テーマ:名監督は選手を育てる ~「仕事のチェック」と「人の評価」~

セクションC-1-dは、監督者(エンゲージメント・スーパーバイザー)が、担当した監査人の働きぶり(パフォーマンス)をどのように評価し、フィードバックを与えるべきかというトピックです。

試験では、監督を単なる「品質管理(検品)」としてだけでなく、「部下の育成と将来の監査品質向上のためのプロセス」として捉えているかが問われます。


1. 導入:監督の「二面性」

監督には、大きく分けて2つの目的があります。

  1. 業務の品質確保: 監査報告書が正確で、基準に準拠していることを保証する。(これまでのセクションC-1-a~cの内容)
  2. 監査人の能力開発: スタッフが成長し、次回の監査でより良いパフォーマンスを発揮できるようにする。(今回のテーマ)

GIAS(グローバル内部監査基準)は、内部監査部門長(CAE)に対し、監査人の知識・スキル・能力を維持・向上させることを求めています。現場の監督者は、その最前線にいます。

2. フィードバックのタイミング:「鉄は熱いうちに打て」

評価は、年に1回の人事考課の時だけに行うものではありません。監督者は、以下の2つのタイミングで評価・指導を行う責任があります。

① 即時のフィードバック(On-the-job Training / OJT)

監査業務の期間中、問題や改善点が見つかったら、その場ですぐに指導します。

  • 例: インタビューの仕方が強引だった場合、その直後に「今の聞き方は相手を防御的にさせるので、次はこう聞こう」とアドバイスする。
  • メリット: 記憶が鮮明なうちに修正でき、その監査業務の品質向上に直結する。

② 業務終了後の評価(Post-engagement Evaluation)

ひとつの監査業務が完了した段階で、全体を通したパフォーマンスを評価します。

  • 内容: 予算管理能力、コミュニケーション、分析スキル、専門職としての判断力など。
  • 活用: この記録は、将来のアサインメント(業務割り当て)や、長期的な研修計画の基礎データとなります。

3. 評価の基準:何を評価するのか?

「頑張った」「遅くまで残業した」という精神論ではなく、客観的な基準で評価する必要があります。

  1. 監査計画および手順の遵守: 指示通りにテストを実施できたか。
  2. 専門職としての判断(Professional Judgment): リスクを見極め、論理的な結論を導けたか。
  3. コミュニケーションスキル: チーム内および被監査部門と円滑な関係を築けたか。
  4. 文書化のスキル: 調書は「自立性」の原則を満たしているか。

イメージ:
スポーツの試合終了後、監督はスコア(監査結果)を見るだけでなく、選手一人ひとりに対して「あの時のパス回しは良かった」「後半スタミナが切れていた」とプレイ内容(パフォーマンス)を評価します。それが次の試合の勝利につながるからです。

4. 建設的な評価(Constructive Criticism)

試験で問われる重要なマインドセットは、「建設的(Constructive)」であることです。

  • × 悪い例: 「君の書いた調書は全然ダメだ。やり直せ。」(人格否定、具体的な指示がない)
  • ○ 良い例: 「この調書は結論の根拠が弱い。データの出典を明記し、計算過程を追加することで、第三者が理解できるように修正してほしい。」(具体的な改善点の指摘)

監督者は、監査人のモチベーションを維持しながら、弱点を克服させる手腕が問われます。

5. 文書化と将来への接続

パフォーマンス評価の結果は、口頭で伝えるだけでなく、組織の方針に従って文書化されるべきです。 これは、「監督が行われた証拠」になるだけでなく、CAEが部門全体のスキルセットを把握し、必要なトレーニング(研修)を計画するための重要なインプットになります。

まとめ

セクションC-1-dのポイントは、「評価 = 未来への投資」です。

  • 今の監査を成功させるために指導する(OJT)。
  • 次の監査を成功させるために記録を残す(評価シート)。

監督者は、監査報告書という「製品」を作りながら、同時に優秀な監査人という「人財」も育てているのです。


【練習問題】パート2 セクションC-1-d

Q1. 個々の内部監査業務における、スタッフ監査人へのフィードバックに関する記述として、最も適切なものはどれか。

A. フィードバックは、監査人のモチベーションを下げないよう、監査業務がすべて完了し、報告書が発行された後の「打ち上げ」の席でまとめて行うのがベストである。

B. 監査業務の期間中に、ミスや改善点が見つかった場合は、その都度速やかに建設的なフィードバックを行い、是正と学習の機会を提供する。

C. 評価は人事部門の役割であるため、監査の監督者は業務上の指示のみに徹し、パフォーマンスに関するフィードバックは行うべきではない。

D. 否定的なフィードバックはハラスメントになる恐れがあるため、監督者は肯定的な点のみを伝え、欠点は本人が気づくまで待つべきである。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 監督における指導は「タイムリー」であることが重要です。問題が発生した直後にフィードバックを行うことで、その監査業務内での改善(リカバリー)が可能になり、学習効果も最も高くなります。

不正解(A): 業務終了後まで待つと、その監査での改善機会を逸してしまいます。また、記憶が薄れて効果が低下します。

不正解(C): 現場の監督者こそが、監査人のパフォーマンスを詳細に観察できる立場にあり、評価と指導の一次的な責任を負います。

不正解(D): 建設的な批判(改善点の指摘)は成長に不可欠です。伝え方に配慮しつつ、必要な改善点は明確に伝える責任があります。


Q2. 監査業務終了後、監督者が担当監査人のパフォーマンス評価(勤務評定)を行う主な目的として、GIASおよび組織の目標達成の観点から最も適切なものはどれか。

A. 次の監査業務における役割分担を適切に決定するための情報を得るとともに、監査人の専門能力開発(トレーニング)のニーズを特定する。

B. 監査の失敗に対する責任の所在を明確にし、給与カットや降格の根拠となる証拠書類を作成する。

C. 外部監査人に対して、内部監査部門が厳格な管理を行っていることをアピールするための形式的な文書を作成する。

D. 担当監査人が監督者の個人的な好みに合致しているかどうかを確認し、チーム内の人間関係を調整する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(A): パフォーマンス評価の主目的は、将来に向けた「最適配置」と「能力開発」です。強みを知って適切な業務に割り当て、弱みを知ってトレーニングを提供することで、部門全体のパフォーマンス向上に寄与します。

不正解(B): 評価は処罰のためではなく、育成と改善のために行われるべきです。

不正解(C): 外部へのアピールではなく、内部的な品質向上と人材育成が目的です。

不正解(D): 評価は客観的なスキルと成果に基づくべきであり、個人的な好みで行ってはなりません。


Q3. ある監査業務において、新人の担当監査人が作成した調書に不備が多く、監督者が何度も修正を命じることになった。監督者の対応として、専門職としての育成の観点から最も適切なものはどれか。

A. 何度言っても直らないため、監督者がすべての調書を書き直し、新人にはその事実を伝えずに承認プロセスを進める。

B. 新人の能力不足を理由に、監査業務の途中であっても直ちに解雇するようCAE(内部監査部門長)に進言する。

C. 具体的にどの部分が基準に満たないのか、なぜ修正が必要なのかを説明し、修正作業を通じて基準への理解と文書化スキルを習得させる。

D. 調書の不備は無視して先に進み、監査報告書の発行を優先する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): これが「建設的なフィードバック」でありOJTの本質です。単に答えを教えるのではなく、「なぜ(Why)」と「どのように(How)」を指導することで、監査人のスキルアップを促します。

不正解(A): 監督者が書き直してしまうと、新人は学ぶ機会を失い、次回も同じミスを繰り返します。また、監督者の時間が奪われ非効率です。

不正解(B): まずは指導と育成を試みるべきです。即座の解雇は極端であり、適切な監督プロセスとは言えません。

不正解(D): 不備のある調書に基づいて報告書を作成することは、監査品質の欠如(基準違反)となり、最大のリスク要因です。