テーマ:数字の向こう側を読む ~KPIを診断ツールとして使う~

セクションC-3-dは、設定されたKPI(重要業績評価指標)の数値をただ眺めるだけでなく、それらを「財務」「業務」「品質」「生産性」「効率性」「有効性」といったカテゴリーに分類し、分析することで内部監査部門の健康状態を診断する能力を問うセクションです。

試験では、具体的なKPIの数値や傾向から、「何が問題なのか?」「どこを改善すべきか?」を読み解く分析力が求められます。


1. KPIの6つの主要カテゴリー

CAE(内部監査部門長)は、以下の切り口でKPIを整理・分析する必要があります。

カテゴリー問いかけ(Key Question)分析の視点(例)
① 財務(Financial)「予算内で運営できているか?」・予算対実績の差異分析
・外部監査費用の削減効果
② 業務(Operational)「プロセスは順調か?」・監査計画の進捗率
・リソース(人員)の稼働状況
③ 品質(Quality)「基準を守れているか?」・QAIP(品質評価)の結果
・調書レビューでの指摘数・監査人資格保有率
④ 生産性(Productivity)「無駄なく働いているか?」・監査人1人あたりの完了件数
・直接業務(監査実務)と間接業務(会議等)の比率
⑤ 効率性(Efficiency)「スピードとコストは適正か?」・監査サイクルタイム
(着手から報告までの日数)
・1件あたりの監査コスト
⑥ 有効性(Effectiveness)「組織に貢献しているか?」・推奨事項の実施率(完了率)
・ステークホルダー満足度
・経営陣からのリクエスト対応数

2. トレードオフの分析(重要!)

KPI分析で最も重要なのは、「あちらを立てればこちらが立たず(トレードオフ)」の関係を見抜くことです。

  • 「生産性(件数)」が向上したが、「品質(満足度)」が低下している場合: → 「質を犠牲にして数をこなしているのではないか?」という仮説が立ちます。
  • 「効率性(コスト)」が改善したが、「有効性(実施率)」が低下している場合: → 「安く早くやったが、誰の役にも立っていないのではないか?」という懸念が生じます。

試験対策: 「ある指標が良くなったからOK」ではなく、「他の指標に悪影響が出ていないか?」という全体最適の視点を持ってください。

3. 原因分析(Root Cause Analysis)

KPIが目標未達だった場合、その原因を深掘りします。

サイクルタイム(効率性)が悪化した原因は?

  • 被監査部門からの資料提出が遅いから?(協力不足)
  • 監査人のスキル不足で時間がかかったから?(能力不足)
  • 承認プロセスが複雑すぎるから?(プロセス不備)

原因によって、打つべき対策(コミュニケーション改善、トレーニング、プロセス簡素化)が変わります。

4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント

  1. ×「生産性のKPI(件数など)が目標を上回っていれば、内部監査部門は成功していると言える」
    • 解説: 不十分です。「有効性(価値)」が伴っていなければ、ただの作業です。バランスよく評価する必要があります。
  2. ×「財務KPI(予算遵守)は、他のすべてのKPIよりも優先されるべきである」
    • 解説: 予算は重要ですが、最優先ではありません。予算を守るために重要なリスクを見過ごす(有効性の低下)ことは本末転倒です。
  3. ×「推奨事項の実施率(有効性)が低いのは、常に被監査部門の責任である」
    • 解説: 違います。監査人の提案内容が非現実的だったり、説得力が不足していたりする可能性もあります。自責の視点での分析が必要です。

まとめ

セクションC-3-dのポイントは、「多角的な診断」です。

  • Categorize: 指標を分類する。
  • Correlate: 指標同士の関係性(トレードオフ)を見る。
  • Diagnose: 根本原因を突き止める。

KPIはダッシュボードの計器類です。CAEはパイロットとして、速度計(効率)だけでなく、高度計(品質)や燃料計(財務)を同時に見て、安全に目的地(有効性)へ向かう操縦技術が求められます。


【練習問題】パート3 セクションC-3-d

Q1. 内部監査部門長(CAE)がKPIを分析したところ、「監査計画の完了率(業務)」と「監査報告書の発行数(生産性)」は目標を大幅に上回っていたが、「被監査部門からの満足度スコア(品質・有効性)」は過去最低を記録し、「推奨事項の実施率(有効性)」も低下していた。この状況から推測される最も可能性の高い原因はどれか。

A. 監査チームのスキルが向上し、効率的に監査を行えるようになったため、被監査部門がそのスピードについていけず不満を持っている。

B. 監査チームが「数」や「スピード」の目標達成を優先するあまり、監査の質を犠牲にし、被監査部門との十分な対話や合意形成を行わずに一方的な報告書を発行している。

C. 被監査部門のリスク意識が低く、内部監査の価値を理解していないため、どのような高品質な監査を行っても満足度が上がらない。

D. 監査計画の目標値が低すぎたため、簡単に達成できてしまい、スタッフが慢心している。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(B): これは典型的な「効率性と有効性のトレードオフ」の事例です。量(生産性)を追求しすぎて質(対話・納得感)がおろそかになり、結果として満足度や推奨事項の実施率(有効性)が低下している可能性が高いです。

不正解(A): スキル向上は通常、質の向上にもつながるはずであり、満足度低下の主因とは考えにくいです。

不正解(C): 常に相手のせいにするのは分析として不十分です。

不正解(D): 満足度の低下を説明できていません。


Q2. 内部監査のKPIカテゴリーのうち、「有効性(Effectiveness)」を測定する指標として、最も適切なものはどれか。

A. 監査実務に費やされた時間と、管理業務に費やされた時間の比率。

B. 内部監査部門の年間予算に対する実際の支出額の差異。

C. 監査報告書で指摘されたリスクが、経営陣によって適切に軽減・管理された割合(推奨事項の完了率)。

D. 内部監査スタッフ1人あたりの年間研修受講時間。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 「有効性」とは、意図した結果(組織の価値向上、リスク低減)を達成できたかを測るものです。推奨事項が実施され、リスクが軽減されたことは、内部監査が有効に機能した証拠です。

不正解(A): これは「生産性」または「効率性」の指標です。

不正解(B): これは「財務」の指標です。

不正解(D): これは「品質(人材・学習)」または将来の能力(Capability)の指標です。


Q3. 内部監査部門の「効率性(Efficiency)」を改善するためにKPI分析を行った結果、監査の「サイクルタイム(実査終了から最終報告書発行までの日数)」が目標値より大幅に長いことが判明した。この問題を解決するためのアクションとして、最も適切でない(避けるべき)ものはどれか。

A. 報告書のレビュープロセスを見直し、承認階層を減らしてボトルネックを解消する。

B. 監査報告書のフォーマットを簡素化し、重要なリスクと推奨事項に焦点を絞った構成に変更する。

C. サイクルタイムを短縮するために、被監査部門とのドラフト(草案)段階での協議を省略し、いきなり最終版を発行する。

D. 監査支援ツール(監査管理ソフト)を導入し、調書作成とレビューのデジタル化・自動化を進める。

【解答・解説】

正解と解説を表示

正解(C): 効率性を追求するあまり、必要なプロセス(被監査部門との協議)を省略することは、事実誤認のリスクを高め、関係性を悪化させるため「避けるべき」行為です。これは効率化ではなく、品質の切り捨てです。

不正解(A): プロセスのスリム化は正当な効率化手法です。

不正解(B): 報告書の簡素化・重点化は推奨される効率化手法です。

不正解(D): テクノロジー活用は有効な効率化手段です。