【CIA試験講義】パート2 セクションA-7-a: 財務的資源の決定
テーマ:ドライブ旅行の「ガソリン代」と「宿代」 ~監査にも予算がある~
セクションA-7-aは、個々の監査業務(エンゲージメント)を計画する際、その業務を完了させるために必要な財務的資源(Financial Resources)、つまり「予算」を見積もり、確保するプロセスです。
内部監査部門全体の予算はCAE(部門長)が管理しますが、個々の監査チームリーダー(インチャージ)も、「この監査をやるのにいくらかかるのか?」を計算し、コスト意識を持って計画を立てる能力が問われます。
1. 導入:監査における「財務的資源」の内訳
「監査はお金がかかる」という事実を直視しましょう。監査計画における財務的資源とは、主に以下の要素で構成されます。
- 人件費(Internal Staff Costs):
- 最も大きな割合を占めます。「監査時間(Hours)」×「単価(Rate)」で計算されます。
- 計画時の視点: ベテラン(高単価)を投入するか、若手(低単価)で時間をかけてやるか?
- 外部委託費(External Service Provider Costs):
- 専門スキル(IT、税務、語学など)が内部にない場合、外部の専門家やコソーシングを利用する費用です。
- 直接経費(Direct Expenses):
- 旅費交通費: 支店や工場への移動費、宿泊費。
- ツール利用料: データ分析ソフトのライセンス料や、特定の調査にかかる費用。
2. 資源配分のバランス:スリー・E
GIASおよびCIA試験では、資源の使用に関して以下の3つの視点が求められます。
- 経済性(Economy): 安く調達できたか?(例:早期予約で航空券を安く買う)
- 効率性(Efficiency): 無駄なく使ったか?(例:リモート監査を併用して出張費を削る)
- 有効性(Effectiveness): 目的を達成できたか?(例:コストをかけた分、重要なリスクを発見できたか)
★重要: コスト削減(経済性)ばかりを追求して、必要な手続を省略し、監査の目的が達成できない(有効性の欠如)のでは本末転倒です。あくまで「目的達成に必要な十分な予算」を確保するのが基本です。
3. 予算超過と「範囲の制約」
計画段階で見積もった予算が、承認された予算枠を超えてしまった場合、あるいは監査中に予算が足りなくなった場合、監査人はどうすべきでしょうか?
- 再見積もりと説明: なぜコストがかかるのか(リスクが高いから、移動が必要だから)を論理的に説明し、追加予算を要求します。
- スコープの調整(Scope Adjustment): 予算が増やせないなら、監査範囲(スコープ)を縮小せざるを得ません。
- 例: 「予算不足のため、全5支店の往査予定を、主要3支店に変更します。」
- 制約の文書化: 予算不足により重要なリスクが見れない場合、それは「範囲の制約(Scope Limitation)」となります。この事実と影響を監査報告書等に明記し、ステークホルダーに伝える必要があります。
4. コスト対効果(Cost-Benefit)の考慮
「1万円の現金の行方を追うために、100万円の人件費をかけて監査する」のは正しいでしょうか? 答えはNoです。
監査計画を立てる際は、「監査コスト < リスク低減による便益(ベネフィット)」となるように設計します。 ただし、コンプライアンス違反や人命に関わる安全リスクなど、「お金に換算できないリスク」がある場合は、コスト度外視で監査を行う必要があります。
まとめ
セクションA-7-aのポイントは、「監査人は経営者感覚を持て」です。
- 監査業務はタダではありません。組織のリソースを使っています。
- 「無限の予算があれば完璧な監査ができる」のは当たり前ですが、プロは「限られた予算(財務的資源)の中で、最大のアシュアランス(保証)」を提供するためのパズルを解かなければなりません。
【練習問題】パート2 セクションA-7-a
Q1. 個々の内部監査業務の計画策定において、必要な「財務的資源」を見積もる際に考慮すべき要素として、最も適切かつ包括的な組み合わせはどれか。
A. 監査チームメンバーの給与(時間単価×予定時間)のみ。
B. 旅費交通費などの直接経費のみ。
C. 内部監査人の人件費、必要に応じて利用する外部専門家の委託費用、旅費交通費、および監査ツールのライセンス料などの直接経費。
D. 被監査部門の従業員が監査対応に費やす時間の人件費。
【解答・解説】
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正解(C): 監査業務の財務的資源(予算)には、内部リソースのコスト(人件費)、不足スキルを補う外部リソースのコスト(委託費)、および活動に伴う諸経費(旅費・ツール代)のすべてが含まれます。これらを総合的に見積もることで、適切な予実管理が可能になります。
不正解(A): 人件費は主要要素ですが、出張費や外部委託費を無視すると予算不足に陥ります。
不正解(B): 直接経費だけでは監査コストのほんの一部しかカバーしていません。
不正解(D): これは被監査部門側のコスト(監査コストではなく対応コスト)であり、通常、内部監査部門の予算には含まれません。
Q2. 内部監査人は海外子会社の往査を計画していたが、会社全体の業績悪化に伴う予算削減により、海外渡航費(財務的資源)が確保できなくなった。この状況における監査人の対応として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。
A. 予算がないため、自腹で渡航して監査を行う。
B. 予算不足により現地に行けないため、この監査業務を完全に中止し、その旨を誰にも報告しない。
C. 財務的資源の制約が監査の「範囲(スコープ)」に与える影響を評価する。代替手続(リモート監査やデータ分析など)で目的が達成できるか検討し、達成できない場合はその制約とリスクへの影響を内部監査部門長(CAE)および適切なステークホルダーに報告する。
D. 予算削減は経営判断であるため、監査の質が低下することを承知の上で、形式的な電話インタビューのみで「問題なし」という報告書を作成する。
【解答・解説】
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正解(C): 財務的資源の不足は「範囲の制約(Scope Limitation)」を生む可能性があります。監査人はまず代替案(効率性)を模索しますが、それでも十分な保証が得られない場合は、その制約がもたらすリスク(見落としの可能性)を明確に伝達(報告)する責任があります。
不正解(A): 職業倫理および組織のルールの観点から不適切です。
不正解(B): 監査計画からの削除や中止には、適切な承認と記録が必要です。
不正解(D): 虚偽の保証を与えることは、「誠実性」および「能力(専門的正当な注意)」の欠如にあたり、最も避けるべき行為です。
Q3. 個々の監査業務において、外部の専門家(例:サイバーセキュリティのスペシャリスト)を起用することを決定した。この決定が監査計画の「財務的資源」に与える影響と、その正当性に関する記述として正しいものはどれか。
A. 外部専門家の起用はコストがかかるため、いかなる場合でも避けるべきであり、内部監査人が独学で知識を習得して対応すべきである。
B. 外部専門家のコストは「財務的資源」の一部として予算に計上されるべきである。そのコストが、専門家の活用によって得られる監査の品質向上やリスク低減という「便益」に見合っているか(費用対効果)を検討する必要がある。
C. 外部専門家の費用は、内部監査部門ではなく被監査部門に請求すればよいため、監査計画の予算には含めなくてよい。
D. 外部専門家を使えば監査が早く終わるため、結果として財務的資源の使用量は必ず減少する。
【解答・解説】
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正解(B): 必要なスキルが内部にない場合、外部リソースの活用は正当化されますが、それにはコスト(財務的資源)が伴います。計画段階でそのコストを予算化し、同時に「そのコストをかける価値があるか(Cost-Benefit)」を評価することが、適切な資源管理です。
不正解(A): 専門知識がないまま監査を行うことは、監査リスク(誤った結論)を高めるため、時にはコストをかけてでも専門家が必要です。
不正解(C): 予算の付け替え(チャージバック)が行われる場合もありますが、監査業務の総コストとして認識・管理する必要があります。
不正解(D): 期間は短縮されるかもしれませんが、専門家の単価は高いため、総コストが減るとは限りません。
