【CIA試験講義】パート1 セクションA-6-g: プロセス・マッピングにおける役割
テーマ:見えない業務を「地図」にする ~可視化による問題解決~
「マニュアルにはこう書いてあるのに、現場では誰もやっていない」「なぜか月末になると、この部署で仕事が滞留する」 組織には、文章だけでは理解できない複雑な業務の流れが存在します。
これらを視覚的に表現する手法が「プロセス・マッピング(Process Mapping)」です。 アドバイザリー業務として、内部監査人がプロセス・マッピングを支援することは、経営陣が業務の全体像を把握し、ボトルネック(渋滞箇所)やコントロールの欠落(落とし穴)を発見するための最強のツールを提供することになります。
1. プロセス・マッピングとは何か?
プロセス・マッピングとは、業務のインプット(入力)、処理(プロセス)、アウトプット(出力)の流れを、記号や図を用いて視覚化することです。
代表的なものに、「スイムレーン(Swimlane)チャート」があります。これは、誰が(どの部署が)何を担当しているかを、プールのレーンのように分けて描く手法です。
監査人が作成を支援するメリット
- 共通認識の形成: 「私の仕事はここまで、あなたの仕事はここから」という責任分界点が明確になります。
- 「見えないもの」の可視化: 口頭説明では隠れていた「無駄な承認」や「重複作業」が一目でわかります。
2. アドバイザリー業務における具体的な手順
内部監査人は、以下のようなステップでプロセス・マッピングを支援します。
ステップ①:現状(As-Is)の把握
現場担当者へのインタビューやウォークスルーを通じて、「マニュアル上の手順」ではなく、「実際に今行われている手順」を描き出します。
- ポイント: ここで「本来あるべき姿」を描いてはいけません。まずは泥臭い「現実」を直視することが改善の第一歩です。
ステップ②:分析と課題の特定
作成したマップを見ながら、以下のポイントを検証します。
- ボトルネック: どこで書類が止まっているか?(承認待ち時間が長すぎる等)
- コントロールの欠落: リスクが高いのに、チェック工程がない箇所はないか?
- 冗長性: 同じ確認作業を別の人が二度やっていないか?
ステップ③:あるべき姿(To-Be)の検討支援
「この承認をなくせば早くなる」「ここに自動チェックを入れよう」といった改善案を盛り込んだ、理想的なフローチャート(To-Beモデル)の作成を支援します。
3. マッピング作成時の「監査人の視点」
監査人が作成するプロセス・マップには、単なる作業手順だけでなく、以下の要素が書き込まれていることが重要です。
- リスク・ポイント: ここで入力ミスが起きやすい、ここで不正が起きうる、という箇所。
- コントロール・ポイント: 承認印、システムのエラーチェック、照合作業などの統制活動。
これらをマッピングすることで、「リスクに対してコントロールの位置が適切か(早すぎないか、遅すぎないか)」を評価できます。
4. アシュアランスとアドバイザリーの違い
- アシュアランス業務:
- 監査人がプロセス・マップを作成し、それを使って「コントロールが有効か」をテスト・評価する(監査調書の一部)。
- アドバイザリー業務:
- 監査人がプロセス・マップを作成(または作成支援)し、それを「成果物」として経営陣に提供する。経営陣はそのマップを使って業務改善を行う。
まとめ
セクションA-6-gのポイントは、「百聞は一見に如かず」です。
- 複雑な業務課題を解決するために、監査人は言葉(レポート)だけでなく、図(マップ)を使って支援します。
- 「現状(As-Is)」を正確に地図にすることで、経営陣は初めて「どこを工事(改善)すべきか」を正しく判断できるようになります。
【練習問題】パート1 セクションA-6-g
Q1. 内部監査人が経理部門の業務改善(アドバイザリー業務)の一環として「プロセス・マッピング」を実施している。この活動の主な目的として、最も適切なものはどれか。
A. 経理担当者の個人の能力を評価し、人事異動の資料とするため。
B. 業務の流れを視覚化することで、ボトルネック、重複作業、およびコントロールの欠落箇所を特定しやすくするため。
C. 業務マニュアルの文章校正を行い、誤字脱字を修正するため。
D. 過去の不正会計の証拠を保全し、法的措置の準備をするため。
【解答・解説】
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正解(B): プロセス・マッピングの最大の利点は「可視化」です。文章では把握しづらい業務の停滞(ボトルネック)や、責任の所在、リスクとコントロールの関係性を図示することで、効率化や統制強化のポイントを浮き彫りにします。
不正解(A): 個人の評価ではなく、プロセス(仕組み)の評価・改善が目的です。
不正解(C): マニュアルの校正のような形式的な作業ではなく、実質的な業務フローの分析が目的です。
不正解(D): これは不正調査(フォレンジック)の目的であり、一般的なプロセス・マッピングの目的とは異なります。
Q2. 内部監査人が作成を支援するプロセス・マップのうち、「As-Is(現状)」マップを作成する際に最も重視すべき情報源はどれか。
A. 5年前に作成され、一度も更新されていない業務マニュアル。
B. 実際に業務を行っている担当者へのインタビューや、実際の作業の観察(ウォークスルー)。
C. 理想的な業務フローが記載された、業界団体のベストプラクティス集。
D. 経営陣が「こうあるべきだ」と考えている希望的観測。
【解答・解説】
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正解(B): As-Is(現状)マップは、今現実に起きていることを正確に描写しなければ意味がありません。マニュアルと実態が乖離していることは多々あるため、現場の担当者へのヒアリングや観察を通じて、実際のプロセス(非公式な手順やショートカットを含む)を把握することが不可欠です。
不正解(A): 陳腐化したマニュアルは現状を反映していない可能性が高いです。
不正解(C): これは「To-Be(あるべき姿)」やベンチマーキングの参考資料です。
不正解(D): 経営陣の認識と現場の実態のギャップを見つけることがマッピングの目的の一つであるため、経営陣の認識のみに依存するのは危険です。
Q3. アドバイザリー業務において、内部監査人がプロセス・マッピングを活用して「コントロールの有効性」を検討する際、特に注目すべきポイントはどれか。
A. マップのデザインが美しく、カラフルに色分けされているか。
B. プロセス内の「リスクが発生するポイント」と、それに対応する「コントロール(チェック機能)の位置」との関係性が適切か。
C. マップ作成に使用したソフトウェアが最新バージョンであるか。
D. すべての工程が、一人の担当者によって完結するように設計されているか。
【解答・解説】
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正解(B): プロセス・マップ上で「ここでエラーが起きる可能性がある(リスク)」という箇所に対し、その直後または適切なタイミングで「承認・照合(コントロール)」が配置されているかを確認します。リスクに対してコントロールが遅すぎる(手遅れ)、あるいは存在しない(ギャップ)を発見することが重要です。
不正解(A)、(C): 形式的な要素であり、本質的な分析とは無関係です。
不正解(D): 1人で完結することは「職務分掌(Segregation of Duties)」の欠如を意味し、むしろ不正リスクを高めるため、推奨される設計ではありません。
