テーマ:「あるべき姿」と「現実」のギャップを探せ ~監査所見の核心~

セクションB-6-aは、内部監査のプロセスの中で最もクリティカルな瞬間、すなわち「監査所見(Findings)」が生まれる瞬間についての領域です。

試験では、単に間違いを見つけるだけでなく、「正しいモノサシ(評価規準)」を使って「現実(状況)」を測定し、そのズレを客観的に判断できるかが問われます。


1. 監査所見(Findings)の方程式:4つのC

内部監査において、何か問題や改善点を報告する際は、必ず以下の4つの要素(通称:4つのC)を揃える必要があります。

  1. 評価規準(Criteria): あるべき姿(ルール、目標、期待される状態)。
  2. 状況(Condition): 現実の姿(監査人が発見した事実)。
  3. 原因(Cause): なぜギャップが起きたか。
  4. 影響(Effect): そのギャップにより何が起きるか(リスク)。

本セクション(B-6-a)は、このうちの最初の2つ、「評価規準」と「状況」を比較するプロセスに焦点を当てます。

2. ステップ①:評価規準(Criteria)の確立

比較するためには、まず「モノサシ」が必要です。これを評価規準(クライテリア)と呼びます。

  • 何が評価規準になるか?
    • 社内規定、マニュアル、SOP(標準作業手順書)
    • 法令、規制
    • 契約書
    • 業界のベストプラクティス(最良事例)
    • 経営陣が設定したKPI(重要業績評価指標)
  • 評価規準がない場合は? ここが試験のポイントです。明確なルールがない場合、監査人は自分の主観(「私ならこうする」)で評価してはいけません。 経営陣と協議し、「何をもって良しとするか」を合意する必要があります。

3. ステップ②:状況(Condition)の特定

次に、「現実」を正確に把握します。これを状況(コンディション)と呼びます。

  • どうやって特定するか?
    • インタビュー、観察、文書閲覧、データ分析などを通じて入手した「監査証拠」に基づきます。
  • 注意点:
    • 「状況」は事実(Fact)でなければなりません。「担当者が疲れているように見えた」という感想ではなく、「残業時間が月80時間を超えている」という事実が必要です。

4. ステップ③:ギャップ分析(比較と判断)

最後に、この2つを比較します。

イメージ:
間違い探し 左の絵(評価規準:マニュアル)には「赤い帽子」が描かれている。 右の絵(状況:現場)では「青い帽子」をかぶっている。 → 「色が違う(差異がある)」ことが発見事項となる。

判断のパターン

  1. 完全一致(差異なし):
    • 規準通りに業務が行われている。「良好」と評価する。
  2. 不一致(差異あり):
    • ネガティブな差異: マニュアルを守っていない、目標未達など。 → 「例外事項」や「不備」として扱う。
    • ポジティブな差異: マニュアルよりも効率的な新しいやり方をしている。 → 「改善の機会」として、マニュアルの改訂を提案する(必ずしも現場が悪いわけではない!)。

5. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「評価規準(マニュアル)と状況(現場)が食い違っている場合、常に現場が間違っていると結論付ける」
    • 解説: 誤りです。マニュアルが10年前に作られた古いもので、現場のやり方の方が最新技術に適応している場合もあります。監査人は「マニュアルが現状に即していない(規準自体の不備)」可能性も考慮しなければなりません。
  2. ×「監査人は、自分自身の専門的知識のみを唯一の評価規準として使用すべきである」
    • 解説: 危険です。監査人の知識は重要ですが、それが組織の目標やリスク許容度と合致しているか、経営陣(被監査部門)と合意形成する必要があります。「私の基準」を押し付けてはいけません。
  3. ×「状況(Condition)は、監査人の推測を含んでいてもよい」
    • 解説: ダメです。「状況」は証拠によって裏付けられた事実である必要があります。

まとめ

セクションB-6-aのポイントは、「客観的な比較」です。

  • If 「あるべき姿(規準)」と「現実(状況)」にズレがある
  • Then 即座に批判するのではなく、「なぜズレたのか?」「どちらを修正すべきか?」を冷静に分析する。

この冷静な比較プロセスこそが、納得感のある監査報告を生み出します。


【練習問題】パート2 セクションB-6-a

Q1. 内部監査人は、工場の安全管理プロセスを監査している。「工場内では常に安全ヘルメットを着用すること」という社内規定があるにもかかわらず、休憩エリアへの移動通路で従業員がヘルメットを脱いでいる「状況(Condition)」を観察した。この発見事項を構成する際、監査人が「評価規準(Criteria)」として使用すべきものはどれか。

A. 従業員がヘルメットを脱いでいたという観察記録

B. 「工場内では常に安全ヘルメットを着用すること」と定めた社内規定

C. ヘルメット未着用による怪我のリスク(影響)

D. 休憩エリアが暑すぎてヘルメット着用が困難であるという従業員の訴え(原因)

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 評価規準(Criteria)とは、現状を測定するための「ものさし」や「あるべき姿」です。ここでは社内規定がそれに該当します。

不正解(A): これは「状況(Condition)」、つまり発見された事実です。

不正解(C): これは「影響(Effect)」、つまり規準違反の結果生じるリスクです。

不正解(D): これは「原因(Cause)」、なぜ規準が守られていないかの理由です。


Q2. 内部監査人がマーケティング部門の監査を行っているが、広告費の承認プロセスに関する明確な文書化された規定が存在しないことが判明した。この状況で、監査人が監査所見をまとめるための「評価規準」を確立する方法として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。

A. 監査人の個人的な経験に基づき、理想的と思われる手順を評価規準として適用する。

B. 不正の兆候がない限り、規定が存在しないことを理由に監査対象から除外する。

C. 被監査部門の管理職と協議し、受け入れ可能な承認プロセスの基準(あるべき姿)について合意形成を図る。

D. 前任の監査人が過去に残した監査調書をそのまま評価規準として使用する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 明確な評価規準が存在しない場合、監査人は経営陣(被監査部門)と協議し、何が適切か(期待されるパフォーマンスやコントロール)について合意を得る必要があります。

不正解(A): 監査人の主観のみを基準にすると、被監査部門の納得が得られず、組織の実態に合わない可能性があります。

不正解(B): 規定がないこと自体がリスク(ガバナンスの欠如)であり、監査すべき重要な領域です。

不正解(D): 過去の基準が現在も適切とは限りません。現在の状況に合わせて再確認が必要です。


Q3. 内部監査人は、経費精算の監査において「領収書の提出期限は支出後1週間以内」という評価規準に対し、実際には「多くの社員が1ヶ月分をまとめて月末に提出している」という状況(差異)を発見した。しかし、業務担当者は「1週間ルールはアナログ時代の古い規定で、現在のシステムでは月末一括処理の方が効率的だ」と主張している。この場合の監査人の対応として、最も適切なものはどれか。

A. 規定は絶対であるため、直ちにすべての違反者を報告書に記載し、処分を勧告する。

B. 現場の主張が合理的であるかを分析し、もし現在の実務の方が効率的かつリスクが管理されているならば、業務改善として「規定(評価規準)の改訂」を提案する。

C. 規定違反は見逃せないが、現場の士気を考慮して、今回の監査では発見事項としなかったことにする。

D. 経理部門長に相談せず、監査人の独断で新しいルールを作成し、それを適用して評価し直す。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 評価規準と状況に差異がある場合、必ずしも「状況(現場)」が悪いとは限りません。規準自体が陳腐化している場合、監査人は組織にとって最適な状態を目指し、規準の見直しを提案すべきです(建設的なアプローチ)。

不正解(A): 形式的なコンプライアンスのみを重視し、組織の効率性を無視する官僚的な対応です。GIASの目指す「価値付加」ではありません。

不正解(C): 適切な手続きを経ずに発見事項を隠蔽することは、監査人の倫理規定に反します。

不正解(D): ルール(規定)を作るのは経営陣の責任であり、監査人が勝手に作成して適用する権限はありません。