テーマ:戦況を読む指揮官 ~計画変更とリソースの最適化~

セクションC-1-bは、監査業務が始まった「後」に発生する様々な変化に対し、監督者(エンゲージメント・スーパーバイザー)がどのようにチームを動かし、業務分担を調整すべきかというトピックです。

試験では、一度決めた計画に固執するのではなく、「監査目的を達成するために、柔軟かつ現実的な判断で人員やタスクを再構成できるか」が問われます。


1. 導入:監査計画は「生き物」である

監査計画(予算、スケジュール、人員配置)は、あくまで監査開始時点での「予想図」に過ぎません。現場に入ってみると、以下のような事態が頻繁に起こります。

  • 想定よりもデータが汚く、整理に時間がかかる。
  • 担当していた監査人が急病で離脱した。
  • テスト中に「不正の兆候」が見つかり、調査範囲を広げる必要が出た。
  • 新人のスキルでは対応できない複雑な取引が見つかった。

監督者の責任は、こうした変化をいち早く察知し、業務分担を動的に調整(Realignment)することです。

2. 調整のトリガーと対応策

監督者が「介入」して業務分担を変更すべき典型的なシナリオと、その対応策を整理します。

① スキルとタスクのミスマッチ(Competency Gap)

スタッフがアサインされた業務に苦戦している、あるいは専門知識が不足していることが判明した場合。

  • 対応: そのスタッフを責めるのではなく、タスクをより経験豊富なスタッフに移管するか、専門知識を持つゲスト監査人(SME)やIT監査人をチームに追加投入します。
  • OJTの視点: 時間に余裕があれば、ベテランとペアを組ませて指導(コーチング)することも有効な調整です。

② 予期せぬリスクや問題の発見

当初のリスク評価では「低リスク」と見ていた領域で、重大な統制不備が見つかった場合。

  • 対応: その領域のテスト工数を増やし、逆にリスクが低いと判明した領域の工数を削減する(トレードオフ)か、監査予算(時間・人)の追加をCAE(内部監査部門長)に要請します。

③ 進捗の遅れ(Time Management)

監査の終了期限が迫っているのに、テストが終わらない場合。

  • 対応:
    1. ボトルネックになっている作業を特定し、リソースを集中させる。
    2. 優先順位の低い手続を省略できないか検討する(※監査品質を犠牲にしない範囲で)。
    3. 監査対象部門と交渉し、報告期限の延長を調整する。

3. コミュニケーションの責任

業務分担を変更することは、チームメンバーや被監査部門に影響を与えます。監督者は以下のコミュニケーションを行う責任があります。

  • チーム内: 「なぜ担当が変わるのか」「新たな優先順位は何か」を明確に伝え、モチベーションを維持する。
  • 被監査部門: もし担当者が変わったり、監査期間が延びる場合は、相手の業務への影響を考慮して速やかに連絡する。

4. 育成と品質のバランス(Tension)

監督者は常にジレンマを抱えています。

  • 育成の観点: 「新人には難しい仕事に挑戦させて成長させたい」
  • 品質・納期の観点: 「ベテランにやらせた方が早くて確実だ」

試験では、このバランス感覚が問われます。 基本原則は、「監査業務の目的達成(品質と納期)が最優先」です。育成は重要ですが、それによって監査が失敗しては本末転倒です。リスクが高い局面では、躊躇なく経験豊富なリソースへ切り替える判断が求められます。

まとめ

セクションC-1-bのポイントは、「状況適応型のリーダーシップ」です。

  • Plan(計画): 最初に決める。
  • Monitor(監視): 進み具合とスタッフの様子を見る。
  • Adjust(調整): 問題があれば、人を入れ替えたり、時間を延ばしたり、助けを呼んだりする。

監督者は、監査チームという「オーケストラ」の指揮者として、不協和音(トラブル)が生じたら即座に修正し、最後まで曲(監査業務)を完遂させる責任があります。


【練習問題】パート2 セクションC-1-b

Q1. 内部監査業務の実施中、担当していたシニア監査人が急遽、長期休暇を取ることになった。残されたチームメンバーは経験の浅いジュニア監査人のみである。この監査業務は、規制対応に関わる高リスクかつ複雑な領域を含んでいる。この状況において、監督者(スーパーバイザー)がとるべき行動として、最も適切なものはどれか。

A. ジュニア監査人にとって良い成長の機会であるため、そのまま業務を継続させ、監査完了後に詳細なフィードバックを行う。

B. シニア監査人が戻ってくるまで監査業務を完全に中断し、被監査部門には事情を説明して無期限の延期を伝える。

C. 直ちに業務分担を見直し、必要なスキルと経験を持つ別の監査人をアサインするか、監督者自身が現場作業の一部を直接担当して、監査の質と期限を維持する。

D. ジュニア監査人の負担を減らすため、高リスク領域のテスト手順を大幅に簡略化し、期限内に終わるように計画を変更する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 監督者の責任は、監査業務の目的を達成するために必要なリソース(能力・時間)を確保し続けることです。高リスク領域において経験不足のスタッフのみで進めることは品質リスクが高すぎるため、リソースの再配置(別人のアサインや監督者の直接介入)が必要です。

不正解(A): 育成は重要ですが、高リスク領域での失敗は許されません。「放置」に近い対応は監督責任の放棄です。

不正解(B): 無期限の延期は、ビジネスの要請や規制対応の観点から現実的ではありません。

不正解(D): リソース不足を理由に、必要な手続(特に高リスク領域)を省略することは、監査基準違反(十分な証拠の欠如)となります。


Q2. 監査業務の中盤、監督者は、アサインされた担当監査人が、特定のデータ分析タスクに予想以上に時間を費やしており、全体のスケジュールに遅れが出始めていることに気づいた。原因を確認すると、担当者のスキル不足が要因であった。監督者が最初にとるべきアクションとして、最も適切なものはどれか。

A. 担当監査人の人事評価を下げ、直ちにチームから外す。

B. 担当監査人と話し合い、タスクの難易度や障害となっている点を理解した上で、よりスキルを持つスタッフのサポートを入れるか、タスクの再配分(担当変更)を行う。

C. スケジュールの遅れを取り戻すため、残業や休日出勤を命じて、なんとしても自力でやり遂げさせる。

D. データ分析は必須ではないと判断し、そのタスク自体を監査プログラムから削除する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 監督者は、進捗遅延の原因(スキル不足)を特定し、ボトルネックを解消するために業務分担を調整する必要があります。サポートを入れたり担当を変えたりすることが、プロジェクト管理として最も建設的かつ効果的です。

不正解(A): 即座に処罰的な対応をとることは、問題解決にならず、チームの士気を下げます。

不正解(C): スキル不足が原因の場合、単に時間をかけても解決しない可能性が高く、効率的ではありません。

不正解(D): 計画された手続が必要性に基づいて設定されている場合、安易に削除することは監査目的の不達成につながります。


Q3. 監督者が業務分担を調整する際、「監査人の客観性(Objectivity)」の観点から特に注意すべき状況はどれか。

A. 監査スケジュールを短縮するために、ITスキルが高い監査人を手作業の多いテストからデータ分析のタスクへ移動させる場合。

B. 複雑な会計処理の監査において、専門知識が不足している監査人の代わりに、その処理を過去に担当していた経理部出身者(異動して1ヶ月未満)をアサインする場合。

C. 新人監査人のOJTのために、簡単な実査業務の担当をベテランから新人に変更する場合。

D. 監査対象部門からの要望により、コミュニケーションが円滑な監査人を窓口担当として固定する場合。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): GIASでは、過去に業務上の責任を負っていた領域の監査を、一定期間(通常は1年以上)経過せずに行うことは、客観性を損なうとされています。経理部出身者を直ちに経理の監査に充てる調整は、スキル的には適任でも、客観性の観点から避けるべきです。

不正解(A): スキルに基づく適切な配置転換であり、客観性の問題はありません。

不正解(C): 教育的配慮に基づく適切な調整です。

不正解(D): コミュニケーションの効率化は重要ですが、それ自体が直ちに客観性の侵害にはなりません(癒着のリスクには注意が必要ですが、Bの方がより直接的な違反です)。