【CIA試験講義】パート1 セクションB-4-e: 関係構築スキルの適用
テーマ:信頼(Trust)が監査のパスポート ~ラポールの力~
「監査人は警察だ」と思われている組織で、本音の情報を引き出すことは不可能です。 逆に、「監査人は頼りになるパートナーだ」と思われていれば、現場から自発的に相談が来るようになります。
この違いを生むのが、内部監査人の「関係構築スキル(Relationship-building skills)」です。 GIAS(グローバル内部監査基準)は、技術的なスキル(ハードスキル)と同じくらい、人間関係を築く力(ソフトスキル)を重視しています。
このセクションでは、ステークホルダーとの間に「信頼(Trust)」と「信用(Credibility)」を確立するための具体的な行動を学びます。
1. 信頼(Trust)と信用(Credibility)の違い
似ていますが、監査においては少しニュアンスが異なります。
- 信頼(Trust): 「この人は嘘をつかない、裏切らない」という人間性への評価。誠実さや倫理観に基づきます。
- 信用(Credibility): 「この人の言うことは正しい、役に立つ」という能力への評価。専門知識や実績に基づきます。
内部監査人は、この両方を獲得する必要があります。「いい人だけど仕事ができない」のも、「仕事はできるけど信用できない」のもダメです。
2. ラポール(Rapport)の形成
ラポールとは、心理学用語で「心が通い合っている状態」を指します。監査の現場では、以下の行動でラポールを築きます。
① 共感(Empathy)を示す
- 「監査を受けるのは大変ですよね」と相手の負担を理解する。
- 現場の課題や苦労話に耳を傾ける(傾聴)。
② 共通の目的を確認する
- 「監査をするため」に来たのではなく、「組織の目標達成を支援するため」に来たことを伝える。
- 「私たちは同じボートに乗っています」という姿勢を見せる。
③ 約束を守る
- 「来週までに回答します」と言ったら必ず守る。小さな約束の積み重ねが信頼を作ります。
3. ステークホルダー別の関係構築
相手によってアプローチを変える柔軟性が必要です。
- 取締役会・監査委員会:
- キーワード: 正直さ、透明性、要点の明確さ。
- 悪いニュースも隠さず、かつ解決策とともに提示することで信頼を得る。
- 経営陣(CEO/CFO):
- キーワード: ビジネス理解、価値付加。
- 「監査がどう経営に貢献するか」を数字やリスクの観点で語る。
- 現場担当者(被監査部門):
- キーワード: 敬意、公平性、サポート。
- 上から目線で指摘するのではなく、改善を手伝う姿勢を見せる。
4. コンフリクト(対立)時の関係維持
意見が対立した時こそ、関係構築スキルが試されます。
- 人格を攻撃しない: 「あなたが間違っている」ではなく「このプロセスにはリスクがある」と言う(事象に焦点を当てる)。
- Win-Winを目指す: 監査人の主張(リスク低減)と現場の主張(効率性)の接点を探る。
まとめ
セクションB-4-eのポイントは、「監査は人が行うもの」という原点回帰です。
- どんなに正しい指摘でも、嫌いな人からのアドバイスは聞きたくないのが人間です。
- 「あなたとなら一緒に問題を解決したい」と思わせる関係性を築くことが、監査の実効性を最大化する鍵となります。
【練習問題】パート1 セクションB-4-e
Q1. 内部監査人が、初めて監査を担当する製造部門の責任者との信頼関係(ラポール)を早期に構築するためにとるべき行動として、最も効果的なものはどれか。
A. 最初のミーティングで、過去の監査で見つかった不正事例を列挙し、監査人の権限と恐ろしさを強調する。
B. 部門の業務プロセスや課題について事前に学習した上で、責任者の懸念事項や期待についてじっくりと聴取(傾聴)し、監査が部門の目標達成を支援するものであることを説明する。
C. 個人的な親密さをアピールするために、監査とは無関係なプライベートな話題だけで初回の面談時間を使い切る。
D. 監査の独立性を保つため、監査が終了するまで責任者とは一切会話をせず、文書のみでやり取りする。
【解答・解説】
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正解(B): 信頼関係の構築には、相手への理解と敬意を示すことが不可欠です。相手のビジネスに関心を持ち、悩みを聞き出し、監査が「敵対的なもの」ではなく「支援的なもの」であることを伝えるアプローチが、ラポール形成に最も効果的です。
不正解(A): 威圧的な態度は防衛的な反応を引き出し、信頼を損ないます。
不正解(C): 多少のアイスブレイクは有効ですが、プロフェッショナルとしての信用(Credibility)を築くには、業務に関する有意義な対話が必要です。
不正解(D): コミュニケーションの拒否は不信感を生み、監査の障害となります。
Q2. 内部監査部門長(CAE)が、新たに就任した最高経営責任者(CEO)からの「信用(Credibility)」を確立するために注力すべきことはどれか。
A. 監査部門の予算を倍増させるよう、就任初日に強く要求する。
B. 前任のCEOの悪口を言い、新CEOに取り入る。
C. 組織の戦略的目標とリスクを深く理解し、内部監査計画がそれらにどう貢献するかを論理的に説明するとともに、タイムリーで高品質な監査報告を提供する。
D. CEOの個人的な相談相手となり、公私混同した関係を築く。
【解答・解説】
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正解(C): 信用(Credibility)は、専門能力と実績から生まれます。「このCAEはビジネスを理解しており、役に立つ」とCEOに認識させることが、専門職としての信用を確立する正攻法です。
不正解(A): 信頼関係がない状態での予算要求は逆効果になる可能性があります。
不正解(B): 他人の悪口は、発言者自身の品格と信頼性を下げます。
不正解(D): 独立性を損なうなれ合いは、長期的には信用を失墜させます。
Q3. 監査期間中、被監査部門の担当者が多忙を理由に監査人への対応を避けるようになった。関係を修復し、協力を得るためのコミュニケーションとして、最も適切なものはどれか。
A. 「協力しないなら監査報告書に『非協力的』と書く」とメールで脅す。
B. 担当者の上司に直ちにクレームを入れ、担当者を叱責してもらう。
C. 担当者の席まで行き、相手の状況(繁忙期であることなど)に配慮と共感を示した上で、業務への負担を最小限にするためのスケジュールの再調整や代替手段(メールでの回答など)を提案する。
D. 担当者を無視して、勝手に机の書類を持ち出して監査を進める。
【解答・解説】
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正解(C): 相手が非協力的な場合、まずは相手の事情(立場)を理解し、共感を示すことが関係改善の第一歩です。その上で、監査の目的を達成しつつ相手の負担を減らす「Win-Win」の提案を行うことで、信頼を取り戻し、協力を引き出すことができます。
不正解(A)、(B): 脅しや上司を使った圧力は、短期的には動くかもしれませんが、長期的な信頼関係を破壊します。
不正解(D): 無断での持ち出しはプロフェッショナルな行動ではなく、トラブルの原因となります。
