テーマ:ビジネスの「通知表」を読む力 ~オペレーションとお金の接点~

セクションA-3-eは、たとえ財務監査(Financial Audit)ではなく、業務監査(Operational Audit)を計画している場合であっても、その活動に関連する財務・会計的な要素(資産、負債、資本など)を必ず認識(Recognize)しなければならないという要件です。

試験では、簿記の細かい仕訳ができるかよりも、「現場の業務リスクが、最終的に財務諸表のどこに、どのような影響を与えるか」を連想できるかが問われます。


1. 導入:すべての道は「財務諸表」に通ず

企業のあらゆる活動は、最終的に数字(お金)として記録されます。 したがって、内部監査人が業務プロセスを評価する際、その裏側にある会計概念を無視して計画を立てることはできません。

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あなたは「工場の生産効率」を監査しに来ました(業務監査)。 しかし、そこで作られた製品は「棚卸資産(流動資産)」として計上されます。 もし工場が「売れない製品」ばかり作っていたら、それは単なる効率の問題ではなく、「在庫評価損(財務リスク)」の問題に直結します。

「モノの動き」と「カネの動き」は表裏一体です。計画段階でこのリンクを認識する必要があります。

2. 計画策定時に認識すべき5つの財務概念

CIA試験で問われる主要な勘定科目と、監査計画における着眼点を整理します。

区分具体例監査計画における着眼点(リスクの所在)
① 流動資産
(Current Assets)
現金、売掛金、
棚卸資産(在庫)
「実在性」と「評価」
・在庫は本当に倉庫にあるか?(盗難リスク)
・流行遅れで価値がなくなっていないか?(陳腐化リスク)
② 固定資産
(Fixed Assets)
建物、機械装置、
ソフトウェア
「資本的支出 vs 修繕費」
・単なる修理代を資産として計上し、利益を良く見せていないか?
・遊休資産(使っていない機械)の減損処理はされているか?
③ 負債
(Liabilities)
買掛金(短期)、
社債・借入金(長期)
「網羅性(隠していないか)」
・未払いの請求書を隠して、負債を少なく見せていないか?
・借入制限条項(コベナンツ)に抵触していないか?
④ 資本
(Equity)
資本金、利益剰余金「コンプライアンス」
・配当金の支払いは取締役会決議や会社法に従っているか?
・ストックオプションの付与は適切か?
⑤ 投資
(Investments)
有価証券、子会社株式「評価」と「承認」
・投資の決定プロセスは適正か?
・市場価格が暴落した際のリスク管理はできているか?

3. オペレーショナル・リスクから財務インパクトへの翻訳

計画策定における「認識」とは、以下のようにリスクを翻訳する作業です。

  • 現場の事象: 「倉庫のカギが壊れている」
  • 会計上の認識: 「棚卸資産(流動資産)の盗難リスクが高まり、資産の過大計上につながる恐れがある」 → 監査計画: 実地棚卸の立会いをテスト手続きに追加する。
  • 現場の事象: 「工場のメンテナンスを大規模に行った」
  • 会計上の認識: 「固定資産の価値を高める改良(資産計上)か、現状維持の修繕(費用処理)かの判断ミスが起きやすい」 → 監査計画: 工事契約書と会計処理の突き合わせをテスト範囲に含める。

4. 試験で狙われる視点

試験では、「逆の粉飾」の動機にも注意が必要です。

  • 資産の過大計上・負債の過少計上: 会社を良く見せたいとき(株価維持、ボーナス獲得)。
  • 費用の過大計上・資産の過少計上: 税金を減らしたいとき(利益圧縮)。

監査人は、「今の経営環境なら、どっちに転ぶ動機があるか?」を計画段階で考慮します。

まとめ

セクションA-3-eのポイントは、「会計士の眼鏡をかけろ」です。

  • 営業監査でも、IT監査でも、そこには必ず「資産(データや設備)」や「費用(コスト)」が関わっています。
  • 計画段階で「この業務が失敗したら、BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)のどこが傷つくか?」を想像できる監査人は、経営陣にとって説得力のある報告ができます。

【練習問題】パート2 セクションA-3-e

Q1. 内部監査人は、製造部門の「設備保全(メンテナンス)業務」の監査を計画している。この業務に関連する「固定資産」および「費用」の会計概念を認識する際、監査人が最も警戒すべきリスク(不適切な会計処理の可能性)はどれか。

A. 通常の維持管理のための修繕費を、固定資産の取得原価に加算(資本的支出として処理)することで、当期の費用を過少に計上し、利益を過大に見せるリスク。

B. 新しい機械装置を購入した際、減価償却費の計算を定額法ではなく定率法で行うことで、利益を平準化するリスク。

C. 古くなった機械を廃棄する際、固定資産台帳から除却処理を行い、除却損を計上するリスク。

D. 工場の電気代を製造原価ではなく、販売費及び一般管理費として処理するリスク。

【解答・解説】

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正解(A): 設備保全や修繕の監査において、会計上の最大のリスクポイントは「資本的支出(資産計上)」と「収益的支出(費用計上)」の区分です。経営者は利益を良く見せるために、本来は費用である修繕費を資産計上する(資産の過大計上・費用の過少計上)誘引を持つことがあります。監査人は計画段階でこのリスクを認識し、区分の妥当性を確認する手続きを組み込む必要があります。

不正解(B): 償却方法の選択は会計方針の問題であり、継続性の原則に従っていれば直ちにリスクとは言えません。

不正解(C): 廃棄時に除却損を計上するのは正しい会計処理です(リスクではありません)。

不正解(D): 原価計算上の分類ミスですが、Aの「資産 vs 費用」の区分(利益操作への直結度)に比べると、設備保全業務特有のリスクとしては優先度が下がります。


Q2. 内部監査人は、小売企業の「在庫管理プロセス」の監査計画を策定中である。対象となる「流動資産(棚卸資産)」に関連する財務リスクを評価する際、監査人が認識すべき事項として、最も適切でないものはどれか。

A. 流行の変化により販売できなくなった商品(陳腐化在庫)について、評価損が適切に計上されているか。

B. 倉庫に保管されている在庫の実在性を確認するために、実地棚卸の手続きが適切に行われているか。

C. 在庫の購入に使用した長期借入金の金利が、市場金利と比較して適切であるか。

D. 期末付近に納入された商品が、正しい会計期間(カットオフ)で在庫として記録されているか。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 長期借入金の金利や調達コストは「負債」や「財務活動」に関連する概念であり、通常は財務部門(トレジャリー)の監査対象です。在庫管理プロセスの監査において、在庫そのものの評価や実在性(流動資産のリスク)と比較すると、資金調達コストの適切性は直接的な監査対象ではありません。

不正解(A): 陳腐化(評価)は、在庫監査における主要な財務リスクです。

不正解(B): 実在性は、資産監査の基本中の基本です。

不正解(D): カットオフ(期間帰属)は、流動資産の計上額に直結する重要な会計概念です。


Q3. 内部監査人は、調達(購買)部門の監査を計画している。この活動に関連する「短期負債(買掛金)」の概念を認識する際、監査人が重視すべきアサーション(監査要点)は「網羅性(Completeness)」であると考えられる。その理由として最も適切なものはどれか。

A. 企業は、資産(在庫など)を隠して税金を逃れようとする傾向があるため。

B. 企業は、負債(買掛金など)を帳簿に記載せず(簿外債務)、財務状態を良く見せようとする動機を持つリスクがあるため。

C. 負債の金額は見積もり計算が必要であり、計算ミスが発生しやすいため。

D. 買掛金は流動資産に含まれるため、その評価額が過大になっていないか確認する必要があるため。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 資産の監査では「過大計上(実在性)」が主なリスクですが、負債の監査では「過少計上(網羅性)」が主なリスクとなります。つまり、「あるはずの借金や未払金を帳簿に載せない」ことで、財務内容を健全に見せかけようとする不正リスクを、計画段階で認識する必要があります。

不正解(A): 資産を隠すのは「逆粉飾(脱税)」などのケースですが、一般的な財務報告リスクとしては「資産の過大計上」の方が頻出です。

不正解(C): 買掛金は通常、請求書に基づく確定債務であり、複雑な見積もり計算は不要です(引当金などは別)。

不正解(D): 買掛金は「流動負債」であり、流動資産ではありません。