テーマ:板挟みの監査人 ~利益相反の構造と種類~

内部監査人は組織の一員ですが、同時に専門職としての独立性を保つ必要があります。 しかし、現実には監査人の個人的な利益と、専門職としての義務がぶつかる場面が存在します。これが「利益相反(Conflict of Interest)」です。

GIASは、実際に利益相反がある場合だけでなく、「あるように見える(外観上の)」場合も問題視します。 このセクションでは、監査人の客観性を損なう具体的な「状況(シナリオ)」を分析し、危険信号を見抜く力を養います。


1. 利益相反(Conflict of Interest)とは

利益相反とは、監査人の「個人的な利害」が、専門職としての「公平な判断(客観性)」を歪める可能性がある状況を指します。

  • 実際の利益相反: 監査人が、自分が投資している会社を監査する。
  • 外観上の利益相反(Appearance): 監査人が、親友が部長を務める部署を監査する(実際には公平に監査したとしても、周囲からは「手心を加えた」と疑われる)。

★ポイント: CIA試験では、「疑われるような状況」自体がアウト(回避すべきリスク)とみなされます。

2. 利益相反を生じさせる3つの主な要因

① 経済的利害(Economic Interest)

金銭的なメリットが絡むケースです。

  • 保有株式: 監査対象となる取引先や競合他社の株を持っている。
  • ボーナス: 監査結果(例えば「コスト削減額」や「監査での指摘ゼロ」)に連動して自分のボーナスが決まる。
  • 副業: 監査対象であるベンダーから、個人的にコンサルティング報酬を受け取っている。

② 個人的関係(Personal Relationship)

人間関係が絡むケースです。

  • 親族・友人: 配偶者、親戚、親友が、被監査部門の責任者や担当者である。
  • 恋愛関係: 被監査者と恋愛関係にある。
  • 敵対関係: 過去にトラブルがあり、個人的に恨んでいる相手を監査する(逆のバイアスがかかる)。

③ 職業上の役割(Professional Role)

過去または未来のキャリアが絡むケースです。

  • 過去の責任(自己監査): 直前まで所属していた部署を監査する(自分の古巣)。
  • 将来の約束: 「この監査を無事に終わらせてくれたら、来期は君を経理部長にしてあげよう」というオファーを受けている。

3. 分析の視点:3つの問い

利益相反の可能性がある状況に直面した時、以下の3つの質問で分析します。

  1. 「私は、この監査結果によって個人的に得(または損)をするか?」
  2. 「私は、被監査者に対して『NO』と言いにくい関係にないか?」
  3. 「第三者から見て、私の判断は公正だと信じてもらえるか?」

これらに一つでも「怪しい」と感じる答えがあれば、それは利益相反のリスクが高い状況です。

4. 監査人への贈答品(Gifts and Hospitality)

監査対象者からのプレゼントや接待は、典型的な利益相反の入り口です。

  • 原則: 客観性を損なう(または損なうと見られる)可能性のある贈答品は、すべて辞退すべきです。
  • 例外: カレンダーやボールペンなど、儀礼的で極めて少額なもの(De Minimis)は許容される場合がありますが、組織の規定に従う必要があります。

まとめ

セクションB-2-bのポイントは、「李下に冠を正さず」です。

  • 疑わしい状況には近づかないのが一番です。
  • もし避けられない場合(例:親戚が働いている)は、必ず「開示(Disclosure)」し、その業務から外れる(Recusal)などの措置をとることが、専門職としての正しい行動です。

【練習問題】パート1 セクションB-2-b

Q1. 内部監査人が、組織が新規に契約しようとしているITベンダーの選定プロセスの監査を担当することになった。しかし、そのベンダーの主要株主が監査人の従兄弟であることが判明した。この状況に関する分析として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。

A. 従兄弟は「二親等以内の親族」ではないため、利益相反には該当しない。

B. 監査人自身が株を持っているわけではないため、経済的利害はなく、問題ない。

C. 監査人の客観性が損なわれる「外観上の利益相反」が存在する。監査人はこの事実をCAE(内部監査部門長)に開示し、当該監査業務から外れるべきである。

D. 監査人はプロフェッショナルであるため、親族関係に影響されずに監査を行うことができると宣言すれば、そのまま業務を継続できる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 従兄弟が主要株主であるベンダーを監査する場合、監査人が有利な取り計らいをするのではないかという「外観上の利益相反」が生じます。客観性に対する疑念を招く状況であるため、事実を開示し、当該業務から外れる(回避する)ことが適切な対応です。

不正解(A): 親等に関わらず、客観性に影響を与える可能性のある関係はすべて考慮すべきです。

不正解(B): 親族の利益は間接的に監査人の利益(または心理的圧力)となり得ます。

不正解(D): 精神論(プロだから大丈夫)では、外観上の疑念を晴らすことはできません。


Q2. 内部監査部門長(CAE)の報酬体系(ボーナス)が、「内部監査によって発見されたコスト削減額」に直接連動して決定される契約になっている。この状況が引き起こす「利益相反」のリスクとして、最も懸念されるものはどれか。

A. CAEがコスト削減につながらない「コンプライアンス監査」や「安全性監査」を軽視し、金銭的成果が出やすい監査ばかりを優先するようになる。

B. CAEのモチベーションが向上し、組織全体のパフォーマンスが最大化される。

C. 経営陣がCAEの報酬をコントロールすることで、内部監査の独立性が強化される。

D. 監査スタッフがCAEに嫉妬し、チームワークが悪化する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(A): 監査人の個人的な金銭的利益(ボーナス)が特定の監査結果に紐づいている場合、監査計画や発見事項が歪められるリスク(経済的利益相反)が生じます。重要なリスク(法令違反や安全性など)が見過ごされる可能性が高まり、客観性が損なわれます。

不正解(B): 短期的には成果が出るかもしれませんが、長期的にはガバナンスを歪めるため適切ではありません。

不正解(C): 逆に独立性を侵害する要因となります。

不正解(D): 副次的な影響ですが、ガバナンス上の本質的なリスクではありません。


Q3. 内部監査人が、かつて所属していた営業部門の監査を担当することになった。彼が営業部門を離れてからまだ3ヶ月しか経過していない。この状況における「利益相反」の種類と、推奨される対応の組み合わせとして正しいものはどれか。

A. 種類:親近性バイアスのみ / 対応:特に制限なく監査を実施する。

B. 種類:自己評価の脅威(Self-review Threat) / 対応:当該監査業務から外れるか、少なくとも自身が関与した期間の業務のテストは行わない。

C. 種類:経済的利害関係 / 対応:営業部長に許可を得てから監査を行う。

D. 種類:威嚇の脅威 / 対応:外部監査人に監査を委託する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 直近(通常1年以内)まで所属していた部署を監査することは、自分の過去の仕事をチェックすることになるため、「自己評価の脅威」による利益相反が生じます。監査人は客観的な視点を持てない可能性が高いため、担当から外れることが推奨されます。

不正解(A): 親近性だけでなく、自己評価の脅威が重大です。

不正解(C): 経済的な問題ではありません。また、被監査部門長の許可は解決策になりません。

不正解(D): 威嚇(圧力)の有無に関わらず、構造的な利益相反が存在します。