テーマ:「配達完了」だけでは終わらない ~相手を動かすコミュニケーション~

セクションD-1-cは、監査結果を「どう伝えるか」という手法(Methodology)と品質(Quality)に関する領域です。

内部監査にとって、監査報告書やプレゼンテーションは「製品」そのものです。しかし、どれほど素晴らしい発見事項(製品)であっても、顧客(経営陣や被監査部門)にその価値が伝わり、納得してもらえなければ、改善という「成果」にはつながりません。

GIAS(グローバル内部監査基準)では、コミュニケーションを単なる情報の伝達ではなく、「ステークホルダーとの信頼構築と改善行動を促すための手段」と位置づけています。


1. 導入:GIASが求める「7つの品質」

GIAS(および従来の基準)では、効果的なコミュニケーションには以下の特性(品質)が必要であるとされています。試験では、これらの定義と、欠けている状況を判別させる問題が出ます。

  1. 正確(Accurate): 誤りがなく、信頼できる証拠に基づいていること。
  2. 客観的(Objective): 公正かつ偏りがなく、事実に基づいていること(感情的でない)。
  3. 明瞭(Clear): 専門用語を避け、論理的でわかりやすいこと。
  4. 簡潔(Concise): 冗長さを避け、要点に絞っていること。
  5. 建設的(Constructive): 被監査部門の助けになり、改善につながる内容であること。
  6. 完全(Complete): 結論を導くために必要な情報がすべて含まれていること。
  7. 適時(Timely): 情報が有効に活用できるタイミングで伝えられること。

★ポイント: 「正確」であることは当然ですが、試験では特に「建設的(批判するだけでなく改善を促す)」と「適時(手遅れになる前に伝える)」の判断が問われやすい傾向にあります。

2. コミュニケーション手法の選択(「いつ」「どう」伝えるか)

「最終監査報告書(書面)」だけがコミュニケーションではありません。状況に応じて最適な手法(チャネル)を選択する能力が問われます。

A. 中間報告(Interim Reporting)

  • 目的: 重大なリスクや緊急性の高い問題が見つかった場合、監査の完了を待たずに即座に伝える。または、誤解を防ぐために事実確認を行う。
  • 形式: 口頭、メモ、メール、簡易レポートなど。
  • メリット: 被監査部門が監査期間中に是正措置を開始できる(試験でよく問われるメリット)。

B. 口頭での報告・プレゼンテーション

  • 目的: ニュアンスを伝え、質疑応答を通じて相互理解を深める。
  • 対象: 経営陣や取締役会など、多忙で要約を好む層への報告に有効。
  • 注意点: 重要な合意事項は、後で必ず文書化(記録)する必要がある。

C. 最終報告書(Final Engagement Communication)

  • 目的: 監査の結論、発見事項、推奨事項、行動計画を公式に記録する。
  • 構成: エグゼクティブサマリー(経営陣向け)と詳細(担当者向け)に分ける工夫が必要。

3. 「誰に」伝えるかによるカスタマイズ

効果的なコミュニケーションとは、相手(読み手)に合わせることです。

対象者関心事項推奨される手法
取締役会・上級経営陣全社的リスク、戦略への影響、結論の要約エグゼクティブサマリー、視覚的なダッシュボード、簡潔なプレゼン。詳細な手続きの記述は不要。
被監査部門の管理職具体的な問題点、原因、解決策、業務への影響詳細な報告書、具体的な改善手順の協議。
実務担当者個別のトランザクションの誤り、修正方法具体的な証拠リスト、現場レベルでの口頭指導。

イメージ:
お医者さんが患者(一般人)に説明する時、専門用語だらけのカルテを見せるのではなく、「ここが悪いので、この薬を飲みましょう」と分かりやすく伝えますよね? 監査人も同じで、「専門用語(監査ジャーゴン)」を「ビジネス用語」に翻訳するスキルが必要です。

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「監査報告書には、監査人が行ったすべての手続きと詳細なテスト結果を記載しなければならない」
    • 解説: 間違いです。「完全性」とは「必要な情報が揃っている」ことであり、「全てを書く」ことではありません。過度な詳細は「簡潔性」や「明瞭性」を損ないます。
  2. ×「重大な不正の兆候を見つけたが、情報の正確性を期すために、監査終了後の最終報告書まで報告を控えた」
    • 解説: 「適時性」の欠如です。緊急性の高い事項は、不確定であっても、適切なレベルの経営陣に速やかに(中間報告として)伝えるべきです。
  3. ×「コミュニケーションは常に書面で行わなければならない」
    • 解説: 最終的な記録は書面が望ましいですが、プロセスの中での口頭報告や、迅速なチャットツールなどの活用も、状況によっては「効果的な手法」に含まれます。

まとめ

セクションD-1-cのポイントは、「情報の受け手が、内容を理解し、アクションを起こせる状態にする」ことです。

  • 相手に合わせた「翻訳(明瞭性)」
  • 相手の時間に配慮した「要約(簡潔性)」
  • リスクへの対応を遅らせない「スピード(適時性)」
  • 相手の改善意欲を引き出す「ポジティブさ(建設性)」

これらを組み合わせ、最適なツール(書面、口頭、中間報告など)を選ぶ判断力が試されます。


【練習問題】パート3 セクションD-1-c

Q1. 内部監査人が、専門性の高いITセキュリティ監査の結果を取締役会に報告しようとしている。取締役会のメンバーの多くはITの専門知識を持っていない。GIASのコミュニケーション基準に照らし、最も適切な報告手法はどれか。

A. 正確性を期すため、IT部門長向けの技術的な詳細レポートをそのまま取締役会に配布し、用語集を添付する。

B. 監査で発見されたすべての不備をリスト化し、発生頻度の高い順に並べて、網羅的に説明する。

C. 技術的な詳細を省き、リスクがビジネス目標や財務に与える影響に焦点を当てたエグゼクティブサマリーを作成して報告する。

D. 誤解を招く恐れがあるため、取締役会への報告は行わず、IT部門長への口頭報告のみで済ませる。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 効果的なコミュニケーションの属性である「明瞭性(Clarity)」と「簡潔性(Concise)」、および対象者に合わせたカスタマイズに関する問題です。取締役会(上級ステークホルダー)にとって重要なのは、技術的な詳細ではなく「ビジネスへの影響」です。

不正解(A): 専門用語の多いレポートは、非専門家である取締役会にとって明瞭性を欠き、理解を妨げます。

不正解(B): 「完全性」を履き違えています。重要性の低い事項まで網羅することは、重要なメッセージを埋没させ、「簡潔性」を損ないます。

不正解(D): 取締役会への報告義務(説明責任)を果たしていないため、不適切です。


Q2. 監査業務の実施中、内部監査人は被監査部門のキャッシュフローに深刻な影響を与えかねない重大なコントロールの欠陥を発見した。監査の完了まではあと3週間かかる予定である。この状況におけるコミュニケーション手法として、最も適切なものはどれか。

A. 監査証拠を完全に揃えるため、3週間後の最終報告書の発行を待ってから、欠陥と推奨事項を報告する。

B. 発見事項について、即座に「中間報告(Interim Report)」を行い、経営陣が直ちに是正措置を検討できるようにする。

C. 次回の定例監査委員会まで待ち、そこで議題として取り上げることで、取締役会の関心を高める。

D. 監査業務の範囲外の影響については言及せず、当初の計画通りのスケジュールで監査を進める。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): 「適時性(Timely)」に関する問題です。重大なリスクや緊急性の高い問題については、最終報告を待たずに中間報告を行うのがベストプラクティスです。これにより、組織は損失の拡大を防ぐためのアクションを早期に起こすことができます。

不正解(A): 正確性や完全性を重視するあまり、適時性を犠牲にしています。3週間の遅れが致命傷になる可能性があります。

不正解(C): 定例会まで待つことは適時性を欠いており、リスク管理として不適切です。

不正解(D): 重大なリスクを無視することは、内部監査人の職責放棄にあたります。


Q3. 内部監査報告書の草案を作成する際、監査人は被監査部門の担当者から「発見事項の記述が厳しすぎて、まるで私たちが無能であるかのように読める。表現を和らげてほしい」というフィードバックを受けた。監査人は事実関係に誤りがないことを確認している。GIASの「建設的(Constructive)」なコミュニケーションの観点から、監査人がとるべき行動として最も適切なものはどれか。

A. 事実に誤りがない以上、独立性を保つために表現の変更は一切行わず、そのまま発行する。

B. 担当者の機嫌を損ねると改善が進まないため、発見事項自体を削除または重要度を下げて報告する。

C. 事実は維持しつつ、個人を責めるようなトーンを避け、プロセスやコントロールの改善に焦点を当てた表現に修正する。

D. 担当者の意見をそのまま反映させ、担当者が作成した文章に差し替える。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 「客観性(Objective)」と「建設性(Constructive)」のバランスに関する問題です。監査報告の目的は、個人を糾弾することではなく、組織の改善を促すことです。事実は曲げずに、攻撃的なトーン(Blame culture)を排除し、プロセス改善へ目を向けさせる表現に修正することは、効果的なコミュニケーション手法です。

不正解(A): 独立性は重要ですが、相手を防御的にさせ、改善への協力を阻害するような表現は「建設的」ではありません。

不正解(B): 事実を隠蔽・歪曲することは「客観性」と「誠実性」の違反となります。

不正解(D): 監査人の判断と客観性が失われるため、不適切です。