テーマ:真実を引き出す「会話」の技術 ~準備と心理戦~

セクションD-5-bは、不正調査における最も重要な、かつ最も難しいスキルである「インタビュー(面接・事情聴取)」の手法を学ぶパートです。

インタビューは単なる「おしゃべり」ではありません。情報を引き出し、嘘を見抜き、最終的には(可能であれば)自白を得るための、高度に計画された心理的なプロセスです。

CIA試験では、インタビューの準備、実施手順、そして相手の反応をどう読むかが問われます。


1. 導入:インタビューの目的と原則

インタビューの目的は、大きく分けて2つあります。

  1. 情報の収集(Information Gathering): 事実関係、プロセスの詳細、他の関係者についての情報を集める。
  2. 自白の獲得(Admission-Seeking): 被疑者から不正を認める供述を得る。

★ポイント: インタビューは「準備(Preparation)」で決まります。何の準備もなしに相手に会うのは、手ぶらで戦場に行くようなものです。関連する文書、データ、証拠を全て頭に入れた上で臨む必要があります。

2. インタビューの実施手順(5つのステップ)

一般的なインタビューは、以下の流れで進行します。

① 導入(Introduction)

  • 目的: ラポール(信頼関係)の形成。
  • 内容: 自己紹介、インタビューの目的(この段階では柔らかく伝える)、世間話などで相手の緊張をほぐす。
  • ポイント: ここで相手の「平常時の反応(ベースライン)」を観察します。

② 情報収集(Information Gathering)

  • 目的: 事実関係の確認。
  • 質問形式: 「オープン・クエスチョン(Yes/Noで答えられない質問)」を多用する。
    • 例:「その時の業務の流れを教えてください」「どう思いましたか?」
  • ポイント: 相手にたくさん喋らせることで、情報の矛盾や新たな手がかりを探ります。

③ 終了(Closing)

  • 目的: 協力への感謝と、再コンタクトの可能性の示唆。
  • 質問: 「他に伝えておきたいことはありますか?」「誰か他に知っている人はいますか?」

※ここから先は「被疑者(Suspect)」に対する特別なステップです

④ 評価(Assessment)

  • 相手の言動に嘘の兆候がないかを見極める。
    • 質問をはぐらかす、過度に詳細を語る、逆に沈黙する、視線を逸らすなど。

⑤ 追及・自白獲得(Admission-Seeking)

  • 証拠が固まっており、相手が嘘をついていると確信できた場合のみ移行します。
  • 手法: 「クローズド・クエスチョン(Yes/Noで答える質問)」や、逃げ道を塞ぐ質問を行う。
    • 例:「あなたがやったことは分かっている。なぜやったのか、理由を教えてほしい(家族のためか?)」

3. 効果的な質問技法

試験では、質問の種類と使い分けが問われます。

  • オープン・クエスチョン: 「具体的にどういうことですか?」
    • 話を広げる、情報を引き出すのに有効。
  • クローズド・クエスチョン: 「その場にいましたか?」
    • 事実の確認、相手を追い詰めるのに有効。
  • 誘導尋問(Leading Question): 「あなたは、借金を返すために金が必要だったのですね?」
    • 答えを暗示する質問。通常は避けるべきだが、自白獲得フェーズでは有効な場合がある。

4. 非言語コミュニケーション(Non-verbal Communication)

言葉だけでなく、相手の態度も重要な情報源です。

  • 正直な人の反応: 協力的、即答する、怒る(「私はやってない!」と正当に抗議する)。
  • 嘘をついている人の反応: 非協力的、質問を繰り返す(時間稼ぎ)、過度に丁寧、誓う(「神に誓ってやってません」)、物理的に距離を取る(腕組み、体を引く)。

まとめ

セクションD-5-bのポイントは、「準備と観察」です。

  • 文書を読み込み、質問リストを作る(準備)。
  • 相手の言葉だけでなく、表情や仕草の変化を見逃さない(観察)。
  • 相手との信頼関係を作りつつ、核心に迫る(心理戦)。

内部監査人には、刑事のような威圧的な態度ではなく、プロフェッショナルとしての冷静さと巧みさが求められます。


【練習問題】パート1 セクションD-5-b

Q1. 不正調査のインタビューにおいて、調査対象者(被疑者ではない証人)からできるだけ多くの情報を引き出し、自由に話をさせたい場合、内部監査人が使用すべき最も適切な質問形式はどれか。

A. クローズド・クエスチョン(Closed Questions)

B. 誘導尋問(Leading Questions)

C. オープン・クエスチョン(Open Questions)

D. 複合質問(Complex Questions)

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): オープン・クエスチョン(例:「そのプロセスについて詳しく説明してください」「何が起きたのですか?」)は、相手に自由な回答を促し、多くの情報を引き出すのに最も適しています。

不正解(A): クローズド・クエスチョンは「Yes/No」で終わってしまうため、話が広がりません。

不正解(B): 誘導尋問は答えを暗示してしまうため、事実関係の収集には不向きです。

不正解(D): 複合質問(一度に複数のことを聞く)は相手を混乱させるため避けるべきです。


Q2. 不正の被疑者に対するインタビュー(Admission-Seeking Interview)において、監査人が被疑者の心理的な抵抗を減らし、自白を促すために有効なアプローチとして知られているものはどれか。

A. 被疑者を大声で威嚇し、恐怖心を与えることで自白を強要する。

B. 「君がやったことは犯罪だ。刑務所行きは間違いない」と法的結果を強調する。

C. 「会社の方針が厳しすぎたせいで、君も追い詰められていたんだね」というように、不正の理由を合理化(Rationalize)する手助けをする。

D. 証拠がない段階で、「すべての証拠は揃っている」と嘘をついてカマをかける。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 人は自分のプライドを守りたい生き物です。被疑者の行為を道徳的に非難するのではなく、「魔が差しただけだ」「環境が悪かった」というように合理化(言い訳)の余地を与えることで、心理的な壁を下げ、自白を引き出しやすくする手法が有効です。

不正解(A): 威嚇や強要による自白は、法的証拠能力を失うリスクが高いです。

不正解(B): 刑罰を強調すると、相手は防御本能を働かせて口を閉ざしてしまいます。

不正解(D): 嘘をついて信頼を失うと、その後の調査が困難になります。


Q3. インタビュー中の被疑者の「非言語的反応(Non-verbal behavior)」として、一般的に嘘をついている、あるいは何かを隠している可能性を示唆するサイン(兆候)はどれか。

A. 質問に対して、即座に、かつ一貫性のある回答をする。

B. 監査人の目を見て話し、リラックスした姿勢(オープンな姿勢)を保っている。

C. 質問の内容を理解しているにもかかわらず、「質問の意味がわかりません」と繰り返したり、質問をオウム返しにして回答までの時間を稼ごうとする。

D. 自分の無実を主張する際に、具体的な証拠や事実を提示して論理的に説明する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 質問のオウム返しや「意味がわからない」という反応は、回答を考えるための時間稼ぎ(Stalling)である可能性が高く、嘘をついている人によく見られる非言語的な兆候です。

不正解(A)、(B)、(D): これらは一般的に、正直に話している人に見られる反応(協力的な態度、一貫性)です。