【CIA試験講義】パート2 セクションA-7-b: 人的資源の決定
テーマ:最強のパーティー編成 ~「誰」が戦うかで勝敗は決まる~
セクションA-7-bは、個々の監査業務を成功させるために、どのようなスキル(適格性)と経験を持った監査人を、何人割り当てるべきかを決定するプロセスです。
いくら完璧な監査計画書(地図)があっても、それを実行するメンバー(登山隊)が素人ばかりだったり、装備(スキル)が足りなければ、遭難してしまいます。
試験では、「スキル不足への対処法」や「独立性の確保」という観点から、適切なスタッフィング(人員配置)の判断が問われます。
1. 導入:監査品質は「人」に依存する
内部監査の品質は、最終的に「現場に行った監査人の能力」に依存します。 計画策定段階で、リーダー(インチャージ)は以下の問いに答えなければなりません。
- 能力(Competence): この複雑なデリバティブ取引を理解できる知識があるか?
- 経験(Experience): 新人だけで対応できるか? ベテランの監督が必要か?
- 客観性(Objectivity): この部署に「元・課長」だった監査人を派遣して大丈夫か?
2. 必要なスキルセットの特定
監査テーマによって、求められる「武器」は異なります。
- 財務監査: 会計知識、不正検知スキル。
- IT監査: システムセキュリティ、データ分析、プログラミング知識。
- コンプライアンス監査: 法律知識、業界規制の理解。
★集団としての適格性(Collective Proficiency):
GIASでは、監査人一人がすべての知識を持っている必要はないとしています。「チーム全体として」必要なスキルが揃っていればOKです。 (例:会計に強いAさんと、ITに強いBさんを組ませる。)
3. スキルが不足している場合の対応(最重要)
もし、内部監査部門内に、今回の監査に必要なスキル(例:高度なサイバーセキュリティ知識)を持った人が誰もいなかった場合、どうすべきでしょうか?
- 外部リソースの活用: 外部の専門家(Subject Matter Expert)やコンサルタントを起用する(コソーシング)。
- ゲスト監査人の活用: 社内の他部門(例:IT部門)から専門家を借りる。
- 注意点: ゲスト監査人が自分の出身部署を監査しないよう、独立性に注意が必要。
- 教育・訓練・監督: スキル不足が軽微であれば、十分な監督(Supervision)とOJTの下で実施する。
- 辞退(最後の手段): どうしてもスキルが確保できない場合、適当にやってはいけません。「実施不可能」として業務を辞退するか、範囲を縮小します。
4. スタッフィングにおける「客観性」の阻害要因
人的資源を割り当てる際、最も警戒すべきは「利益相反(Conflict of Interest)」です。
- 回転ドア人事のリスク: 「先月まで経理課長だった人」を「経理部の監査」に割り当ててはいけません。
- GIASのルール: 自分が以前担当していた業務の監査を行う場合、通常は最低1年間の冷却期間が必要です。
- 個人的関係: 「被監査部門長が配偶者である」監査人を担当から外す。
まとめ
セクションA-7-bのポイントは、「適材適所と独立性の両立」です。
- 難易度に見合ったスキルを持つ人をアサインする。
- 足りなければ外から連れてくる。
- ただし、「身内(元同僚など)」には監査させない。
このパズルを解いて、最適なチームを編成するのが計画段階の重要なタスクです。
【練習問題】パート2 セクションA-7-b
Q1. 内部監査部門は、新たに導入されたAIシステムの監査を計画している。しかし、現在の内部監査スタッフにはAIや機械学習に関する十分な専門知識を持つ者が一人もいない。CAE(内部監査部門長)がとるべき対応として、GIASに基づき最も適切なものはどれか。
A. 監査人は「行いながら学ぶ(Learning by doing)」べきであるため、既存のスタッフを割り当て、監査期間中に独学で知識を習得させる。
B. AIシステムの専門的知識は必須であるため、外部の専門家(サービスプロバイダー)を起用して監査チームを支援させる、または監査業務の一部を委託する。
C. 専門知識がない以上、監査を実施することは不可能であるため、AIシステムは監査対象外とし、リスク評価から削除する。
D. IT部門の開発担当者を監査チームに招き入れ、彼に自分自身が開発したプログラムのレビューを行わせる。
【解答・解説】
正解と解説を表示
正解(B): 内部監査業務を行うには、適切な知識・スキル(適格性)が必要です。内部にリソースがない場合、無理に実施したり放置したりせず、外部の専門家を活用(コソーシング)して「集団としての適格性」を確保するのが適切な対応です。
不正解(A): 基礎的な知識であれば学習も可能ですが、高度な専門領域(AIなど)において、知識ゼロの状態からOJTのみで対応するのは「専門職としての正当な注意」に欠けます。
不正解(C): リスクが高い領域を、監査人の能力不足を理由に除外すべきではありません。
不正解(D): 専門知識は補えますが、自分で作ったものを自分で監査することになり、「客観性」が著しく損なわれます。
Q2. 内部監査の現場責任者(インチャージ)は、次回の「購買部門」の監査に向けてスタッフの割り当てを行っている。候補者の中に、3ヶ月前に購買部門から内部監査部門に異動してきたA監査人がいる。A監査人は購買業務に精通しているため、適任のように思える。この場合の判断として、最も適切なものはどれか。
A. A監査人は業務知識が豊富であるため、インチャージとして監査チームを指揮させ、古巣の同僚を厳しく監査させる。
B. A監査人は購買部門での実務経験があるため、監査チームの一員として参加させるが、客観性の阻害(利益相反)を避けるため、A監査人が以前担当していた業務のテストや評価には関与させないよう配慮する。
C. A監査人は社内の人間関係を知りすぎているため、いかなる監査業務にも参加させるべきではない。
D. 異動から3ヶ月経過していれば客観性の問題は解消されているため、制限なく全ての業務を担当させる。
【解答・解説】
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正解(B): 内部監査人が以前担当していた業務を監査する場合、客観性が損なわれる(自分の過去の仕事を正当化しようとする)リスクがあります。GIASおよび実務慣行では、通常1年程度の冷却期間を置くか、当該業務の評価から外すことが求められます。ただし、知識自体は有用なので、直接の評価者ではなくアドバイザー的な役割や、関与していないエリアの担当として活用することは可能です。
不正解(A): インチャージとしての指揮や直接の評価は、客観性の欠如により不適切です。
不正解(C): 購買部門以外の監査や、購買部門内でも自身が関与していなかった業務であれば参加可能です。
不正解(D): 一般的に3ヶ月では客観性の阻害要因は解消されたと見なされません(通常は最低1年)。
Q3. 個々の監査業務において、経験の浅いジュニア監査人をチームに含める必要がある。監査品質を維持しつつ、彼らの成長を促すために、現場責任者が計画段階で考慮すべき「人的資源の管理」として最も適切なものはどれか。
A. ジュニア監査人にはリスクの低い単純な作業(コピーやデータ整理など)のみを割り当て、判断を伴うテスト手続は一切させない。
B. 経験不足を補うために、シニア監査人による指導・監督(Supervision)の時間を通常よりも多く見積もり、レビュー体制を強化する。
C. 予算削減のために、ジュニア監査人にシニア監査人と同等のノルマを課し、自力で解決するよう指示する。
D. ジュニア監査人のミスは監査報告書の品質低下に直結するため、重要な監査証拠の入手プロセスからは除外する。
【解答・解説】
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正解(B): 監査チームのスキルレベルにばらつきがある場合、それを補うのは「監督(Supervision)」です。経験の浅いスタッフを起用する場合は、計画段階で上位者による指導やレビューの時間を十分に確保することで、監査品質を担保しつつOJT(教育)効果を得ることができます。
不正解(A): 単純作業だけでは人材育成にならず、モチベーションも低下します。適切な監督下でテストを実施させるべきです。
不正解(C): 適切な指導なしに放置することは「正当な注意」の欠如であり、監査失敗のリスクを高めます。
不正解(D): 適切な監督があれば、重要な手続も担当可能です。
