【CIA試験講義】パート3 セクションA-2-a: 予算プロセスの手順と考慮事項
テーマ:旅の資金を確保せよ ~「計画」を実現する「予算」の論理~
セクションA-2-aは、CAE(内部監査部門長)が、策定されたリスクベースの監査計画を実行するために必要な資金、人員、および技術リソースをどのように計算し、承認を得るかというプロセスです。
試験では、予算策定が単なる事務作業ではなく、「監査部門の独立性を守り、十分な品質を維持するための戦略的プロセス」であることを理解しているかが問われます。
1. 導入:予算は「計画」に従う
家を建てる時、設計図(計画)なしに見積書(予算)を作ることはできません。内部監査も同じです。
基本原則:
監査計画(何を監査するか)が決まって初めて、予算(いくらかかるか)が決まる。
CAEは、「いくら予算がもらえるか」を先に気にするのではなく、「組織のリスクに対応するために何が必要か」を先に考え、それを正当化する予算を請求する責任があります。
2. 予算策定の主要なステップ
GIAS(グローバル内部監査基準)に基づく標準的なプロセスは以下の通りです。
ステップ①:監査計画(Audit Plan)の確定
リスク評価に基づき、来年度の監査対象リストと優先順位を決定します(パート2の範囲)。
ステップ②:リソース要件の計算(Resource Requirement)
計画を完了するために必要な資源を積み上げます。
- 人的資源: 必要な総監査時間数 ÷ 1人当たりの稼働可能時間 = 必要人数(FTE)。
- 財務的資源: 出張旅費、外部トレーニング費用、協会会費など。
- 技術的資源: 監査管理ツール、データ分析ソフト、AIライセンス費用、PCなどのハードウェア。
ステップ③:ギャップ分析
「必要なリソース」と「現在保有しているリソース」を比較します。
- 不足がある場合: 新規採用、コソーシング(外部委託)、またはIT投資を計画します。
ステップ④:予算案の提示と承認
ここが試験の最重要ポイントです。
- 上級経営陣(Senior Management): 予算案をレビューし、全社的な予算編成の一部として調整しますが、最終決定権者ではありません。
- 取締役会(Audit Committee):最終的な承認権限を持ちます。
- なぜ? 経営陣が予算を減らすことで、監査部門を「兵糧攻め(無力化)」にするのを防ぐためです(独立性の保護)。
3. 予算に含まれるべき要素(内訳)
単に給料だけではありません。品質の高い監査を維持するためには、以下の項目を考慮する必要があります。
| 項目 | 具体例と考慮事項 |
|---|---|
| 人件費 | 給与、ボーナス、採用コスト。※専門スキル(IT、不正調査)を持つ人材はコストが高くなる傾向がある。 |
| 教育・研修費 | CPE(継続的専門教育)の要件を満たすための研修、カンファレンス参加費、資格維持費。 ※これを削ると、将来的に監査品質が低下する(QAIP上の問題になる)。 |
| 技術投資 | データ分析ツール、CAATs(コンピュータ支援監査技法)、リモート監査ツール。 ※初期投資は高いが、長期的には効率性(Efficiency)を高める。 |
| 予備費(Contingency) | 突発的な不正調査や特命プロジェクトに対応するためのバッファ(余裕)。 |
4. 予算が削減された場合の対応
もし、会社の業績悪化などで、どうしても必要な予算が確保できなかった場合、CAEはどうすべきでしょうか?
- 影響の分析: 予算削減によって、「どの監査ができなくなるか(スコープの制限)」を明確にする。
- 取締役会への報告: 「予算が減ったので、この高リスク領域の監査はできません。そのリスクは受容されますか?」と突きつけます。
- 調整: 監査計画を修正(縮小)し、取締役会の再承認を得ます。
★ポイント: CAEは「できません」と言うだけでなく、「リソース不足が組織に及ぼすリスク(監査しないリスク)」をステークホルダーに理解させる責任があります。
まとめ
セクションA-2-aのポイントは、「資源の十分性(Sufficiency)」です。
- CAEの責任は、監査計画を達成するのに「十分な」資源を確保すること。
- 予算の承認プロセスは、経営陣からの独立性を守る防波堤である。
- 予算不足は、監査範囲の制限(Scope Limitation)に直結するため、必ず取締役会に報告する。
予算管理は、単なる数字の管理ではなく、監査部門の「実力」を定義する重要なプロセスです。
【練習問題】パート3 セクションA-2-a
Q1. 内部監査部門長(CAE)は次年度の予算案を作成している。全社的なコスト削減の圧力により、CEOから「内部監査予算を昨年対比で10%削減するように」との指示を受けた。CAEが最初に行うべき分析として、最も適切なものはどれか。
A. 外部トレーニング費用と旅費を全額カットし、10%の削減目標を達成した予算案を作成してCEOに提出する。
B. 10%の削減が、承認されたリスクベースの監査計画の遂行にどのような影響を与えるか(どこの監査ができなくなるか)を具体的に分析する。
C. 監査スタッフを1名解雇して人件費を削減し、残りのスタッフに残業でカバーさせる計画を立てる。
D. 取締役会に直訴し、CEOの指示は監査の独立性に対する侵害であるとして、CEOの解任を要求する。
【解答・解説】
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正解(B): 予算と監査計画は連動しています。予算が削減される場合、CAEはまずその影響(Impact)を分析し、「どのリスク領域がカバーできなくなるか」を特定する必要があります。その上で、そのリスクを組織が受容できるかを取締役会と協議します。
不正解(A): 必要なトレーニング等の削減は監査品質の低下を招くため、安易に行うべきではありません。
不正解(C): 過度な残業は品質低下やスタッフの離職リスクを高めるため、持続可能な解決策ではありません。
不正解(D): 予算削減の指示自体は経営判断としてあり得ることです。直ちに独立性の侵害と決めつけるのではなく、まずは影響分析と報告を行うのが適切なプロセスです。
Q2. GIAS(グローバル内部監査基準)において、内部監査部門の予算およびリソース計画の「最終的な承認」権限を持つのは誰か。
A. 最高経営責任者(CEO)
B. 最高財務責任者(CFO)
C. 取締役会(または監査委員会)
D. 外部会計監査人
【解答・解説】
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正解(C): 内部監査部門の独立性を確保するため、予算、リソース計画、および監査計画の最終承認権限は、経営陣(CEO/CFO)ではなく、ガバナンス機関である取締役会(監査委員会)にあります。経営陣はレビューや調整を行いますが、承認者ではありません。
不正解(A): CEOは管理上の報告ラインですが、機能的な承認権限は取締役会にあります。
不正解(B): CFOが予算を決定すると、財務部門に対する監査の独立性が損なわれるリスクがあります。
不正解(D): 外部監査人は内部監査の予算決定に関与しません。
Q3. CAEが内部監査部門の予算案を作成する際、考慮すべき「リソースの十分性(Sufficiency)」に関する記述として、最も適切なものはどれか。
A. リソースの十分性は、他社の内部監査部門の平均予算額と比較して決定されるべきである。
B. リソースの十分性は、主に財務的な予算額のみを指し、監査人のスキルや知識は考慮に含まれない。
C. リソースの十分性は、承認された監査計画(リスク、範囲、頻度)を完全に遂行できるかどうかによって決定される。
D. リソースの十分性は、過去の実績に基づいて決定されるため、リスク評価の結果が変わっても予算を変更する必要はない。
【解答・解説】
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正解(C): 「十分なリソース」の定義は、リスクベースの監査計画を達成できるかどうかです。いくら金額が多くても、計画された監査を完了できなければ不十分であり、逆に金額が少なくても、低リスクで計画が少なければ十分な場合もあります。
不正解(A): ベンチマークは参考になりますが、組織ごとのリスクプロファイルが異なるため、決定的な要因ではありません。
不正解(B): リソースには、財務(カネ)だけでなく、人的資源(ヒト・スキル)や技術(モノ・IT)も含まれます。
不正解(D): リスクは変化するため、過去の実績(前年踏襲)だけでは不十分です。動的なリスク評価に基づく必要があります。
