【CIA試験講義】パート1 セクションB-4-c: 調査スキルの適用と情報収集
テーマ:証拠のハンターになれ ~真実にたどり着くための技法~
内部監査人が結論(意見)を出すためには、それを支える強固な「証拠(Evidence)」が必要です。 しかし、重要な情報は向こうから歩いてくることはありません。書類の山、複雑なデータ、そして人の記憶の中に隠されています。
このセクションでは、監査人が効率的かつ効果的に情報を集め、知識を広げるための「調査スキル(Research Skills)」について学びます。 「ググって終わり」ではありません。
信頼できる情報源を見極め、多角的に検証するプロの技が問われます。
1. 情報収集のプロセス(リサーチ・サイクル)
調査は闇雲に行うものではなく、以下のステップで体系的に進めます。
- 目的の明確化: 何を知りたいのか?(例:「A支店の売上計上基準は適切か?」)
- 情報源の特定: どこに答えがあるか?(社内規定、法令、インタビュー、データログ)
- 情報の収集: 実際に情報を入手する。
- 情報の評価: その情報は信頼できるか? 十分か?
- 結論の導出: 集めた情報から何が言えるか?
2. 多様な情報源(Sources)の活用
監査人は、偏った情報に惑わされないよう、複数のチャネルから情報を集める必要があります(トライアングレーション)。
① 内部情報源
- 文書情報: 業務マニュアル、契約書、議事録、過去の監査報告書。
- 人的情報: 経営陣、プロセスオーナー、現場スタッフへのインタビュー。
- データ情報: 会計システム、ログデータ、KPIレポート。
② 外部情報源
- 法令・規制: 最新の法改正情報、規制当局のガイドライン。
- 業界標準・ベンチマーク: 同業他社の動向、業界団体のレポート。
- 専門家: 弁護士、税理士、ITコンサルタントの意見。
3. 調査手法(テクニック)の種類
情報を引き出すための「武器」を使い分けます。
- 閲覧(Inspection): 文書や記録を目で見て確認する。
- 観察(Observation): 実際の業務プロセスを現場で見る。
- 質問(Inquiry): インタビューやアンケートを行う。
- 注意点: 質問による回答だけでは証拠力が弱いため、裏付け(閲覧など)が必要です。
- 分析的手続き(Analytical Procedures): データの傾向や比率を分析し、異常値を見つける。
- 例:「売上が10%増えたのに、売掛金が50%増えているのはおかしい」と推論する。
4. 情報の質の評価(十分性と適切性)
集めた情報は、監査証拠として使えるレベルでなければなりません。
- 十分性(Sufficiency): 「量」は足りているか?(1件のエラーだけで全体を判断していないか?)
- 適切性(Appropriateness): 「質」は高いか?
- 関連性: 監査目的と関係があるか?
- 信頼性: 原本かコピーか? 外部ソースか内部ソースか?(外部の方が信頼性が高いとされる)
まとめ
セクションB-4-cのポイントは、「裏付けを取る執念」です。
- 「担当者がそう言ったから」で終わらせてはいけません。
- 「マニュアルにはこう書いてある」「データもそれを示している」と、複数の情報源から事実を立体的に組み立てるのが、プロの調査スキルです。
【練習問題】パート1 セクションB-4-c
Q1. 内部監査人が、購買プロセスにおける不正リスクの兆候を調査している。情報の信頼性が最も高い(証拠力が強い)情報源の組み合わせとして、適切なものはどれか。
A. 購買担当者への口頭インタビューの結果のみ。
B. 社内で作成された購買申請書のコピーと、購買部長の承認印。
C. 銀行から直接入手した支払記録(外部証拠)と、倉庫で実地棚卸をして確認した現物の存在(監査人が直接入手した証拠)。
D. 購買部門が作成した月次報告書のグラフ。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(C): 監査証拠の信頼性の原則として、「外部から直接入手した証拠」および「監査人が自ら観察・入手した証拠」は、「内部で作成された証拠」や「口頭証拠」よりも信頼性が高いとされます。不正調査においては、改ざんが困難な客観的証拠が不可欠です。
不正解(A): 口頭証拠は最も信頼性が低く、裏付けが必要です。
不正解(B): 社内文書(特にコピー)は改ざんのリスクがあります。
不正解(D): 加工されたデータであり、元のデータの正確性が検証されていません。
Q2. 内部監査人が、新しい海外市場への進出に伴う規制リスクを評価しようとしている。このトピックに関する知識を広げ、情報を収集するために適用すべき調査スキルとして、最も効果的でないものはどれか。
A. 現地の法律事務所やコンサルタントが発行している規制環境に関するレポートを調査する。
B. 過去に同市場に進出して撤退した競合他社の事例研究(ケーススタディ)を分析する。
C. 自社の営業担当者の「たぶん大丈夫だろう」という楽観的な予測のみを根拠にする。
D. 当該国の政府機関が公表している公式なガイドラインや法規制の原文を確認する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(C): 調査スキルを適用する目的は、客観的で信頼できる情報を集めることです。社内の利害関係者(営業担当者)の主観的かつ根拠のない予測のみに依存することは、調査としては不十分であり、誤った結論を招くリスクがあります。
不正解(A)、(B)、(D): これらはすべて、外部の客観的な情報源を活用した適切な調査活動です。
Q3. 内部監査人が「分析的手続き(Analytical Procedures)」を用いて情報を収集・分析する際に行う活動として、適切な例はどれか。
A. 従業員の机の中を無断で捜索し、私物をチェックする。
B. 今期の売上高と売上原価の比率(粗利益率)を過去3年間のトレンドと比較し、著しい変動がないか調査する。
C. 契約書の署名が本物かどうか、筆跡鑑定を行う。
D. 取締役会議事録を読み込み、経営方針を確認する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): 分析的手続きとは、財務データや非財務データの間の「関係性」や「傾向(トレンド)」を分析し、異常点や予期せぬ変動を識別する手法です。比率分析や回帰分析などがこれに該当します。
不正解(A): これは物理的な捜索であり、プライバシー侵害のリスクがあります。
不正解(C): これは「文書鑑定」などの専門的な検証手続きです。
不正解(D): これは「文書閲覧(Inspection)」です。
