【CIA試験講義】パート1 セクションB-5-a: 正当な注意と戦略・目標の評価
テーマ:木を見て森も見る ~作業員ではなく経営のパートナーとして~
「監査人は細かいミスばかり指摘する」と思われていませんか? GIAS(グローバル内部監査基準)が求める「専門職としての正当な注意(Due Professional Care)」は、単なる手続きの正確さだけを指すものではありません。
監査人が本当に注意を払うべきは、目の前の伝票の不備だけでなく、「この業務は組織の戦略や目標の達成に貢献しているか?」という大きな視点です。
このセクションでは、監査業務の中に「戦略的視点」を組み込むことの重要性と、その実践方法を学びます。
1. 正当な注意(Due Professional Care)の再定義
正当な注意とは、「合理的に慎重で有能な監査人が払うべき注意」のことですが、そのスコープ(範囲)は拡大しています。
- 従来の視点: ルール通りに業務が行われているか?(コンプライアンス)
- GIASの視点: その業務は組織の戦略的目標と整合しているか?
つまり、ルールを守っていても、そのルール自体が時代遅れで戦略の足を引っ張っているなら、それを見抜くのが「正当な注意」です。
2. 戦略と目標の評価(Evaluation of Strategy and Objectives)
監査人は、個別の監査業務を行う際、以下の問いかけを行う必要があります。
① 整合性(Alignment)の確認
- 「この部門の目標は、全社の戦略目標とリンクしているか?」
- 例:全社戦略が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」なのに、監査対象部門が「紙の書類削減に消極的」であれば、整合性が取れていません。
② 目標設定プロセスの評価
- 「目標は明確で測定可能か(SMARTな目標か)?」
- 「リスクを考慮した上で目標が設定されているか?」
3. リスクを見積もる際の「戦略的視点」
監査人はリスクを評価する際、単に「エラーが起きる確率」だけでなく、「戦略的目標の達成に対する影響度」を考慮しなければなりません。
- 些細なエラー: 事務的なミスだが、戦略には影響しない → 優先度は低い。
- 戦略的リスク: 新製品開発の遅れ、ブランド毀損、重要な人材の流出 → 優先度は極めて高い。
「正当な注意」を払うとは、リソースを「些細なこと」ではなく「戦略的に重要なこと」に集中させることでもあります。
4. 経営陣への提言(Recommendations)
戦略や目標に関連する発見事項は、経営陣にとって最も価値のある情報です。
- × ダメな報告: 「ファイル名が規定通りではありませんでした。」(マイクロな視点)
- 〇 良い報告: 「現在のデータ管理方法は、全社戦略である『データ駆動型経営』の実現を阻害する可能性があります。」(戦略的視点)
まとめ
セクションB-5-aのポイントは、「視座を高める」ことです。
- 監査人は、現場の作業をチェックしながらも、頭の中では常に「これは会社のゴールにつながっているか?」と考えていなければなりません。
- 戦略や目標を理解せずに監査を行うことは、「地図を持たずに航海する船の点検をする」ようなものであり、専門職としての正当な注意を欠いていると言えます。
【練習問題】パート1 セクションB-5-a
Q1. 内部監査人が販売部門の監査を計画している。専門職としての正当な注意(Due Professional Care)を発揮するために、監査人が最初に理解・評価すべき事項として最も適切なものはどれか。
A. 販売部門の従業員の有給休暇取得率。
B. 販売部門で使用されているPCのスペックと台数。
C. 組織全体の戦略的目標と、それに関連する販売部門の目標およびリスク。
D. 過去3年間の販売伝票における記載ミスの件数。
【解答・解説】
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正解(C): 正当な注意を発揮するには、まず「何のためにその業務があるのか(目的)」を理解する必要があります。組織の戦略や目標との整合性を確認することで、監査人は些末な問題ではなく、目標達成を阻害する「真のリスク」に焦点を当てた監査計画を策定できます。
不正解(A)、(B)、(D): これらは詳細な監査手続きの中で確認すべき事項かもしれませんが、最初に評価すべき最上位の概念ではありません。
Q2. ある内部監査人は、製造部門のコスト削減目標が達成されていることを確認した。しかし、同時に「過度なコスト削減により製品の品質が低下し、長期的なブランド価値(戦略目標)を毀損している」という兆候も発見した。この状況において、監査人が取るべき行動はどれか。
A. 部門目標(コスト削減)は達成されているため、品質の問題は指摘せず「良好」と報告する。
B. 品質管理は製造部門の責任であるため、監査報告書には記載しない。
C. 短期的な目標(コスト)と長期的な戦略(ブランド価値)との間に不整合(トレードオフ)が生じていることを指摘し、経営陣にリスクを報告する。
D. 品質低下の責任者を特定し、懲戒処分を勧告する。
【解答・解説】
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正解(C): 専門職としての正当な注意には、単に「目標数値の達成」を確認するだけでなく、その達成方法が組織全体の戦略や持続可能性に悪影響を与えていないかを評価することが含まれます。部分最適が全体最適を損なっている場合、それを指摘することは監査人の重要な役割です。
不正解(A): 重要なリスク(ブランド毀損)を見過ごすことは、正当な注意の欠如です。
不正解(B): 戦略的リスクは監査対象です。
不正解(D): 処分の勧告ではなく、まずは事実とリスクの報告を行うべきです。
Q3. 内部監査人が、組織の「戦略的目標」の評価を行う際、考慮すべき要素として、GIASが推奨する視点に含まれないものはどれか。
A. 組織の使命(ミッション)およびビジョンとの整合性。
B. リスク選好(Risk Appetite)との整合性。
C. 外部のステークホルダー(顧客、投資家など)の期待。
D. 監査人が個人的に好む経営スタイルかどうか。
【解答・解説】
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正解(D): 監査人の個人的な好みや主観は、客観性を損なうバイアスであり、評価基準にすべきではありません。評価はあくまで組織のミッション、リスク選好、ステークホルダーの期待といった客観的な基準に基づいて行われるべきです。
不正解(A)、(B)、(C): これらはすべて、戦略や目標が適切に設定されているかを評価するための重要な視点です。
