【CIA試験講義】パート1 セクションB-1-b: 適法かつ専門的な行動の実践
テーマ:プロフェッショナルの「品格」と「コンプライアンス」
内部監査人は、単に「法を守る(適法性)」だけでなく、「専門職として恥ずかしくない振る舞い(専門的な行動)」を常に求められます。 なぜなら、内部監査人の信頼性は、その能力だけでなく、「行動の質」に依存しているからです。
このセクションでは、監査業務の現場だけでなく、日常業務やプライベートにおいても求められる「適法性(Legality)」と「専門的な行動(Professional Behavior)」の具体的な実践方法について学びます。
1. 法令遵守(適法性)の原則
内部監査人は、自分自身が法律を守っていないのに、他人の法令違反を指摘することはできません。
- 基本原則: 内部監査人は、適用されるすべての法令、規制、および組織の方針を遵守しなければならない。
- 具体例:
- 贈収賄の禁止: 取引先からの接待や賄賂を絶対に受け取らない(FCPAやUK Bribery Actなどの腐敗防止法の遵守)。
- インサイダー取引の禁止: 監査で知り得た未公開情報(M&A情報や決算数値)を利用して株取引を行わない。
- 守秘義務の遵守: 個人情報保護法や契約上の秘密保持義務を守る。
★注意点: 「違法でなければ何でもしていい」わけではありません。法律は「最低限の道徳」です。監査人はそれ以上の高い倫理基準を持つ必要があります。
2. 専門的な行動(Professional Behavior)
これは、内部監査という職業の信用を傷つけるような行動を慎むことです。
- ハラスメントの禁止:
- 監査対象者に対して高圧的な態度を取ったり、差別的な言動をしたりすることは、専門職として失格です。
- 敬意を持ったコミュニケーション:
- 相手の意見を尊重し、建設的な対話を行うこと。たとえ不正をした相手であっても、人格攻撃をしてはいけません。
- 利益相反の回避と開示:
- 客観性を損なうような関係(親族関係、金銭的利害など)がある場合は、隠さずに開示し、その業務から外れるなどの措置をとります。
3. 「専門職としての注意(Due Professional Care)」の実践
適法かつ専門的な行動の核心は、「正当な注意(Due Professional Care)」を払うことにあります。
- 定義: 合理的に慎重で有能な内部監査人であれば、同様の状況下で行うであろうスキルと注意のレベル。
- 意味: 「完璧であること(絶対的保証)」までは求められませんが、「手抜きをしないこと」は求められます。
- 実践方法:
- 十分な調査を行う。
- 複雑な問題には専門家の助けを借りる。
- 単なる噂や推測ではなく、確固たる証拠に基づいて結論を出す。
4. 困難な状況での振る舞い
例えば、監査対象者から「君の監査のやり方は間違っている!」と激しく非難された場合、どうすべきでしょうか?
- × 感情的に反論する: プロ失格です。
- 〇 冷静に対応する: 相手の主張の根拠を聞き、事実に基づいて議論します。必要であれば、基準(GIAS)や監査計画を示して説明します。
まとめ
セクションB-1-bのポイントは、「誰に見られても恥ずかしくないか?」です。
- 監査人は、常に「見られる立場」にあります。
- 法律を守るのは当たり前。その上で、誠実さ、公平さ、そして相手への敬意を持って行動することが、「専門職」としての要件です。
【練習問題】パート1 セクションB-1-b
Q1. 内部監査人が、監査対象である購買部門の責任者から「監査のお礼」として高額なギフト券を贈られた。社内規定では少額の贈答品は認められているが、このギフト券の額は明らかに規定の上限を超えている。GIASの「誠実性」および「適法性」の観点から、監査人が取るべき行動として最も適切なものはどれか。
A. 監査結果に手心を加えなければ、個人的に受け取っても問題ない。
B. ギフト券を受け取り、その全額を慈善団体に寄付する。
C. 丁重に辞退し、その事実(贈賄の試みの可能性)を上司(CAE)に報告する。
D. ギフト券を受け取るが、監査報告書にはその事実を記載する。
【解答・解説】
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正解(C): 内部監査人は、客観性を損なう外観(Appearance)さえも避ける必要があります。規定を超える高額な贈答品は、独立性を侵害する賄賂とみなされる可能性が高く、適法かつ専門的な行動として「辞退」が唯一の正解です。また、そのような試みがあったことを上司に報告する義務があります。
不正解(A): 心の中で手心を加えていなくても、第三者から見れば癒着(客観性の欠如)とみなされます。
不正解(B): 寄付をしても、受け取った事実に変わりはなく、贈与者との関係性に影響を与えます。
不正解(D): 受け取ること自体が倫理規定および社内規定違反です。
Q2. 内部監査人が、上場企業の財務監査中に、来期の業績見通しが大幅に下方修正されるという未公開の重要情報を知った。この監査人が「適法かつ専門的な行動」に違反する行為はどれか。
A. その情報を利用して、公表前に自社株を売却し、損失を回避した。
B. その情報は業務上必要なものであるため、監査調書に記録し、厳重に保管した。
C. その情報に基づき、財務諸表における引当金の計上が適切かどうかを追加で検証した。
D. その情報の重要性を認識し、CAEを通じて監査委員会に報告した。
【解答・解説】
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正解(A): これは「インサイダー取引」であり、明確な法令違反(犯罪)です。また、内部監査人が業務上知り得た情報を私的利益のために利用することは、倫理綱領の「機密保持」および「誠実性」の原則に対する重大な違反です。
不正解(B)、(C)、(D): これらはすべて、監査業務として適切かつ必要な専門的行動です。
Q3. 内部監査人は、被監査部門の担当者が監査手続きに対して非協力的であり、度々攻撃的な言葉を浴びせてくる状況に直面した。専門職としての気質(Professionalism)を維持するための対応として、最も適切なものはどれか。
A. 監査人も感情的になり、担当者に対して同等の厳しい言葉で言い返す。
B. 担当者との接触を避け、監査手続きを省略して報告書を作成する。
C. 冷静さを保ち、感情的な対立を避けつつ、監査の目的と必要性を論理的に説明し、協力を求める。状況が改善しない場合は、事実に基づいて上司に報告する。
D. その担当者の個人攻撃を目的とした「報復的な監査報告書」を作成する。
【解答・解説】
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正解(C): 専門職としての行動には、困難な状況下でも感情をコントロールし、客観性と礼節を保つことが含まれます。相手の挑発に乗らず、あくまで業務遂行に必要なコミュニケーションを粘り強く行う姿勢が求められます。
不正解(A): 感情的な応酬はプロフェッショナリズムの欠如です。
不正解(B): 必要な手続きを省略することは「正当な注意(Due Professional Care)」の欠如です。
不正解(D): 監査権限を私的な報復に利用することは、権力の濫用であり、重大な倫理違反です。
