【CIA試験講義】パート2 セクションA-6-c: コントロールの効率性の検証手続
テーマ:目的地には着くが、ガソリンを使いすぎていないか? ~過剰統制という病~
セクションA-6-cは、コントロールがリスクを低減できているか(有効性)だけでなく、「そのコントロールにかかるコストや手間が見合っているか(Efficiency)」を検証する手続に関するトピックです。
試験では、「有効性(Effectiveness)」と「効率性(Efficiency)」の違いが厳密に問われます。 「目標は達成しているが、時間とお金がかかりすぎている」状態は、監査人として「改善の余地あり(発見事項)」と判断すべきなのです。
1. 導入:「有効」と「効率」の決定的な違い
CIA試験におけるこの2つの定義を叩き込みましょう。
- 有効性(Effectiveness): 「正しいことを行う(Doing the right things)」
- 問い: リスクは低減されているか? 目標は達成されたか?
- 例: 泥棒が入らないように、警備員を100人配置した。→ 有効です(泥棒は入りません)。
- 効率性(Efficiency): 「正しく行う(Doing things right)」
- 問い: 資源(時間・金・人)を最小限に抑えているか? 無駄はないか?
- 例: 小さな倉庫に警備員を100人配置した。→ 非効率です(コストがかかりすぎです)。
内部監査人は、「警備員を1人に減らし、監視カメラ(自動化)を導入しましょう」と提案することで、リスク管理レベルを維持したままコストを下げる(価値を付加する)ことができます。
2. 効率性を検証するための視点と手続
監査プログラムには、単に「合っているか」だけでなく、「無駄がないか」を見る手続を組み込みます。
① 重複(Redundancy)の発見
同じことを別々の人が二度手間で行っていませんか?
- 検証手続: フローチャート分析
- シナリオ: 課長が承認した後、部長も承認し、さらに本部長も承認している。
- 監査視点: 「この金額なら課長決裁で十分では?(過剰統制)」
② ボトルネック(Bottleneck)の特定
どこで仕事が詰まっているか?
- 検証手続: サイクルタイム分析(データ分析)
- シナリオ: 申請から承認まで平均5日かかっている。そのうち4日は「部長の机の上で止まっている時間」である。
- 監査視点: 「承認プロセスが業務スピードを阻害している。」
③ 手作業 vs 自動化(Manual vs Automated)
機械ができることを人間がやっていないか?
- 検証手続: システム機能とのギャップ分析
- シナリオ: 経理担当者が、Excelで計算した結果をシステムに手入力している。
- 監査視点: 「システムの自動計算機能を使えば、入力ミス(リスク)も減るし、残業代(コスト)も減る。」
④ 費用対効果(Cost-Benefit Analysis)
コントロールのコストが、守るべきリスクの損失額を上回っていないか?
- 検証手続: コスト試算
- シナリオ: 1本100円のボールペンを管理するために、管理台帳をつけ、毎月棚卸をしている。
- 監査視点: 「ペンの紛失コストより、管理する人件費の方が高い。管理をやめる(リスク受容)か、簡素化すべき。」
3. 「過剰統制(Over-control)」のリスク
コントロールは多ければ多いほど良いわけではありません。過剰なコントロールは組織の害になります。 これを指摘できるのは、客観的な視点を持つ内部監査人だけです。
- 弊害: 意思決定の遅れ、現場の疲弊、創造性の阻害、コスト増大。
- GIASのスタンス: 内部監査は、組織のパフォーマンス向上に寄与すべきである。したがって、無駄なコントロールを「削除」する提案も立派な監査業務である。
まとめ
セクションA-6-cのポイントは、「ダイエットのコーチになれ」です。
- 有効性のテストは「筋肉(リスク対応力)がついているか」を見ます。
- 効率性のテストは「余計な脂肪(無駄なコスト・手順)がついていないか」を見ます。
「ルール通りやっています」と現場が胸を張っても、「でも、それって無駄ですよね?」と切り込める監査人を目指してください。
【練習問題】パート2 セクションA-6-c
Q1. 内部監査人は、購買プロセスの監査において「承認コントロール」を評価している。調査の結果、500円の事務用品を購入する場合でも、課長、部長、本部長、購買担当役員の4名の承認印が必要であることが判明した。過去1年間の記録を見ると、すべての取引で承認印が漏れなく押されており、不正購入は一件もなかった。この状況に対する監査人の評価として、最も適切なものはどれか。
A. コントロールは「有効」かつ「効率的」である。不正がなくルールが守られているため、改善の必要はない。
B. コントロールは「有効」であるが、「効率的」ではない。リスク(少額の誤購入)に対してコントロールのコスト(役員の時間など)が過大であり、過剰統制(Over-control)である可能性が高い。
C. コントロールは「効率的」であるが、「有効」ではない。承認者が多すぎると責任の所在が曖昧になるため、リスク管理として機能していない。
D. 承認印の数が多いほど統制環境は強化されるため、他のプロセスでも同様に承認者を増やすよう推奨すべきである。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): これが「有効性」と「効率性」の違いです。不正を防いでいる点では「有効」ですが、500円のリスクに対して役員を含む4人の時間を費やすのは、費用対効果の観点から明らかにバランスを欠いており「非効率」です。監査人は承認権限の委譲や基準額の見直しを推奨すべきです。
不正解(A): ルール遵守=効率的ではありません。無駄なルールを守ることは非効率です。
不正解(C): 不正が防げている(結果が出ている)以上、「有効」でないとするのは不適切です。
不正解(D): 承認者を無闇に増やすことは、ボトルネックを生み、意思決定を遅らせる典型的な「過剰統制」の原因となります。
Q2. 内部監査人は、銀行照合(Bank Reconciliation)プロセスの効率性を検証する手続を実施している。現在、経理担当者は銀行の取引明細と社内の帳簿を手作業で一行ずつ突き合わせている。監査人が効率性を改善するための提案を行うために実施すべき手続として、最も適切なものはどれか。
A. 担当者が突き合わせ作業を行っている時間をストップウォッチで計測し、もっと速く作業するよう指導する。
B. 手作業での突き合わせ結果にミスがないか、監査人が再実施して計算の正確性を検証する。
C. 現在使用している会計システムに「自動照合機能(Auto-reconciliation)」が実装されているか、またそれがなぜ使用されていないか(機能のアンマッチ)を調査する。
D. 突き合わせ作業をダブルチェックするために、もう一名の担当者を配置するよう提案する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(C): 効率性の改善において、IT活用(自動化)の検討は定石です。多くのシステムには自動照合機能がありますが、設定が面倒などの理由で使われていないケース(機能のアンマッチ)が多々あります。これを発見し、自動化を推奨することは、作業時間の短縮とミスの削減の両方に貢献する高付加価値な監査です。
不正解(A): 単に「頑張って速くやれ」というのは根性論であり、プロセスの改善(効率化)ではありません。
不正解(B): これは「有効性(正確性)」のテストであり、効率性の検証ではありません。
不正解(D): 人を増やすことは、有効性を高めるかもしれませんが、コストが増加するため効率性は低下します。
Q3. 個々の監査業務のプログラム作成において、コントロールの「効率性」を検証する手続を含めることの主な目的(便益)として、GIASが強調している点はどれか。
A. 従業員の残業時間をゼロにすることを法的に強制するため。
B. 組織の資源(ヒト・モノ・カネ)の使用を最適化し、コスト削減やプロセス時間の短縮といった「付加価値(Add Value)」を組織に提供するため。
C. 監査人が経営コンサルタントとして独立することを支援するため。
D. コントロールの数を可能な限り減らし、リスク管理を廃止するため。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): 内部監査の使命は「価値の付加」です。効率性の検証を通じて、無駄な業務(Non-value-added activities)を削減し、リソースをより重要な戦略的領域に再配分できるよう支援することは、現代の内部監査人に求められる重要な役割です。
不正解(A): 残業削減は結果の一つかもしれませんが、目的はリソースの最適化であり、法的強制ではありません。
不正解(C): 目的はあくまで組織への貢献です。
不正解(D): 目的は「最適化」であり、必要なコントロールまで廃止してリスク管理を放棄することではありません。
