【CIA試験講義】パート2 セクションB-7-b: 完全かつ十分な証拠が含まれている監査調書の要素
テーマ:「証拠」が語るストーリー ~監査調書の必須DNA~
前回のセクション(B-7-a)では、監査調書をどう整理するか(外箱の話)を学びました。 今回のセクションB-7-bは、その中身、つまり「一枚の調書の中に、何が書かれていれば『証拠』として認められるのか?」という構成要素(中身の話)に焦点を当てます。
試験では、不完全な調書を見抜き、「何が足りないか」を指摘する能力が問われます。
1. 鉄則:「書いてなければ、やっていないのと同じ」
内部監査の世界には、耳の痛い格言があります。
“If it isn’t documented, it isn’t done.”(文書化されていなければ、実施しなかったとみなされる)
監査人がどれだけ素晴らしい発見をしても、それを支える調書に必須要素が欠けていれば、その結論は「個人の感想」として処理され、証拠能力を失います。
2. 監査調書の「解剖図」(5つの必須要素)
「完全かつ十分な証拠」を含む調書には、必ず以下の5つの要素が含まれています。これを「監査調書のDNA」として記憶してください。
① ヘッダー情報(識別情報)
- 内容: 監査テーマ名、作成日、作成者名、レビュー者名、ページ番号(インデックス)。
- 目的: 「いつ、誰が、何の仕事をしたか」を特定するため。
② 目的(Objective)
- 内容: 「なぜこのテストを行ったのか?」
- 例: 「202X年度の旅費精算が、社内規定通りに承認されているかを確認するため」
- 重要性: 目的がない作業は、単なる時間の浪費です。
③ 範囲と手順(Scope & Procedures / Methodology)
- 内容: 「どのデータを、どうやって調べたか?」
- 基準: 「再現可能性(Re-performance)」が鍵です。第三者がこの記述を読んで、全く同じ手順で同じテストを再現できるレベルで書く必要があります。
- ダメな例: 「請求書をチェックした」
- 良い例: 「202X年4月1日から3月31日までの全請求書母集団から、ランダムサンプリングにより30件を抽出し、経理部長の承認印の有無を目視確認した」
④ 結果/事実の要約(Results / Observations)
- 内容: 「何が見つかったか?」(具体的な数値や事実)
- 例: 「30件中29件は承認印があったが、1件(No.123)は承認印が漏れていた」
⑤ 結論(Conclusion)
- 内容: 「結果に基づき、どう判断したか?」
- 例: 「1件の例外はあるものの、重要性は低く、全体として承認プロセスは有効に機能していると判断する」
- 重要性: 結果(事実)と結論(判断)は明確に区別します。
3. 「良い証拠」の3条件(GIASの基準)
調書に含まれる情報が「証拠」として認められるためには、以下の質的要件を満たす必要があります。
- 関連性(Relevant): 監査目的と論理的に結びついているか。
- (売上の実在性を確かめるのに、見積書を見ても意味がない。出荷伝票を見るべき。)
- 信頼性(Reliable): 情報源が確かか。
- 最高: 監査人が直接入手・観察したもの、外部から直接入手したもの。
- 中: 内部統制が効いているシステムからの出力。
- 低: 口頭での回答、コピー資料。
- 十分性(Sufficient): 結論を支えるのに「量」が足りているか。
- 誰が見ても「なるほど、それならそう言えるね」と納得できるだけのサンプル数や裏付けがあること。
4. 試験で狙われる「ひっかけ」ポイント
- ×「口頭での回答は証拠にならないため、調書に記録する必要はない」
- 解説: 間違いです。口頭証拠(証言)は信頼性は低いですが、立派な証拠です。ただし、そのまま記憶に留めるのではなく、「〇月〇日、担当者A氏へのインタビュー記録」として文書化(メモ化)することで初めて調書の一部となります。
- ×「調書には、実施したすべての思考過程を長文で記述しなければならない」
- 解説: 違います。必要なのは「結論に至る論理的根拠」です。迷った過程や無関係な試行錯誤をすべて書く必要はありません(簡潔性の原則)。
- ×「前任者が作成した調書をコピーして使い回してもよい」
- 解説: 形式(テンプレート)は使い回せますが、中身(実施日、サンプル、結果)は今回の監査に合わせて完全に書き直さなければなりません。「前回異常なし」というコピーペーストは、監査の怠慢(不十分な証拠)の典型です。
まとめ
セクションB-7-bのポイントは、「再現性(Re-performance)」です。
- If あなたの調書を見た他人が、同じテストをして同じ結果を出せるなら、
- Then その調書は「完全かつ十分」な要素を備えています。
監査調書は、監査人の「潔白(ちゃんと仕事をしたこと)」を証明する唯一の盾でもあります。
【練習問題】パート2 セクションB-7-b
Q1. 内部監査人は、ある監査手続の結果として「在庫管理プロセスは適切である」という結論を調書に記載した。しかし、レビューを行った上席監査人は、この調書は不完全であるとして差し戻した。調書には「目的」「範囲」「結論」は記載されていた。不足している可能性が最も高い要素はどれか。
A. 監査対象部門の責任者の署名
B. 将来の改善に向けた具体的な推奨事項
C. 結論に至る根拠となった具体的なテスト手順と発見された事実(結果)
D. 監査計画書全体のコピー
【解答・解説】
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正解(C): 監査調書の核心は「なぜその結論になったのか」を支える証拠です。どのようなテストを行い(手順)、どのようなデータを得たか(結果)が抜けていると、結論は単なる「意見」に過ぎず、証拠能力を持ちません。
不正解(A): 責任者の署名は監査調書の必須要件ではありません。
不正解(B): プロセスが適切であるという結論であれば、改善推奨事項は必須ではありません。
不正解(D): 計画書全体を個々の調書に添付する必要はありません(参照だけで十分です)。
Q2. 監査調書に含まれる「証拠」の信頼性を評価する際、最も信頼性が高い(強い証拠能力を持つ)とされるものはどれか。
A. 被監査部門の担当者が作成し、提供してくれた売上集計表(Excelデータ)
B. 内部監査人が在庫保管場所に行き、自ら現物を数えて確認した実査記録
C. 経理担当者へのインタビューに基づき、監査人が作成した聞き取りメモ
D. 被監査部門の業務マニュアルのコピー
【解答・解説】
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正解(B): 証拠の信頼性は「入手経路」で決まります。監査人が「直接」観察・測定・入手した証拠が最も信頼性が高いとされます(直接知覚の原則)。
不正解(A): 内部で作成されたデータは、改ざんの可能性があるため、監査人の直接証拠より劣ります。
不正解(C): 口頭証拠(証言)は、勘違いや虚偽の可能性があるため、証拠としては最も弱いです。
不正解(D): マニュアルは「あるべき姿」を示していますが、実際に業務が行われた証拠ではありません。
Q3. 内部監査人が監査調書を作成する際、実施したテストの「手順(Procedures)」を詳細に記述しなければならない主な理由は何か。
A. 監査にかかった時間を証明し、予算管理を行うため。
B. 外部監査人が内部監査人の調書を利用する際に、追加の料金を請求できるようにするため。
C. その監査に関与していない第三者(熟練した監査人)が、同じ手順を再実施(Re-performance)して同じ結論に到達できることを保証するため。
D. 監査報告書にすべての手順を転記して、ページ数を増やすため。
【解答・解説】
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正解(C): これが「再現可能性」の要件です。監査調書は、科学実験のレポートと同じく、「誰がやっても同じ結果になる」ことが検証できる状態(客観性)でなければなりません。そのためには、具体的な手順(サンプリング方法や抽出条件など)の記載が不可欠です。
不正解(A・B): これらは管理上の副次的な目的であり、調書作成の本質的な目的ではありません。
不正解(D): 報告書には通常、詳細な手順は記載せず、要約のみを載せます。
