも見据えて、最適なポートフォリオ(人材構成)を構築する必要があります。


【練習問題】パート3 セクションA-2-b

Q1. 内部監査部門長(CAE)は、次年度の監査計画において、新たに導入されたAIシステムの監査を予定している。しかし、現在の監査チームにはAIや高度なデータ分析に関する知識を持つスタッフが一人もいない。GIASにおける「集合的適格性」の観点から、CAEがとるべき対応として最も適切なものはどれか。

A. 監査チーム全員に対して、監査開始までにAIの専門家レベルになるための集中トレーニングを義務付ける。

B. 内部監査人は何でも監査できる汎用的なスキルを持つべきであるため、専門知識がなくても、既存のスタッフのみで学習しながら監査を実施する。

C. 必要な専門知識を持つ人材を中途採用するか、もしくは外部の専門家(サービス・プロバイダ)を一時的にチームに招聘して、部門全体として必要な適格性を確保する。

D. 専門知識がない領域の監査を行うことはリスクが高いため、AIシステムの監査を監査計画から削除する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): GIASでは、内部監査部門全体として(集合的に)必要な知識やスキルを保有していることを求めています。内部にスキルがない場合、新規採用や外部リソース(コソーシング)によってそのギャップを埋めるのがCAEの責任です。

不正解(A): 全員を短期間で専門家レベルに育成するのは非現実的です。

不正解(B): 必要な知識なしに監査を行うことは、専門職としての正当な注意義務(Due Professional Care)に違反します。

不正解(D): リスクが高い領域であるにもかかわらず、スキル不足を理由に監査を回避することは、組織に対する責任放棄です。


Q2. 多くの組織において、業務部門から内部監査部門への「社内ローテーション(配置転換)」制度が採用されている。CAEがこの制度を通じて人員を受け入れる際のメリットとして、最も適切な記述はどれか。

A. 外部から採用するよりも給与コストを大幅に削減できるため、監査予算の縮小に対応できる。

B. 候補者が組織の文化、業務プロセス、および主要なリスクについて深い知識を有しており、将来の管理職候補としての視野を広げる機会となる。

C. 社内の人間関係を利用して、監査での指摘事項をもみ消したり、手心を加えたりすることが容易になる。

D. 内部異動者は監査の専門家ではないため、監査基準や倫理規定を遵守させる必要がなく、管理が楽である。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 内部異動(ローテーション)の最大のメリットは、深いビジネス知識の活用と、組織全体の人材育成(マネジメント・トレーニング)としての機能です。彼らは監査終了後、統制の重要性を理解した管理者として現場に戻り、ガバナンスの向上に寄与します。

不正解(A): 給与は通常維持されるため、コスト削減が主目的ではありません。

不正解(C): 癒着や馴れ合いは監査の客観性を損なう最大のリスクであり、メリットではありません。

不正解(D): 監査業務に従事する以上、バックグラウンドに関わらず、基準と倫理規定の遵守は必須です。


Q3. CAEが内部監査人の採用面接を行う際、候補者の「ソフトスキル」を評価するための質問として、最も適切かつ重要な視点はどれか。

A. 複雑な会計基準の条文を暗記しているかを確認する。

B. 過去にどれだけの残業時間をこなしてきたか、体力と根性を確認する。

C. 被監査部門と意見が対立した際に、どのようにコミュニケーションを取り、事実に基づいて論理的に説得できるかを確認する。

D. 上司の命令に対して、疑問を持たずに即座に従う従順さがあるかを確認する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 現代の内部監査人には、技術的な知識(ハードスキル)以上に、コミュニケーション能力、交渉力、批判的思考力といったソフトスキルが求められます。対立を建設的に解決する能力は、監査の価値を高めるために不可欠です。

不正解(A): これはハードスキルの確認です。

不正解(B): 現代的な人材マネジメントの観点から不適切です。

不正解(D): 監査人には「客観性」と「懐疑心」が必要であり、盲目的な服従は監査の失敗につながるリスクがあります。