テーマ:「草むしり」の極意 ~根っこから抜かなければ意味がない~

セクションD-3-cは、内部監査の品質を決定づける最も重要なスキルの一つ、「根本原因分析(Root Cause Analysis)」と、それに基づく「改善計画の評価」です。

発見事項(Findings)に対して、経営管理者が「直します」と改善計画を持ってきたとき、監査人はハンコを押すだけの係ではありません。 「その計画で、本当に再発を防げるのか?」 この問いに答えるためには、現象(症状)と原因(病巣)を区別する眼力が必要です。

GIAS(グローバル内部監査基準)では、表面的な修正ではなく、根本原因に対処することで初めて「価値」が付加されると強調しています。


1. 導入:「症状」と「根本原因」の違い

監査人が発見事項を報告すると、経営管理者はしばしば「応急処置」を提案してきます。しかし、監査人が求めているのは「根治治療」です。

  • 症状(Symptom): 表面に見えている問題(例:床が水浸しである)。
  • 直接原因(Direct Cause): 症状を引き起こした直接のきっかけ(例:誰かが水をこぼした)。
  • 根本原因(Root Cause): その事象が発生することを許してしまった、プロセスの欠陥(例:そもそも水汲み場の蛇口が壊れやすい構造だった)。

★ポイント: 床を拭くこと(是正措置)は必要ですが、それだけでは明日もまた水浸しになります。蛇口を修理すること(根本原因への対処)が、監査人が承認すべき「改善措置の計画」です。

2. 「なぜ(Why)」を5回繰り返す

根本原因にたどり着くための有名な手法が「Why 5(なぜなぜ分析)」です。 試験では、監査人が提示された改善計画が「浅すぎる(根本原因に届いていない)」ことを見抜く力が問われます。

例: 経費精算の入力ミスが多発している。

なぜ? → 担当者が間違ったコードを入力したから。

なぜ? → コード一覧表が古く、見づらいから。

なぜ? → コード更新が手動で、システムと連携していないから。
(ここが根本原因!)

ダメな改善計画: 「担当者に気をつけるよう指導する(精神論)」 良い改善計画: 「経費精算システムを改修し、コードをプルダウン選択式にする(システム的解決)」

3. 改善措置の計画を評価する基準

経営管理者が提出した「改善措置の計画(Action Plans)」を監査人がレビューする際、以下のチェックリストを用います。

  1. 論理性(Logic): そのアクションを行えば、論理的にリスクが消滅、または低減するか?
  2. 根本的解決(Root Cause): 「人の注意不足」を原因として片付けていないか?(ヒューマンエラーは結果であって原因ではありません)。
  3. 実行可能性(Feasibility): 期限やリソースは現実的か?
  4. 持続可能性(Sustainability): 担当者が変わっても、そのコントロールは機能し続けるか?

4. よくある「不適切な計画」のパターン

試験でよく出る「不合格な改善計画」の例です。これらが選択肢にあったら、監査人は「不十分である」と判断し、計画の修正を求める必要があります。

  • 「担当者を再教育・再訓練する」
    • 教育は重要ですが、プロセス自体が複雑すぎる場合、教育だけでは再発を防げません。
  • 「担当者を懲戒処分にする/異動させる」
    • 「個人の資質」に帰結させるのは、多くの場合、管理体制の欠陥から目を背けることです(トカゲの尻尾切り)。
  • 「ダブルチェックを徹底するよう通達を出す」
    • 「通達」は時間の経過とともに風化します。システム的な強制力(Check function)が必要です。

5. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「監査人は根本原因を特定するために、改善措置の計画を自ら作成し、経営管理者に実行させるべきである」
    • 解説: 何度も出てきますが、計画を作るのは「経営管理者」です。監査人は「原因の分析」を支援し、「計画の有効性」を評価する立場です。
  2. ×「発見事項が軽微な場合、根本原因の分析を行う必要はない」
    • 解説: 確かにコスト対効果は考慮しますが、軽微なミスが実は氷山の一角(システム全体の不備)であることもあります。安易に分析を省略すべきではありません。
  3. ×「経営管理者が『今後は注意する』と約束した場合、監査人は信頼関係を維持するためにそれを受け入れるべきである」
    • 解説: 「精神論」はコントロールではありません。具体的なプロセス変更やガードレールの設置を求めるべきです。

まとめ

セクションD-3-cのポイントは、「再発防止の保証」です。

  • If 改善計画が「モグラ叩き(その場の修正)」になっている
  • Then 監査人は「これではまた同じことが起きます」と指摘し、プロセスの見直し(根本治療)を要請しなければならない。

監査人は、経営管理者が見落としがちな「システムとしての欠陥」に光を当てる役割を担っています。


【練習問題】パート3 セクションD-3-c

Q1. 内部監査人は、工場の在庫データと実在庫に差異があることを発見した。原因を調査したところ、特定の倉庫担当者が入庫入力を忘れる頻度が高いことが判明した。工場長は改善措置の計画として「当該担当者に対し、入力漏れがないよう厳重注意を行い、始末書を提出させる」ことを提案した。この計画に対する監査人の評価として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。

A. 担当者の責任を明確にしており、規律を正すための強力な措置であるため、計画を承認する。

B. ヒューマンエラーを個人の不注意のみに帰結させており、なぜ入力忘れが起きやすいのかという「プロセスの根本原因」に対処していないため、不十分であると判断する。

C. 始末書の提出は法的な証拠能力を持つため、将来の不正防止に役立つ優れたコントロールである。

D. 担当者を配置転換しない限りリスクは解消されないため、人事異動を含めるよう修正を求める。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 「厳重注意」や「個人の処罰」は、一時的な効果しかなく、根本的な解決策(プロセス改善)ではありません。監査人は、なぜ入力忘れが発生するのか(例:入力端末が遠い、画面が複雑、作業量が多すぎる等)を分析し、システムや手順の変更によってミスを防ぐ計画を求めるべきです。

不正解(A): 精神論や懲罰は持続可能なコントロールではありません。

不正解(C): 始末書は事後対応であり、予防的コントロールとして機能しません。

不正解(D): 人を変えても、プロセスが悪ければ同じミスが再発します。


Q2. 内部監査人は、ITシステムへのアクセス権限の棚卸が、規定通り四半期ごとに行われていないことを発見した。IT部長は「業務多忙で担当者が忘れていた」と説明し、改善措置として「カレンダーにリマインダーを設定し、確実に実施するよう担当者に指示した」と回答した。根本原因への対処という観点から、監査人が次に検討すべき事項はどれか。

A. リマインダーの設定方法がOutlookかGoogleカレンダーかを確認する。

B. 担当者がリマインダーを無視した場合の罰則規定を作成するよう指示する。

C. なぜ手動での棚卸に依存しているのか、棚卸プロセス自体を自動化または簡素化できないか(プロセスの実行可能性)を検討するよう促す。

D. 担当者の業務負荷を減らすために、アクセス権限の棚卸頻度を年1回に減らすよう規程の変更を提案する。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 「多忙で忘れた」という原因に対し、「思い出させる(リマインダー)」だけでは弱いです。根本原因は「手動プロセスが繁雑で負担になっていること」である可能性が高いです。したがって、監査人はプロセスの自動化や効率化といった、より確実で持続可能な解決策を検討するよう促すべきです。

不正解(A): ツールの種類は本質的ではありません。

不正解(B): 罰則による強制は、根本的な業務プロセスの改善にはなりません。

不正解(D): リスク評価に基づかずに頻度を減らすことは、コントロールの弱体化につながります。


Q3. 次の記述のうち、GIASにおける「改善措置の計画」と「根本原因」の関係について、最も適切に説明しているものはどれか。

A. 改善措置の計画は、発見された誤謬(エラー)の金額的影響を修正することを最優先とし、根本原因の究明は次回の監査まで先送りしてもよい。

B. 監査人は、経営管理者が策定した改善措置の計画が、発見事項の症状(Symptom)だけでなく、根本原因(Root Cause)を解消するように設計されているかを評価しなければならない。

C. 根本原因分析は時間がかかるため、重大な不正が疑われる場合にのみ実施し、通常の業務監査では行う必要はない。

D. 改善措置の計画が根本原因に対処しているかを判断するのは経営管理者の責任であり、内部監査人はその計画の進捗管理(モニタリング)のみを行う。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 監査人の重要な役割は、経営管理者が提案する計画が「対症療法」に留まっていないか確認することです。根本原因に対処していない計画は、リスクの再発を許すことになり、監査の価値を損ないます。

不正解(A): 修正(是正)も必要ですが、再発防止(根本治療)がなければリスクは残り続けます。

不正解(C): 根本原因分析は、規模の大小にかかわらず、効果的な改善提案を行うために不可欠なプロセスです。

不正解(D): 監査人は計画の策定には関与しませんが、計画の「妥当性の評価」を行う責任があります。