テーマ:品質のゲートキーパー ~「やったつもり」を「事実」に変える~

セクションC-1-cは、監査の実作業(テスト)が終わった後、その記録(調書)と導き出された結論が本当に正しいかを、監督者が検証するプロセスです。

試験では、レビューが単なる「誤字脱字チェック」ではなく、「監査証拠の十分性と結論の妥当性を保証する品質管理プロセス」であることを理解しているかが問われます。


1. 導入:なぜレビューが必要なのか?

担当監査人が「テスト完了!問題なし!」と言っても、それをそのまま信じて報告書を出すわけにはいきません。人間はミスをしますし、主観的なバイアスがかかることもあります。

監督者によるレビューの主な目的:

  1. 証拠の裏付け: 報告しようとしている発見事項は、本当に監査調書(証拠)によって支えられているか?
  2. 基準への準拠: 監査手続は、GIAS(グローバル内部監査基準)や内部方針に従って行われたか?
  3. 論理の整合性: 集められた事実から導き出された「結論」に飛躍はないか?

イメージ:
監査調書は、数学の試験における「計算過程」です。 監督者は先生として、単に「答え(結論)」が合っているかだけでなく、「計算過程(調書)」が論理的で正しいかをチェックします。過程が間違っていれば、答えが合っていても(まぐれ当たりでも)承認できません。

2. 監査調書(Workpapers)のレビューポイント

監督者が個々の調書をレビューする際、具体的に何を見ているのでしょうか? GIASの観点からは以下の問いかけが行われます。

  • 目的適合性: この手続は、監査計画で定めた目的(リスク)に対応しているか?
  • 自立性: 「担当者に聞かないとわからない」状態ではないか?(調書だけで完結しているか)
  • 正確性と完全性: 計算ミスはないか? 必要なサンプル数は満たしているか? 参照元(クロスリファレンス)は正しいか?
  • 不要な情報の排除: 監査に関係のない雑多なメモや、機密情報が不用意に残っていないか?

3. 「レビューノート」のプロセス

レビュー中に不備や疑問点が見つかった場合、監督者は「レビューノート(Review Notes)」と呼ばれる指摘事項を作成します。

  1. 発行: 監督者が質問や修正指示を書き込む(例:「このテストのサンプル数が不足している理由は?」)。
  2. 回答・修正: 担当監査人が追加作業を行い、回答する。
  3. クリア(消し込み): 監督者が修正内容を確認し、問題が解決したことを承認する。

★試験のポイント: レビューノートは、監督が行われた証拠となります。すべてのレビューノートが適切に解決(クリア)されるまで、その監査業務は完了したとはみなされません。

4. 「結論(Conclusion)」のレビュー

個々の調書チェックが終わったら、次は「全体の結論」の妥当性を判断します。

  • 発見事項の集計: 個々の小さな発見事項を集めたとき、全体として「コントロールは有効」と言えるのか、それとも「重大な欠陥あり」となるのか。この判断プロセスをレビューします。
  • 根本原因との整合性: 表面的な事象だけでなく、根本原因(ガバナンスや文化など)まで踏み込んだ結論になっているかを確認します。
  • 客観性の確保: 担当監査人が被監査部門と仲良くなりすぎて甘い評価をしていないか、あるいは逆に敵対的すぎて不当に厳しい評価をしていないかを見極めます。

5. 監督の証拠(Evidence of Supervision)

セクションC-1-aでも触れましたが、レビューを行ったという事実は文書化されなければなりません。

  • 各監査調書への電子署名(イニシャル)と日付
  • 「監査手続完了チェックリスト」への承認。
  • 解決済みのレビューノートの履歴。

これらは、外部品質評価(QAR)の際に「適切な監督が行われていた」ことを証明する重要なエビデンスとなります。

まとめ

セクションC-1-cの核心は、「Supportable(支持しうる)」という概念です。

  • 監査報告書の一言一句は、監査調書によって支持されていなければなりません。
  • その「支持の鎖」をつなぎ、強度を確認するのが監督者のレビュー責任です。

監督者は、監査報告書という「商品」が出荷される前の、最終品質検査官の役割を果たします。


【練習問題】パート2 セクションC-1-c

Q1. 監督者が担当監査人の作成した監査調書をレビューする主な目的として、GIASの観点から最も適切なものはどれか。

A. 担当監査人の年次人事評価(パフォーマンス評価)を行うための材料を収集する。

B. 監査調書に誤字脱字や文法的な誤りがないかを確認し、美しい文書を作成する。

C. 収集された監査証拠が監査の発見事項および結論を十分に裏付けており、監査業務の目的が達成されていることを保証する。

D. 監査時間を短縮するために、担当監査人が実施しなかった手続を監督者が代わりに完了させる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): レビューの核心的な目的は品質保証です。監査報告書に記載される結論が、客観的な証拠(監査調書)によって論理的に支えられているか、そして計画された監査目的が達成されたかを確認するために行われます。

不正解(A): 人事評価にも活用されますが、それは副次的な目的であり、監査業務プロセスとしての主目的ではありません。

不正解(B): 形式的なチェックも行いますが、より重要なのは内容の正確性と妥当性です。

不正解(D): レビューは作業の代行ではありません。不足があれば担当者に差し戻して完了させるのが原則です。


Q2. 監査監督者が、監査調書のレビュー中に、重要な発見事項に関する証拠が不十分であることに気づいた。担当監査人は「被監査部門の部長から口頭で確認したので間違いない」と主張している。この状況における監督者の対応として、最も適切なものはどれか。

A. 部長の言葉は信頼性が高いため、そのまま調書を承認し、レビューを完了する。

B. 「レビューノート(指摘事項)」を発行し、口頭証拠を裏付けるための文書やデータなどの客観的な証拠を追加で入手するよう担当監査人に指示する。

C. 証拠が不十分なため、その発見事項自体を監査報告書案から削除するよう指示する。

D. 監督者自身が部長に電話して再確認し、その結果をメモに残して承認とする。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 内部監査において、口頭での証言のみでは「十分な証拠」とはみなされにくいです。監督者は品質のゲートキーパーとして、裏付けとなる文書やデータを入手(確証)するよう指示し、調書の信頼性を高める必要があります。

不正解(A): 口頭証拠のみでの承認はリスクが高く、基準に適合しない可能性があります。

不正解(C): 重要な発見事項であれば、安易に削除するのではなく、証拠を補強して報告すべきです。

不正解(D): 監督者が介入することも可能ですが、まずは担当監査人に指導し、適切な手続(証拠収集)を行わせることが育成および役割分担の観点から適切です。


Q3. 監査業務の終了時に行われる「結論のレビュー」において、監督者が特に注意すべき事項はどれか。

A. 結論が、監査開始時に経営陣が期待していた内容と完全に一致しているかどうか。

B. 個々の監査調書に記載された事実の積み上げと、最終的な監査報告書の全体的な結論との間に論理的な整合性があるかどうか。

C. 監査調書のファイル容量がサーバーの規定内に収まっているかどうか。

D. すべての監査調書が、過去の監査業務で使用されたものと同じテンプレートを使用しているかどうか。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 結論のレビューでは「一貫性(整合性)」が重要です。詳細なテスト結果(調書)では多くの不備が見つかっているのに、最終結論が「問題なし」となっていれば矛盾しています。監督者は、ミクロ(調書)とマクロ(結論)が論理的に繋がっているかを確認します。

不正解(A): 監査の結論は事実に基づくべきであり、経営陣の期待や意向に忖度するものではありません(独立性・客観性の維持)。

不正解(C): ファイル管理は事務的な問題であり、監査の結論の質とは直接関係ありません。

不正解(D): 形式の統一は望ましいですが、結論の妥当性判断において最も重要な要素ではありません。