【CIA試験講義】パート2 セクションB-7-a: 監査調書の情報の整理
テーマ:名探偵の「証拠保管庫」 ~監査調書の整理と管理~
監査業務が終了したとき、手元に残る唯一の物理的資産は何でしょうか? それは「監査報告書」と、それを裏付ける「監査調書(Audit Workpapers)」です。
セクションB-7-aは、監査人が実施した作業の足跡をどのように記録し、整理し、管理すべきかという、内部監査の品質を左右する極めて重要な領域です。 試験では、「第三者が見て理解できるか(スタンドアロンの原則)」という視点が徹底的に問われます。
1. 監査調書とは何か? その目的
監査調書とは、監査人が「何を見て」「何を考え」「どう判断したか」を記録したドキュメントの総称です。GIAS(新基準)においても、監査結果を裏付ける十分な情報の文書化が義務付けられています。
主な目的は以下の通りです:
- 結論の裏付け: 監査報告書に書かれた発見事項や意見の根拠となる証拠を提供する。
- 品質の保証: 監査が基準(GIAS)に従って行われたことを証明する。
- レビューの促進: 上席者(スーパーバイザー)が監査人の作業を監督・指導するための基礎となる。
- 外部審査への対応: 外部品質評価や、法的な問題が生じた際の防御材料となる。
2. 「スタンドアロンの原則」を理解する
試験対策として最も重要な概念がこれです。
★スタンドアロンの原則(The Stand-Alone Principle):
その監査業務に関わっていない経験豊富な監査人が、調書だけを見て(担当者に質問することなく)、以下の点を完全に理解できなければならない。
- 実施された手続きの内容
- 入手された証拠
- 到達した結論
もし、「これどういう意味?」と聞かないと分からない調書であれば、それは「不合格」です。
3. 効果的な調書の整理テクニック
膨大な資料を整理し、スタンドアロンの原則を満たすために、以下のテクニックが使用されます。
① インデックス(Indexing)とクロスリファレンス(Cross-referencing)
- インデックス: 全ての調書に背番号(例:A-1, B-2)を振り、検索可能にすること。
- クロスリファレンス(相互参照): 関連する情報同士をリンクさせること。
- 例:「発見事項の要約シート(A-1)」に、「詳細なテスト結果は(B-5)参照」と記載する。
- これにより、情報の迷子を防ぎ、論理のつながり(監査の軌跡)を明確にします。
② ティックマーク(Tick Marks / 検証済記号)
- 数字や金額の横に付ける「✔」や「∑」などの記号。
- 「元帳と突合した」「合計を再計算した」などの作業内容を簡潔に示すための記号です。
- 重要: 必ずその調書の下部に「凡例(Legend)」を付け、記号が何を意味するか説明する必要があります。
4. 調書の品質基準(5つのC)
優れた監査調書は、以下の要素(5Cs)を満たしている必要があります。特に試験では「簡潔性」と「関連性」が問われます。
- 完全性(Complete): 結論を支えるために必要な情報がすべて揃っている。
- 正確性(Correct): データや計算に誤りがない。
- 簡潔性(Concise):不要な情報は含めない。
- ※ここがひっかけポイントです。「関係する資料をすべてコピーして添付する」のは間違いです。結論に関係のない資料は「ノイズ」であり、捨てる勇気が必要です。
- 明瞭性(Clear): 誰が読んでも理解できる。専門用語の多用を避ける。
- 整然性(Clean/Constructive): 整理されており、論理構成がしっかりしている。
5. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント
- ×「監査調書には、入手したすべての文書のコピーを含めなければならない」
- 解説: 間違いです。監査調書は「ゴミ箱」ではありません。監査目標と関連があり、結論を裏付けるために必要な文書のみを含めます。不要なデータの山は、重要なリスクを隠してしまいます。
- ×「監査調書は監査人の個人的なメモであるため、自分さえ分かればよい」
- 解説: 完全に誤りです。調書は組織の資産であり、第三者(レビューアや将来の監査人)のために作成するものです。
- ×「ドラフト(下書き)や、解決済みの些細な質問メモもすべて永久保存すべきである」
- 解説: 最終的な調書が完成した後、不要になった下書きや、結論に影響を与えない暫定的なメモは破棄(クリアリング)すべきです。これらが残っていると、後で「なぜこのメモの懸念点は解決されていないのか?」という誤解を招く恐れがあります。
まとめ
セクションB-7-aのポイントは、「次に読む人への配慮」です。
- If あなたが明日退職しても、
- Then 後任者がその調書を見て、「なるほど、こういう監査をして、だからこの結論になったのか」と100%再現できる状態にする。
これがプロフェッショナルな監査調書の整理です。
【練習問題】パート2 セクションB-7-a
Q1. 内部監査人が作成した監査調書を、上席監査人(スーパーバイザー)がレビューしている。GIASに基づき、監査調書の品質を評価する際の基準として、最も適切なものはどれか。
A. 監査中に入手したすべてのデータや文書が網羅的に添付されているか。
B. その監査業務に関与していない経験豊富な監査人が、調書のみを見て、実施された作業と結論を理解できるか。
C. 監査対象部門の管理者が、調書の内容に同意し署名しているか。
D. ティックマーク(検証済記号)が、すべてのページで統一された色とサイズで使用されているか。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): これが「スタンドアロンの原則」です。監査調書は、作成者からの口頭説明なしに、第三者が監査のプロセスと結論の根拠を理解できる状態でなければなりません。
不正解(A): 不要な情報の羅列は「簡潔性」を損ないます。必要なのは「関連性のある情報」のみです。
不正解(C): 監査調書は内部監査部門の所有物であり、監査対象部門の合意や署名は必須要件ではありません(事実確認は行いますが)。
不正解(D): ティックマークのスタイル(色やサイズ)の統一は見た目の問題であり、調書の本質的な品質基準(理解可能性や証拠能力)ではありません。
Q2. 内部監査人は、売掛金の残高確認を行った際、システムから出力した1,000ページに及ぶ全取引明細リストを入手した。監査人はその中から20件をサンプリングしてテストを行い、問題がないことを確認した。この場合の監査調書の作成方法として、最も適切なものはどれか。
A. 1,000ページのリストすべてを調書として保存し、テストした20件にマーカーを引く。
B. テストした20件の明細とそのテスト結果のみを抽出して調書に記録し、リスト全体は調書に含めない(または参照先のみを記録する)。
C. 問題が発見されなかったため、どのようなテストを行ったかのみを記述し、具体的なデータは調書に残さない。
D. 1,000ページのリストは電子データとして保存し、調書には「全件確認済み」と記載する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): 監査調書は「簡潔性」と「関連性」が重要です。結論の根拠となった20件のサンプル詳細とテスト結果は必須ですが、使用しなかった残りの膨大なデータを含める必要はありません。元データの所在(パスなど)を参照させるだけで十分です。
不正解(A): 過剰な文書化であり、保管コストとレビュー効率を悪化させます。
不正解(C): テストした具体的な証拠(どの20件を見たか)がなければ、結論を裏付けることができず、再実施(Re-performance)も不可能です。
不正解(D): サンプリングしかしていないのに「全件確認済み」と書くのは虚偽記載になります。
Q3. 監査調書において「クロスリファレンス(相互参照)」を使用する主な目的として、最も適切なものはどれか。
A. 監査調書のページ数を減らし、保存スペースを節約するため。
B. 情報の重複を避け、発見事項からその根拠となる詳細な証拠資料への論理的なつながり(監査の軌跡)を明確にするため。
C. 監査対象部門が監査調書を改ざんすることを防止するため。
D. 外部監査人が内部監査人の作業結果を利用できないようにするため。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): クロスリファレンスは、報告書の要約、発見事項の詳細、そして裏付けとなるテストデータなどをリンクさせるための手法です。これにより、監査のストーリー(論理構成)が明確になり、レビュー効率が向上します。
不正解(A): 結果的に効率化にはなりますが、主目的は「論理的つながりの確保」です。
不正解(C): 調書の改ざん防止はアクセス制御(セキュリティ)の役割です。
不正解(D): むしろ逆で、外部監査人が内部監査の結果を理解し、活用しやすくするために整理を行います。
