テーマ:「なぜ?」を5回繰り返す ~本質に迫る思考法~

内部監査人は、単にチェックリストに「レ」点を付けるだけの仕事ではありません。

表面的な現象の裏に隠された「真の原因(Root Cause)」を見抜き、複雑に絡み合った問題を解きほぐし、誰も気づかなかった「解決策」を提示する役割が求められます。

このセクションでは、監査業務の質を飛躍的に高めるための「批判的思考(クリティカル・シンキング)」と「問題解決(プロブレム・ソルビング)」のアプローチを学びます。


1. 批判的思考(Critical Thinking)とは

「批判的」といっても、他人の粗探しをすることではありません。 「物事を鵜呑みにせず、多角的に分析し、論理的に推論するプロセス」のことです。

内部監査における実践

  1. 情報の吟味:
    • 「このデータは本当に正確か?」「この証言にバイアスはないか?」
  2. 前提の疑い:
    • 「『昔からこのやり方だから正しい』というのは本当か?」
  3. 論理的推論:
    • 「Aが起きたからBになった」という因果関係は正しいか?(単なる相関関係ではないか?)

2. 問題解決能力のプロセス

複雑な問題に対処し、革新的な解決策を見出すための標準的なステップは以下の通りです。

ステップ①:問題の定義(Define the Problem)

  • 悪い例: 「売上が下がっている」
  • 良い例: 「主力商品Aの売上が、特定の地域でのみ、前年比20%減少している」
  • 問題を具体化することで、調査の焦点が絞られます。

ステップ②:根本原因の分析(Root Cause Analysis)

  • 手法: 「なぜなぜ分析(5 Whys)」や「フィッシュボーン・ダイアグラム(特性要因図)」を活用します。
  • 目的: 「担当者のミス(直接原因)」ではなく、「トレーニング不足やシステムの欠陥(根本原因)」を突き止めます。

ステップ③:解決策の創出と評価(Solution)

  • 革新的な解決策: 既存の枠にとらわれないアイデアを出します(例:手作業のチェックを増やすのではなく、AIによる自動検知を導入する)。
  • 評価基準: コスト、実現可能性、リスク低減効果などを総合的に判断します。

3. プロフェッショナル・スケプティシズム(職業的懐疑心)

批判的思考の中核となる概念です。 「相手を嘘つきだとは思わないが、正直者だとも決めつけない」という姿勢です。

常に「もし間違っていたら? もし不正があったら?」という健全な疑いを持って証拠を評価します。

4. 試験で問われる思考の「深さ」

試験では、「表面的な対応」と「根本的な対応」を区別させる問題が出ます。

  • 表面的: エラーを修正する、担当者を注意する。
  • 根本的(革新的): エラーが起きないプロセスに再設計する、システムを改修する。

内部監査人が目指すべきは、もちろん後者です。

まとめ

セクションB-4-bのポイントは、「思考停止からの脱却」です。

  • 「前例通り」「マニュアル通り」にやるだけでは、複雑な現代のリスクには対応できません。
  • 「So What?(だから何?)」と「Why?(なぜ?)」を繰り返すことで、本質的な価値を提供する監査人になることができます。

【練習問題】パート1 セクションB-4-b

Q1. 内部監査人が、経費精算プロセスにおいて同じような入力ミスが頻発していることを発見した。担当者は「忙しくて確認がおろそかになった」と説明している。批判的思考(クリティカル・シンキング)と根本原因分析を適用した監査人の次のアクションとして、最も適切なものはどれか。

A. 担当者の説明を受け入れ、注意喚起のメールを全社に送信して監査を終了する。

B. 担当者の怠慢が原因であると断定し、人事部に懲戒処分を勧告する。

C. 「なぜ忙しいのか?」「なぜシステムはミスを検知しなかったのか?」と問いを深め、業務量の偏りやシステムの入力チェック機能(バリデーション)の不備がないか調査する。

D. ミスをした担当者全員に誓約書を書かせ、再発防止を約束させる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 批判的思考とは、提示された説明(忙しさ)を鵜呑みにせず、その背後にある真の原因を探ることです。個人の資質に帰結させるのではなく、システムやプロセスの欠陥(根本原因)を特定することで、革新的で永続的な解決策(システム改修など)につなげることができます。

不正解(A)、(D): 注意喚起や精神論では、根本的な解決になりません。

不正解(B): 原因分析が不十分なまま個人を罰することは、問題の再発を防げないばかりか、組織文化を悪化させます。


Q2. 内部監査部門長(CAE)は、監査スタッフに対し「職業的懐疑心(Professional Skepticism)」を持って業務にあたるよう指導している。この態度の説明として最も適切なものはどれか。

A. 経営陣や被監査部門の説明はすべて嘘であると仮定し、不正の証拠が見つかるまで徹底的に調査すること。

B. 経営陣は誠実であると信じ、提供された情報を疑うことなく受け入れること。

C. 経営陣が不誠実であるとも、誠実であるとも決めつけず、常に「情報は誤っている可能性がある」という意識を持って、証拠を批判的に評価すること。

D. 監査人の直感を最優先し、証拠がなくても自分の感覚に従って結論を下すこと。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 職業的懐疑心とは、相手を疑うこと(A)でも、盲信すること(B)でもありません。中立的な立場を保ちつつ、提示された情報の信頼性を常に検証し続ける「質問する精神(Questioning Mind)」のことです。

不正解(A): 初めから嘘つき扱いすることは客観性を欠き、信頼関係を損ないます。

不正解(B): 盲信は監査の失敗(リスクの見落とし)につながります。

不正解(D): 監査は直感ではなく「証拠」に基づくべきです。


Q3. 複雑なサプライチェーンの問題に対処するため、内部監査人が革新的な解決策を見出すプロセスにおいて、最初に行うべきステップはどれか。

A. すぐに思いついた解決策を実行に移す。

B. 問題の範囲と性質を明確に定義し、現状(As-Is)を正確に把握する。

C. 過去の監査報告書をコピーして、同じ提言を行う。

D. 外部コンサルタントに丸投げする。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 問題解決の第一歩は「問題の定義(Definition)」です。何が問題で、どこで起きているかを正確に特定せずに解決策を考えても、的外れな結果になります。現状把握と定義が、その後の原因分析と解決策立案の土台となります。

不正解(A): 分析なしの行動はリスクが高いです。

不正解(C): 過去のコピーは「革新的な解決策」とは言えません。

不正解(D): 外部の知見は有用ですが、まずは自ら問題を理解する必要があります。