【CIA試験講義】パート1 セクションB-6-b: 内部監査の手法を適用する
テーマ:食材を「レシピ通り」に調理する義務 ~情報の適切な処理プロセス~
セクションB-6-bは、秘密情報の「利用」に関するルールです。 ここで言う「利用」とは、監査人が入手したデータを、確立された内部監査の手法(メソドロジー)に従って分析・評価・文書化することを指します。
「秘密保持」というと「隠すこと」ばかりに目が行きがちですが、内部監査人には「情報を正しく使い、結論を導き出す」という積極的な義務があります。
1. 導入:「私的利用」vs「専門的利用」
監査業務中に知った重大な情報を、どう扱うべきでしょうか?
- × 私的利用: 友人に話す、株取引に使う、好奇心を満たすために覗き見る。
- × 不適切な無視: 面倒だから見なかったことにする。
- ○ 専門的利用(本セクションのテーマ): 監査計画に基づき、分析し、証拠として文書化し、監査結果として報告する。
★ポイント: GIAS(グローバル内部監査基準)において、情報を「適切に利用する」とは、「内部監査の専門職としての基準や手法(IPPF/GIAS)に則って、その情報を監査プロセスに乗せること」を意味します。
2. 具体的な「手法」への適用ステップ
情報は、以下のプロセス(監査のライフサイクル)を経て「適切に利用」されなければなりません。
ステップ①:情報の収集(Scope)
情報は、承認された監査の目的と範囲に関連する場合にのみ収集・利用します。
- NG例: 財務監査を行っているのに、好奇心で人事評価ファイル(監査範囲外)にアクセスし、内容をチェックする。これは「権限の濫用」であり、適切な手法の適用ではありません。
ステップ②:情報の分析と評価(Analysis)
入手した情報は、十分な裏付け(証拠)とするために分析されなければなりません。
- 噂や推測だけで情報を利用してはいけません。「監査手続」というフィルターを通して、客観的な事実(Finding)へと昇華させる必要があります。
ステップ③:文書化(Documentation)
ここが試験で頻出です。 監査プロセスにおいて、利用した情報は「監査調書(Working Papers)」に記録されなければなりません。
- 「上司に口頭で伝えたからOK」ではありません。情報は、監査の結論を裏付ける記録として、組織の保存規定に従い体系的に保存される必要があります。
3. 「Need-to-Know(知る必要性)」の原則
内部監査の手法を適用する際、情報の共有範囲もコントロールする必要があります。
- 監査チーム内: 情報を共有し、分析を行う(適切)。
- 監査対象部門: 事実確認のために情報を提示する(適切)。
- 無関係な役員: 興味本位で聞いてきた役員に詳細を話す(不適切)。
監査手法の一部として、「誰に、いつ、どの程度の深さで」情報を開示するかを判断することも含まれます。
4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント
- ×「秘密保持のため、重要な不正の証拠を発見しても、監査調書には詳細を記載せず、監査人の記憶に留めるべきである」
- 解説: 間違いです。内部監査の手法として、発見事項は必ず文書化(記録)されなければなりません。記録しないことは、専門職としての義務違反です。
- ×「監査人は組織内のあらゆる情報にアクセスできるため、業務時間内であれば、監査範囲外の機密データ(役員報酬など)を閲覧し、将来のリスク評価の参考にしてもよい」
- 解説: 不適切です。アクセス権限があることと、それを行使してよいことは別です。現在の監査業務(または承認されたリスク評価業務)に関連しない情報へのアクセスは、情報の不適切な利用とみなされます。
- ×「監査手法を適用した結果、個人的に不適切だと感じる慣行を見つけたため、監査報告書には載せず、SNSで匿名で社会に問うことにした」
- 解説: 重大な倫理違反です。監査手法(報告プロセス)を無視し、組織外へ情報を持ち出すことは許されません。
まとめ
セクションB-6-bの核心は、「情報は『監査の目的』を達成するためにのみ使え」ということです。
- Input: 監査範囲内の情報を集める。
- Process: 基準に従って分析・評価・記録する。
- Output: 適切なルートで報告する。
このライン(手法)から外れた情報の使い方は、すべて「不適切な利用」となります。
【練習問題】パート1 セクションB-6-b
Q1. 内部監査人は、購買部門の業務監査を実施中に、ある購買担当者の給与明細データが誤って共有フォルダに保存されているのを偶然発見した。今回の監査範囲は「購買プロセスの効率性」であり、人件費や給与計算は範囲外である。内部監査の手法および倫理原則に基づき、監査人がとるべき行動として最も適切なものはどれか。
A. 将来の給与監査に役立つ可能性があるため、そのデータをダウンロードして個人の監査用PCに保存し、分析を行う。
B. データの内容(給与額)は見なかったものとし、共有フォルダのアクセス権限設定に不備があるという事実のみを、IT部門および購買部門の管理者に報告する。
C. 購買担当者の給与が市場平均より高いかどうかを分析し、不正の兆候がないかを確認した後、結果を報告書に含める。
D. 興味本位で同僚の監査人にその給与額を教えるが、外部には漏らさないように口止めする。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): 監査人は、承認された監査業務の「目的と範囲」に関連しない情報を収集・分析してはなりません。ただし、アクセス権限の不備(情報セキュリティ上のリスク)自体は発見された事実であるため、内容(個人の給与額)を詳細に分析するのではなく、「管理不備」として適切な部署に報告・対処を求めるのが正しい監査手法の適用です。
不正解(A): 監査範囲外の個人情報を、正当な理由なく保存・分析することは情報の不適切な利用にあたります。
不正解(C): 監査目的(効率性)から逸脱しており、承認されていない手続きを勝手に行うことは避けるべきです。
不正解(D): 明確な秘密保持違反であり、情報の私的利用(ゴシップとしての利用)にあたります。
Q2. 内部監査人は、営業支店の監査において、支店長が交際費を私的に流用している強力な証拠を発見した。しかし、支店長は社長の親族であり、報告すれば監査人自身の立場が危うくなる可能性がある。GIASおよび内部監査の手法に照らし、この情報の取り扱いとして正しいものはどれか。
A. 監査人の身を守るため、この情報は監査調書には記録せず、口頭でのみ監査委員長に伝える。
B. 証拠が不十分であると判断し、今回の監査報告書からは除外するが、個人的な日記には詳細を記録しておく。
C. 内部監査の専門的基準に従い、発見した事実と証拠を監査調書に正確に文書化し、規定された報告ラインに従って事実を報告する。
D. 情報を隠蔽することは倫理に反するため、直ちに匿名のメールで全社員に事実を公表する。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(C): 「内部監査の手法を適用する」とは、相手が誰であれ、事実に基づき客観的に証拠を文書化し、基準通りに報告することを意味します。恐れや忖度によって正規の手続き(文書化・報告)を歪めることは、情報の適切な利用とは言えません。
不正解(A): 監査調書への記録(文書化)を怠ることは、監査基準違反です。口頭のみの報告は証跡が残らず、後で言った言わないの問題になるリスクがあります。
不正解(B): 意図的に重要な発見事項を除外することは、客観性と誠実性の欠如を示します。
不正解(D): 正当な報告ラインを無視した情報の公開(全社員へのメールなど)は、秘密保持義務違反および組織の秩序を乱す行為となります。
Q3. 次の記述のうち、内部監査人が業務上入手した情報を「監査手法(methodology)に従って適切に利用している」と言える事例はどれか。
A. 監査人は、被監査部門の未公開の新製品情報を知り、それが競合他社に漏れないよう、監査チーム内での共有も一切行わず、自分一人だけの秘密とした。
B. 監査人は、IT監査の過程でパスワード管理の脆弱性を発見した。そのリスクの重大性を評価するため、許可なく管理者のパスワードを使って人事データベースに侵入し、どこまでデータが見られるかをテストした。
C. 監査人は、在庫管理監査で入手した売上データを分析し、異常値を特定した。その分析プロセスと結果を監査調書に記録し、そのデータを次年度の監査計画のリスク評価資料としても活用した。
D. 監査人は、監査対象部門の部長から「このデータは機密性が高いので、監査報告書には載せないでほしい」と頼まれ、そのデータを分析対象から除外した。
【解答・解説】
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正解(C): これは適切な利用の好例です。収集した情報を分析し、記録(文書化)し、さらに組織のリスク評価という正当な監査業務のために再利用しています。
不正解(A): 監査チーム内での情報共有は、監査の品質管理(スーパービジョン)のために必要です。必要な共有まで遮断することは、適切な監査手法とは言えません。
不正解(B): いかに監査目的であっても、「許可のない侵入(ハッキング行為)」は通常、監査の手法として認められる範囲を超えており、違法行為や倫理違反になるリスクが高いです(ペネトレーションテストなど、事前に明確な承認がある場合を除く)。
不正解(D): 被監査側の要望だけで必要な情報を除外することは、監査の客観性を損なう行為であり、適切な手法の適用ではありません。
