テーマ:伝わらなければ、価値はない ~監査人のコミュニケーション術~

内部監査人がどれほど素晴らしい発見をし、画期的な改善策を思いついたとしても、それが経営陣や被監査部門に正しく伝わらなければ、何の価値も生みません。 監査業務の成果は、最終的に「コミュニケーション(報告・対話)」を通じて提供されるからです。

GIAS(グローバル内部監査基準)は、監査人に対し、単に事実を羅列するだけでなく、「効果的(Effective)」に伝えるための高度なスキル(書面および口頭)を求めています。

このセクションでは、監査人が直面する様々な場面での「伝え方の技術」を学びます。


1. 効果的なコミュニケーションの4要素

GIASおよびIIAのガイダンスでは、監査コミュニケーションの質を決定づける要素として、以下の4つを挙げています。

  1. 正確性(Accurate): エラーや歪曲がなく、事実に即していること。
  2. 客観性(Objective): 公正で偏りがなく、すべての関連する事実に基づいていること。
  3. 明確性(Clear): 専門用語(ジャーゴン)を避け、論理的でわかりやすいこと。
  4. 簡潔性(Concise): 要点を押さえ、冗長な表現を避けること。

さらに、建設的(Constructive)であること(改善を促す前向きなトーン)、適時(Timely)であることも重要です。

2. 書面によるコミュニケーション(Reporting)

監査報告書は、監査人の「顔」であり「商品」です。以下のポイントを押さえる必要があります。

構成の工夫(5C)

読み手(経営陣)は忙しいです。結論から先に書くなど、構成を工夫します。

  • Condition(現状): 何が起きているか(事実)。
  • Criteria(基準): 本来どうあるべきか(ルール)。
  • Cause(原因): なぜ起きたか(根本原因)。
  • Consequence(影響): それによりどんなリスクがあるか。
  • Corrective Action(是正措置): どうすれば直るか。

表現の工夫

  • 「不備」「違反」といった攻撃的な言葉よりも、「改善の機会」「観察事項」といった中立的・建設的な言葉を選ぶことで、受容性を高めます。

3. 口頭によるコミュニケーション(Meeting & Presentation)

書くだけでなく、話して伝える力も不可欠です。

インタビュー(ヒアリング)

  • 傾聴(Active Listening): 相手の話を遮らず、真意を汲み取る姿勢。
  • 質問力: 「はい/いいえ」で終わる閉じた質問(Closed question)と、自由に語らせる開かれた質問(Open question)を使い分ける。

会議・プレゼンテーション

  • 開始会議(Kick-off): 監査の目的と範囲を説明し、協力を取り付ける。
  • 終了会議(Exit Meeting): 監査結果の草案を説明し、誤解がないか確認し、合意形成を図る。
    • ポイント: ここで「サプライズ(寝耳に水)」の指摘をしてはいけません。監査期間中にこまめにコミュニケーションをとっておくことが重要です。

4. 相手に合わせたスタイルの調整

コミュニケーションは「相手ありき」です。

  • 取締役会向け: 詳細な手続きは省き、経営戦略への影響や重大なリスクに絞って簡潔に伝える(エグゼクティブ・サマリー)。
  • 現場担当者向け: 具体的な改善手順や、実務上のメリットを詳細に伝える。

まとめ

セクションB-4-aのポイントは、「相手を動かす力」です。

  • 正しいことを言うだけでは不十分です。相手がそれを理解し、納得し、行動に移したくなるように伝えることが、プロフェッショナルの仕事です。
  • 試験では、「正確だが分かりにくい報告書」や「正論だが攻撃的な発言」が、不適切なコミュニケーションの例として出題されます。

【練習問題】パート1 セクションB-4-a

Q1. 内部監査人が監査終了会議(Exit Meeting)で被監査部門の責任者に監査結果を報告する際、最も効果的かつ建設的なコミュニケーション・アプローチはどれか。

A. 監査中に発見されたすべての些細なミスを一つ一つ列挙し、責任者に反論の隙を与えないよう厳しく追及する。

B. 報告内容に「サプライズ」がないよう、重要な発見事項については監査期間中にすでに担当者と協議済みであることを確認した上で、結論と推奨事項の要点を中心に説明し、合意形成を図る。

C. 責任者との対立を避けるため、重要な不備については口頭では触れず、後日送付する最終報告書にのみ記載する。

D. 監査報告書を読み上げるだけに留め、質疑応答の時間は設けない。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 効果的なコミュニケーションの鉄則は「No Surprise(驚かせない)」です。重要な問題は発見された時点で共有し、認識のズレを解消しておくべきです。終了会議は、事実関係の最終確認と、改善に向けた合意形成(コミットメント)を得るための場であり、建設的な対話が求められます。

不正解(A): 些細なミスの羅列や攻撃的な態度は、相手の防衛本能を刺激し、改善への意欲を削ぎます。

不正解(C): 重要なことを隠して後出しすることは、信頼関係を破壊する不誠実な行為です。

不正解(D): 一方的な通告はコミュニケーションとは言えません。


Q2. 内部監査人が取締役会に対して「サイバーセキュリティ監査」の結果を報告するプレゼンテーションを行うことになった。この際、最も留意すべきコミュニケーションの原則はどれか。

A. 専門性を示すために、最新のIT専門用語や詳細な技術データを多用して説明する。

B. 監査で実施したすべてのテスト手順とサンプリング件数を詳細に説明し、労力をアピールする。

C. 専門用語(ジャーゴン)の使用を避け、特定されたリスクが組織の戦略目標や財務にどのような「ビジネス上の影響(Business Impact)」を与えるかを、簡潔かつ明確に伝える。

D. 取締役会の時間を奪わないよう、配布資料のみを提出し、口頭での説明は省略する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 取締役会のメンバーは必ずしもITの専門家ではありません。彼らが知りたいのは「技術的な詳細」ではなく、「それが経営にどう影響するか(リスクの大きさ)」です。相手の知識レベルや関心に合わせて、わかりやすい言葉(明確性)で要点を絞って(簡潔性)伝えるスキルが不可欠です。

不正解(A): 専門用語の多用は理解を妨げ、コミュニケーションの失敗につながります。

不正解(B): プロセスの詳細よりも、結果(結論と提言)が重要です。

不正解(D): 重要なリスクについては、直接対話して理解度を確認する必要があります。


Q3. 内部監査報告書を作成する際、発見事項(Observation)の説得力を高めるために含めるべき「5C」の要素のうち、「なぜその問題が起きたのか」を説明する要素はどれか。

A. Condition(現状)

B. Criteria(基準)

C. Cause(原因)

D. Consequence(影響)

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): Cause(原因)は、発見された状態(Condition)とあるべき姿(Criteria)のギャップがなぜ生じたのか、その根本的な理由(Root Cause)を説明する要素です。原因が特定されていなければ、効果的な是正措置(再発防止策)を提案することはできません。

不正解(A): 「何が起きているか(事実)」です。

不正解(B): 「どうあるべきか(ルール)」です。

不正解(D): 「それがもたらすリスクや結果」です。