【CIA試験講義】パート2 セクションB-2-a: 証拠の品質評価
テーマ:裁判官を納得させる「証拠」とは? ~関連性・信頼性・十分性の黄金律~
内部監査人が現場で行う作業のゴールは、「結論(意見)」を出すことです。しかし、その結論がただの「感想」であってはいけません。 結論を支えるには、誰もが納得する「事実(Fact)」が必要です。この事実のことを監査用語で「監査証拠(Audit Evidence)」と呼びます。
GIAS(グローバル内部監査基準)においても、監査人は「十分かつ信頼できる関連性のある情報」を収集・分析しなければならないとされています。
試験では、目の前にある資料や情報が、監査の結論を支えるのに「適しているか?」を判断する能力が問われます。
1. 証拠の「3つの品質基準」
監査証拠が良いものかどうかを判断するために、必ず覚えなければならない3つのキーワードがあります。これを「証拠の3要件」と呼びます。
| 基準 | 定義 | イメージ(料理に例えると) |
|---|---|---|
| 関連性 (Relevance) | その証拠は、監査目標(確認したいこと)と論理的に結びついているか? | カレーを作りたいのに「イチゴ」を用意していないか?(材料として合っているか) |
| 信頼性 (Reliability) | その証拠は、事実として信用できるか? 出所や入手方法は適切か? | その野菜は腐っていないか? 産地偽装されていないか?(品質は確かか) |
| 十分性 (Sufficiency) | その証拠の量は、結論を裏付けるのに足りているか? | 味見をするのに一滴で足りるか、それとも小皿一杯必要か?(量は足りているか) |
★試験のポイント: これらは独立した概念ですが、相互に影響し合います。例えば、「信頼性」が非常に高い証拠であれば、量は少なくて済む(「十分性」が満たされやすくなる)場合があります。
2. 「信頼性」のヒエラルキー(序列)
試験で最も頻出するのが、「どっちの証拠の方が信頼性が高いか?」という比較問題です。 以下の「信頼性の序列ルール」を頭に叩き込んでください。
ルール①:第三者 > 内部者
組織の内部で作られた資料よりも、外部の独立した第三者から入手した証拠の方が信頼性が高いです。
- 例:経理部長が作った銀行残高表 < 銀行から直接取り寄せた残高証明書
ルール②:内部統制が強い > 弱い
内部統制(チェック体制)がしっかりしている環境で作られたデータは、統制がボロボロの環境で作られたデータよりも信頼できます。
ルール③:直接知見 > 間接的情報
監査人が自分の目と耳で直接確かめたことは、人から聞いた話よりも信頼できます。
- 例:在庫があるという担当者の説明 < 監査人が倉庫に行って現物を数える(実査)
ルール④:文書 > 口頭
口頭での説明よりも、文書化(紙や電子データ)されたものの方が信頼できます。
ルール⑤:原本 > コピー
コピーやFAXよりも、原本(オリジナル)の方が信頼性が高いです。
3. 「関連性」の落とし穴
「関連性」とは、「目的と手段の整合性」です。 試験では、「信頼性は高いが、関連性がない証拠」を選ばせるひっかけ問題が出ます。
ケーススタディ:
監査目標が「売掛金が実在するか(架空計上されていないか)」を確認することだとします。× 受注票を確認する: 受注したからといって、売上が立ったとは限りません。(関連性が低い)
○ 請求書と入金記録を確認する: 請求し、実際にお金が入ってきているなら、実在性は高いと言えます。(関連性が高い)
どんなに立派な「社長の承認印(信頼性◎)」があっても、それが監査の目的に関係ない書類であれば、証拠としての価値はゼロです。
4. 「十分性」と「慎重な人」の基準
「十分性」とは、「すべての証拠を集めること」ではありません。そんなことをしていたら監査が終わりません。
GIASでは、十分性の判断基準として「慎重な人(Prudent Person)」という概念を用います。 「普通に注意深い人(慎重な専門家)が見て、同じ結論に達する程度の量があるか?」が基準です。
- 完全な確証(Absolute assurance): 内部監査では求められません(不可能です)。
- 合理的な確証(Reasonable assurance): これがゴールです。
まとめ
セクションB-2-aの攻略法は、以下のフィルターを通して問題を解くことです。
- 目的は何か?(関連性チェック)
- 出所はどこか?(信頼性チェック:外部か内部か、直接か間接か)
- 説得力はあるか?(十分性チェック:慎重な人を納得させられるか)
監査人は、集めた証拠という「レンガ」を積み上げて、監査報告書という「家」を建てます。レンガの質(信頼性)と種類(関連性)と数(十分性)を吟味することが、崩れない家(正しい監査報告)を作る第一歩です。
【練習問題】パート2 セクションB-2-a
Q1. 内部監査人は、組織が保有する高額な製造装置の「実在性」を確認するために監査手続を実施している。以下の証拠のうち、最も信頼性が高いものはどれか。
A. 固定資産管理台帳に記載されている製造番号と設置場所の記録。
B. 製造部門の責任者が作成し、署名した四半期ごとの設備棚卸報告書。
C. 機器メーカーから送付された、当該装置の購入時の請求書と納品書の原本。
D. 内部監査人が工場の現場に赴き、当該装置の製造番号を自ら確認し、写真撮影したもの。
【解答・解説】
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正解(D): 証拠の信頼性の序列において、「監査人の直接的な個人的知見(観察・実査)」は、文書や口頭証拠よりも高い信頼性を持ちます。
不正解(A): 台帳(内部文書)は、実在していることを証明するものではなく、「あるはず」という記録に過ぎません。
不正解(B): 責任者の報告書は内部生成証拠であり、かつ監査人以外の第三者を介しているため、監査人の直接観察より信頼性は劣ります。
不正解(C): 請求書や納品書は「過去に購入した事実」を証明するには高い信頼性(外部証拠・原本)がありますが、現在その装置がそこに「実在するか」を証明する点では、現物確認に劣ります。
Q2. 購買プロセスの監査において、監査人は「物品の受領前に支払が行われていないこと(期間帰属の適切性)」を確認したいと考えている。この監査目標に対して、最も「関連性」のある監査手続はどれか。
A. 承認されたすべての注文書を抽出し、それに対応する請求書の日付と金額が一致しているか確認する。
B. 支払済みの請求書のサンプルを抽出し、それに対応する検収書(受領記録)の日付が、請求書の支払日より前であることを確認する。
C. 倉庫の在庫リストを抽出し、実地棚卸を行って、帳簿数量と実数が一致しているか確認する。
D. 主要な仕入先に対して確認状を送付し、買掛金の残高が正しいか照合する。
【解答・解説】
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正解(B): この手続きは「モノが届いた(検収)」あとに「支払い」が行われているかという、時間の順序(関連性)を直接検証しています。
不正解(A): 注文書と請求書の一致は「価格の正確性」や「発注の正当性」には関連しますが、「モノが届いたか」の確認にはなりません。
不正解(C): 実地棚卸は在庫の「実在性」には関連しますが、支払のタイミングが適切だったか(プロセス)の検証には関連しません。
不正解(D): 確認状は買掛金残高の「正確性・実在性」には非常に有効ですが、過去の個々の取引において「受領前に支払ってしまったか」を検証する手続きとしては直接的ではありません。
Q3. GIAS(グローバル内部監査基準)における証拠の「十分性(Sufficiency)」の解釈に関する記述として、最も適切なものはどれか。
A. 十分性とは、事実に関する絶対的な確信を得るために、入手可能なすべての情報を検証することを意味する。
B. 証拠の信頼性が低い場合でも、大量の証拠を集めることによって、十分性を補完し監査結論を正当化することができる。
C. 十分性とは、慎重な情報利用者(prudent person)が監査人と同じ結論に達することができる程度に、事実に基づいた適切な量の証拠がある状態を指す。
D. 内部監査人は組織の内部者であるため、外部監査人と比較して、結論を支えるために必要な証拠の量は少なくてよいとされる。
【解答・解説】
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正解(C): 「十分性」は量の尺度ですが、その基準は「慎重な人(Prudent Person)を納得させられるか」という客観的な合理性に基づきます。
不正解(A): 監査において「絶対的な確信(Absolute assurance)」を得ることはコストと時間の制約上不可能であり、求められていません。目指すのは「合理的な確信」です。
不正解(B): 信頼性の欠如(質の問題)は、単に量を増やすだけでは完全には補えません。信頼できない情報をいくら集めても、説得力のある結論にはなりません。
不正解(D): 内部監査人であっても、専門職としての客観性を担保するために、結論を支えるのに十分な証拠が必要です。外部監査人より少なくてよいという基準はありません。
