【CIA試験講義】パート2 セクションC-2-a: 監査業務期間中のコミュニケーション
テーマ:「サプライズなし(No Surprises)」の原則 ~信頼を築く対話術~
セクションC-2-aは、監査の開始(計画)から終了(報告)までの間、被監査部門やその他のステークホルダーと「いつ」「どのように」情報を共有すべきかを決定するプロセスです。
試験では、コミュニケーションを単なる「情報の伝達」としてではなく、「事実確認を行い、誤解を防ぎ、是正措置への合意を取り付けるための戦略的ツール」として理解しているかが問われます。
1. 導入:監査は「抜き打ち」ではない
かつての監査は「警察官」のように振る舞い、何も言わずに調査して、最後に「逮捕(指摘)」することがあったかもしれません。しかし、現代の内部監査(GIAS準拠)では、「No Surprises(サプライズなし)」が黄金律です。
被監査部門が「監査報告書を見て初めて問題を知った」という状況は、コミュニケーションの失敗を意味します。
2. フェーズごとのコミュニケーション戦略
監査の進行に合わせて、適切なタイミングと方法(公式/非公式、書面/口頭)を使い分ける必要があります。
① 計画段階(Planning):期待値のすり合わせ
- 目的: なぜ監査をするのか、何を見るのか、スケジュールはどうするかを合意する。
- 主要なイベント:開始会議(Opening Meeting / Kick-off)
- 方法: 公式な会議(対面またはWeb)+資料(書面)。
- 内容: 監査の目的、範囲、時期、必要なリソースの確認。ここで人間関係の土台を作ります。
② 実地調査段階(Fieldwork):進捗と事実確認
- 目的: 発見した問題が「事実」かどうかを確認し、速やかに修正を促す。
- アプローチ:
- 即時性: 問題(発見事項の候補)を見つけたら、監査報告書を書く前(その場)に担当者と話し合います。
- 方法(非公式→公式): まずは口頭(Informal/Oral)で「これ、違っていませんか?」と聞き、事実認識が一致したら、電子メールや中間メモ(Formal/Written)で記録に残します。
- メリット: 単なる勘違いならその場で解決でき、誤った指摘を報告書に書くリスク(監査人の恥)を回避できます。
③ 報告段階(Reporting):結論の合意
- 目的: 最終的な監査結果と、誰がいつまでに直すか(是正措置)を確定させる。
- 主要なイベント:終了会議(Closing Meeting / Exit Conference)
- 方法: ドラフトレポート(書面)を配布した上での公式な会議。
- 内容: 発見事項の正確性の最終確認と、経営陣のコメント(アクションプラン)の合意。
3. コミュニケーション手段の決定(Method Selection)
「メールで送るか、電話するか、会議室に呼ぶか」。この判断基準は試験で問われます。
| 状況・内容 | 推奨される方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 複雑な問題 / 重大な指摘 | 対面(口頭)+ 書面 | 誤解の余地をなくし、ニュアンスを伝え、記録も残すため。 |
| 単純な事実確認 / データ依頼 | 電子メール(書面) | 効率的であり、依頼の証跡が残るため。 |
| 敏感な話題(不正の初期兆候など) | 慎重な口頭での相談 | 証拠が固まる前に文書化すると、法的リスクや風評被害を招く恐れがあるため。 |
| 進捗報告 | 定例ミーティング(口頭) | 形式張らずに、遅延リスクなどを共有するため。 |
4. 文書化の重要性
口頭(Oral)で重要な合意をした場合、監査人は必ずそれを文書化(Document)しなければなりません。
監査人の鉄則:
「話した」だけでは「やった」ことにならない。 会議議事録、フォローアップメール、レビューノートなどで、「いつ、誰と、何を話し、何が決まったか」を記録に残すことが、言った言わないのトラブルを防ぎます。
まとめ
セクションC-2-aのポイントは、「相手を巻き込む(Engagement)」ことです。
- 一方的に調べるのではなく、計画段階から相手と対話する。
- 問題を見つけたら、隠さずにすぐ相談する。
- 重要なことは書面に残す。
効果的なコミュニケーションは、監査の「敵」を「協力者」に変える力を持っています。
【練習問題】パート2 セクションC-2-a
Q1. 内部監査人は実地調査(フィールドワーク)中に、在庫管理プロセスにおける重大なコントロールの欠陥を発見した。この時点での被監査部門とのコミュニケーションとして、最も適切なものはどれか。
A. 監査の独立性を保つため、発見事項については一切口外せず、最終監査報告書の発行をもって初めて被監査部門に通知する。
B. 直ちに被監査部門の管理者と話し合い、事実関係に間違いがないかを確認(検証)するとともに、可能であれば即時の是正を促す。
C. 現場の担当者と癒着するリスクを避けるため、発見事項は被監査部門の頭越しに、直接CEOまたは監査委員会に報告する。
D. 発見事項を修正するよう現場担当者に口頭で命令し、修正された場合は監査報告書には記載しない。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): これが「サプライズなし」の原則です。実地調査中に問題を発見した場合、速やかに被監査部門と議論し、事実認識を一致させることが重要です。これにより、誤った指摘を防ぎ、早期の改善を促すことができます。
不正解(A): 最終報告まで隠すことは、被監査部門との信頼関係を損ない、事実誤認のリスクを高めるため不適切です。
不正解(C): 通常の業務監査において、事実確認を経ずにいきなり最上層部に報告するのは手順として不適切であり、現場との関係を悪化させます(不正調査などの特殊な場合を除く)。
不正解(D): 重大な欠陥であれば、たとえ修正されても記録・報告する必要があります。また、監査人は「命令」する権限を持ちません。
Q2. 監査計画段階において「開始会議(Opening Meeting)」を開催する主な目的として、GIASの観点から最も適切なものはどれか。
A. 監査人が権威を示し、被監査部門に対して非協力的な態度を取らないよう警告する。
B. 監査報告書の草案(ドラフト)を配布し、発見事項について議論する。
C. 監査の目的、範囲、スケジュール、および必要なリソースについて情報を共有し、被監査部門との相互理解と協力を取り付ける。
D. 監査対象領域に関する詳細なテスト手続き(監査プログラム)をすべて開示し、被監査部門に事前対策の準備をさせる。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(C): 開始会議の目的は、ステークホルダーとの「期待値の調整」です。何のために、いつ、どのような監査を行うかを説明し、業務への支障を最小限に抑えつつ協力を得るために行います。
不正解(A): 高圧的な態度は信頼関係を損ない、効果的なコミュニケーションを阻害します。
不正解(B): 報告書のドラフトを議論するのは「終了会議(Closing Meeting)」です。
不正解(D): 監査の範囲は伝えますが、詳細なテスト手順(抜き取り対象など)まで教えると、隠蔽工作を招く恐れがあるため通常は開示しません。
Q3. 複雑かつ専門的な会計処理に関する監査発見事項について、被監査部門の管理者とコミュニケーションを行う際の方法として、最も効果的かつ適切なものはどれか。
A. 誤解を避けるため、詳細な分析を含む文書(書面)を事前に送付した上で、対面またはWeb会議(口頭)を設定して説明し、質疑応答を行う。
B. 文書に残すと証拠になるため、電話(口頭)のみで概要を伝え、詳細な記録は残さないようにする。
C. 専門用語が多いため直接の説明は避け、専門書や基準書のコピーをメールで送りつけ、自分で読んでもらう。
D. 監査人の結論は絶対であるため、コミュニケーションをとる必要はなく、一方的に最終報告書を送付する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(A): 複雑な問題については、「書面(正確性・記録)」と「口頭(対話・ニュアンス)」を組み合わせるのがベストプラクティスです。事前に資料を読んでもらうことで会議の生産性が上がり、誤解を解くことができます。
不正解(B): 重要な発見事項について記録を残さないのは、専門職としての適格性を欠きます。
不正解(C): コミュニケーションの放棄であり、被監査部門の理解を得られません。
不正解(D): 監査人の判断は重要ですが、被監査部門の意見(マネジメント・コメント)を聞くプロセスは必須です。
