【CIA試験講義】パート2 セクションA-4-b: 監査業務におけるプロジェクト管理
テーマ:3つのボールを落とさずにお手玉する ~品質・時間・コストのバランス~
セクションA-4-bは、個々の監査業務(エンゲージメント)を「一つのプロジェクト」と捉え、それを成功させるために必要な管理手法についてのトピックです。
どんなに素晴らしい監査計画でも、実行段階で予算オーバーになったり、期限に遅れたり、チームが疲弊してしまっては失敗です。試験では、限られた資源で最大の成果を出すための「プロジェクト管理(PM)の概念」が問われます。
1. 導入:監査業務は「プロジェクト」である
プロジェクトとは、「独自の目的を達成するための有期性のある活動」と定義されます。 内部監査業務も、「○○監査」という特定の目的があり、「開始日と終了日」が決まっています。
つまり、監査の現場責任者(インチャージ)は、実質的にプロジェクト・マネージャー(PM)なのです。
2. PMの最重要概念:「鉄の三角形(トリプル・コンストレイン)」
プロジェクト管理には、互いに影響し合う3つの制約条件があります。これを理解することが試験攻略の鍵です。
- スコープ(Scope): 監査の範囲。何をやるか、やらないか。
- 時間(Time/Schedule): 期限。いつまでに終わらせるか。
- コスト/資源(Cost/Resources): 予算、人員数、スキル。
★ルール: どれか1つを変えると、必ず他の要素に影響が出ます。
- 「範囲(スコープ)を広げたい」 → 「時間」を延ばすか、「人員(コスト)」を増やす必要がある。
- 「時間」がない → 「範囲」を削るか、「人員」を増やす必要がある。
- この調整を行わずに無理をすると、第4の要素である「品質(Quality)」が低下します。
3. 主なプロジェクト管理ツールと概念
監査計画と実施において役立つPM用語を整理します。
① ガントチャート(Gantt Chart)
- 内容: 誰が、いつ、何をするかを棒グラフで示したスケジュール表。
- 用途: 進捗管理の基本。遅れているタスクを一目で把握する。
② WBS(Work Breakdown Structure)
- 内容: 大きな仕事を細かいタスク(作業パッケージ)に分解した図。
- 用途: 「在庫監査」という漠然とした塊を、「棚卸立会」「データ分析」「インタビュー」などの具体的作業に分解し、担当者を割り当てる。
③ クリティカル・パス(Critical Path)
- 内容: プロジェクト全体の中で、「ここが遅れると全体が遅れる」という最長の経路。余裕(フロート)がないタスクの連なり。
- 監査での例: 「被監査部門からのデータ入手」が遅れると、その後の分析も報告もすべて遅れる場合、データ入手はクリティカル・パス上にある。
- PMの判断: クリティカル・パス上のタスクには、エース級の人材を配置し、最優先で管理する。
④ スコープ・クリープ(Scope Creep)
- 内容: なし崩し的な範囲の拡大。正式な手続きを経ずに、あれもこれもと作業が増えていく現象。
- 対策: 変更管理プロセス(Change Control)。追加作業が発生する場合は、必ず影響(時間・コスト)を評価し、上長の承認を得る。
4. 監査プロセスにおけるPMの実践
- 計画時(Planning): 予算(時間数)を見積もり、スキルに見合ったスタッフを割り当てる(リソース・アロケーション)。
- 実施時(Performance): 予算対実績(予実管理)をモニタリングする。「予定より時間がかかっている」場合、早めに原因を特定し、軌道修正する。
- 完了時(Closing): 「教訓(Lessons Learned)」を共有する。「なぜ予算オーバーしたのか?」を振り返り、次回の計画精度を高める。
まとめ
セクションA-4-bのポイントは、「資源は有限である」という冷徹な認識です。
- 「あれもこれも全部やりたい」は監査人の本能ですが、PMとしては失格です。
- 限られた時間と予算の中で、リスク・ベースで優先順位をつけ、鉄の三角形のバランスを保ちながらゴール(最終報告)に到達するコントロール能力が求められます。
【練習問題】パート2 セクションA-4-b
Q1. 内部監査の現場責任者(インチャージ)は、販売プロセスの監査を実施中である。監査の中盤で、被監査部門のマネージャーから「ついでに、最近導入した顧客管理システムの使い勝手についても調査してほしい」と依頼された。この追加作業は当初の監査計画(スコープ)には含まれていない。プロジェクト管理の観点から、インチャージがとるべき行動として最も適切なものはどれか。
A. クライアントとの良好な関係を維持するため、スケジュールや予算への影響を考慮せず、直ちに追加作業を引き受ける。
B. この依頼は「スコープ・クリープ(なし崩し的な範囲拡大)」につながる可能性があるため、追加作業によるスケジュールと予算(リソース)への影響を評価し、内部監査部門長(CAE)の承認を得た上で、計画を修正する。
C. 監査範囲の決定権は監査人にあるため、被監査部門からの依頼は一切無視し、当初の計画のみを遂行する。
D. 追加作業を引き受ける代わりに、品質レビュー(監査調書の査読)の時間を省略して、納期に間に合わせる。
【解答・解説】
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正解(B): プロジェクト管理の基本問題です。スコープ(範囲)に変更が生じる場合、必ず他の要素(時間、コスト、品質)への影響を評価し、正式な承認プロセス(変更管理)を経る必要があります。安請け合いはプロジェクト破綻の元です。
不正解(A): 資源を考慮せずに引き受けると、当初の監査目的が達成できなくなったり、チームが疲弊したりするリスクがあります。
不正解(C): 柔軟性を欠いています。リソースの調整がつき、価値のある提案であれば、正式な手順を経て追加することは可能です。
不正解(D): 「品質」を犠牲にして帳尻を合わせることは、GIASの品質基準違反であり、絶対に行ってはいけません。
Q2. 内部監査業務の計画段階において、現場責任者はチームメンバーへのタスク割り当てを行っている。プロジェクト管理における「クリティカル・パス(Critical Path)」の概念を考慮したリソース配分として、最も適切なものはどれか。
A. クリティカル・パス上のタスク(遅延がプロジェクト全体の遅れに直結する作業)には、経験豊富で信頼できる監査人を割り当て、重点的に進捗を管理する。
B. クリティカル・パス上のタスクは余裕(フロート)があるため、新人の実地トレーニング(OJT)として割り当てるのに適している。
C. クリティカル・パスは複雑な計算が必要なため、外部のコンサルタントに丸投げし、内部監査人は関与しない。
D. すべてのタスクは等しく重要であるため、クリティカル・パスを特定する必要はなく、全員に均等にタスクを配分する。
【解答・解説】
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正解(A): クリティカル・パスとは、プロジェクト完了までの「最長経路」であり、ここでの遅延は即座に納期遅延を意味します。PMとしては、この経路上のタスクにリスク(不確実性)を残さないよう、最もスキルのあるリソースを配分し、密接にモニタリングすることが定石です。
不正解(B): クリティカル・パスには「余裕(フロート)」がありません。新人を割り当てて遅延が発生すると取り返しがつかないため、OJTには不向きです。
不正解(C): 重要な工程を管理放棄してはいけません。
不正解(D): タスクには依存関係と所要時間の違いがあり、すべてが等しくスケジュールに影響するわけではありません。
Q3. ある内部監査プロジェクトが完了した。現場責任者は、次回のプロジェクトに向けてプロセスの効率性を改善したいと考えている。プロジェクト管理の概念において、このフェーズ(完了/終結)で実施すべき最も重要な活動はどれか。
A. 監査調書を直ちに廃棄し、情報漏洩のリスクを排除する。
B. 監査報告書を発行した時点でプロジェクト管理は終了しているため、特に追加の活動は必要ない。
C. チームメンバーやステークホルダーと「教訓(Lessons Learned)」のセッションを行い、予算超過やスケジュールの遅延が発生した原因を分析し、改善策を文書化する。
D. 予算を超過したチームメンバーを特定し、人事評価を下げるための懲罰委員会を開催する。
【解答・解説】
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正解(C): プロジェクト・マネジメントの最終ステップは「クロージング(終結)」と「振り返り」です。成功・失敗の原因を分析し、教訓(Lessons Learned)として組織知にすることで、将来の監査業務(プロジェクト)の精度と品質を高めることができます。GIASも継続的な品質改善を求めています。
不正解(A): 監査調書は定められた期間(保存年限)保管する義務があります。
不正解(B): 報告書発行後も、フィードバックの収集やプロセスの評価など、PMとしての重要な業務が残っています。
不正解(D): プロジェクトの振り返りは「個人の吊し上げ(犯人探し)」ではなく、「プロセスの改善」に焦点を当てるべきです。
