テーマ:「火事」を見つけたら誰に叫ぶ? ~発見後の正しいアクション~

セクションD-3-cは、監査業務中に「レッドフラグ(危険信号)」や「不正の疑い」を発見した際、内部監査人がとるべき「次の行動」を学ぶパートです。

ここで間違うと、証拠が隠滅されたり、監査人自身が法的リスクにさらされたりします。CIA試験では、「誰に報告するか?」「どこまで調査するか?」という判断の分岐点が問われます。


1. 導入:発見時のゴールデンルール

不正の兆候を見つけた時、内部監査人が絶対にやってはいけないこと、それは「一人で解決しようとすること」「早まって犯人を問い詰めること」です。

内部監査人の役割は、裁判官でも警察官でもありません。あくまで「組織に対して、不正のリスクを警告すること」です。

2. アクション①:上長(CAE)への報告

不正の兆候(十分な証拠がある場合)を見つけたら、まずは直ちに内部監査部門長(CAE)に報告します。

  • 監査担当者が個人の判断で動いてはいけません。

3. アクション②:CAEから経営陣・取締役会への報告

CAEは、事案の重大性に応じて適切な報告先を決定します。

  • 原則: 不正を行った疑いのある人物よりも「上位の権限者」に報告します。
    • 係長の不正疑い → 部長へ報告。
    • 部長の不正疑い → 担当役員へ報告。
    • 経営陣(社長など)の不正疑い → 取締役会(監査委員会)へ直接報告。

★ポイント: もし経営陣が関与している疑いがある場合、経営陣に報告してはいけません(もみ消されるリスクがあるため)。監査委員会などのガバナンス機関へバイパス報告します。

4. アクション③:法務部門との連携

不正調査は法的なリスク(名誉毀損、不当解雇訴訟など)を伴います。したがって、調査を進める前に法務顧問(Legal Counsel)の助言を求めることが推奨されます。 内部監査人は、「これは犯罪だ」と断定するのではなく、「不正の兆候がある」という事実を報告します。法的判断は弁護士や裁判所の役割です。

5. アクション④:調査(Investigation)への関与

ここが試験のひっかけポイントです。

  • 内部監査人の役割:
    • 不正の兆候を評価し、追加の調査が必要かどうかを「勧告(Recommend)」する。
  • 調査の実施主体:
    • 専門の不正調査部門、法務部門、あるいは外部の専門家が行うことが一般的です。
    • 内部監査人が調査を行うこともありますが、その場合は「必要なスキルと知識」を持っていることが前提です。スキルがないのに無理に調査をしてはいけません。

6. 外部への報告

原則として、内部監査人の報告義務は組織内部(経営陣・取締役会)に対してのみ存在します。 しかし、法律や規制によって外部当局への報告が義務付けられている場合(例:金融犯罪、環境汚染など)は例外です。この場合も、まずは法務部門と協議します。

まとめ

セクションD-3-cのポイントは、「レポートライン(報告経路)」の厳守です。

  1. 直ちにCAEへ報告。
  2. 疑わしい人物より上のポジションへ報告。
  3. 経営陣が怪しいなら取締役会へ。
  4. 法務と連携し、勝手な尋問や断定を避ける。

このプロトコル(手順)を守ることが、監査人と組織を守ることにつながります。


【練習問題】パート1 セクションD-3-c

Q1. 内部監査人は、購買部門の監査中に、購買部長が特定の業者から不適切なリベートを受け取っていることを示す強力な証拠(レッドフラグ)を発見した。この状況において、内部監査人がとるべき最初の行動として最も適切なものはどれか。

A. 購買部長を直ちに呼び出し、証拠を提示して事実関係を問い詰める(尋問する)。

B. 内部監査部門長(CAE)に報告し、次のステップについて指示を仰ぐ。

C. 購買担当担当役員(部長の上司)に報告する前に、警察に通報する。

D. 証拠が十分ではない可能性があるため、誰にも報告せず、個人的に購買部長の自宅を張り込み調査する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 不正の兆候を発見した場合、担当監査人は個人の判断で動かず、まずは組織内のプロトコルに従ってCAE(部門長)に報告するのが鉄則です。CAEが法務部門や経営陣への報告を判断します。

不正解(A): 準備なしに被疑者と対峙すると、証拠隠滅や弁明の機会を与えることになり、調査を妨害するリスクがあります。

不正解(C): 外部通報の前に、組織内部の適切なレベルへの報告が必要です。

不正解(D): 監査人の権限を逸脱した個人的な捜査(張り込み等)は絶対に行ってはいけません。


Q2. 内部監査部門長(CAE)は、最高財務責任者(CFO)が四半期決算の利益を水増しするために、架空の売上を計上するよう経理担当者に指示しているという内部通報を受けた。予備調査の結果、この通報内容には信憑性があることが判明した。CAEがとるべき報告行動として、最も適切なものはどれか。

A. 最高経営責任者(CEO)とCFOの両方を呼び出し、事実確認を行う。

B. CFOは経営陣の一員であるため、内部監査人の手に負えないと判断し、調査を中止する。

C. 取締役会(または監査委員会)に対して、直ちにこの事案を報告する。

D. 経理担当者を解雇し、CFOに対しては口頭で厳重注意を行う。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 経営陣(CFO)自身が不正に関与している疑いがある場合、その人物や同列の経営陣(CEO)に報告しても握りつぶされるリスクがあります。したがって、経営陣から独立したガバナンス機関である取締役会(または監査委員会)へ直接報告することが必須です。

不正解(A): CEOも共謀している可能性があるため、まずは監査委員会へ報告すべきです。

不正解(B): 経営者不正こそが組織にとって最大のリスクであり、監査人は逃げてはいけません。

不正解(D): 監査人には人事処分(解雇など)を行う権限はありません。


Q3. 不正の兆候を発見した後の「調査(Investigation)」段階における内部監査人の役割に関する記述として、GIASに基づき正しいものはどれか。

A. 内部監査人は、不正調査を行うための専門的なスキル(尋問技術やデジタルフォレンジックなど)を持っていない場合でも、自ら調査を完遂しなければならない。

B. 不正調査は法的なリスクを伴うため、内部監査人は調査活動に一切関与してはならず、全てを弁護士に委任すべきである。

C. 内部監査人は、組織内の他の専門部署(法務、セキュリティなど)や外部専門家と連携し、自身のスキルと知識の範囲内で調査を支援・実施することができる。

D. 内部監査人は、調査結果報告書において、被疑者が「有罪である(Guilty)」と法的に断定しなければならない。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 内部監査人は調査に関与できますが、必要な能力(Proficiency)を持っていることが条件です。高度な専門性が必要な場合は、他の専門家と連携することが求められます。

不正解(A): スキル不足のまま調査を行うことは「適正な専門的配慮」の欠如となり、基準違反です。

不正解(B): 関与自体が禁止されているわけではありません。むしろ内部統制の専門家として重要な役割を果たします。

不正解(D): 法的な断定(有罪・無罪)は裁判所の役割です。監査人は「不正が行われたことを示す証拠がある」という事実のみを報告します。